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どうせ転生するなら空気になって百合カップルを見守りたい!  作者: 二橋 千手
第一章 メイドさんって……いいよね……。
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5 百合を邪魔する者は××する、それが我々のルール!



 シルヴァリア様はあたしとレイを引き連れ、侯爵家内をゆく。

 湯上がりのお嬢さまは黒のドレス姿。

 雪のような肌はわずかに上気じょうきし、ドレスとのコントラストが素晴らしい!!


 そしてドレスの胸元はレース仕立てで、シルヴァリア様の巨峰きょほうがチラリと見え――殺気!

 ……ごめんなさいレイ、だからそんなA級スナイパーみたいな目であたしを見ないで……!



 ……とまあ、レイとは無言のコミュニケーション(?)を成立させてたんだけど。

 道中、会話はまったくなかった。


 お嬢さまはなにやらずっと考えこんでいる様子だったし。

 レイはそんなお嬢さまを心配そうに見やりつつも、ヘタに声をかけるようなマネはせず。

 ……となると自然、あたしもおとなしくしていることになる。




 ……と、シルヴァリア様が大きな扉の前で立ち止まった。

 どうやらここが目的地らしい。

 シルヴァリア様は、ふう、とひとつため息をつくと、あたしに向かって問いかける。


「……エリア」

『なんすかお嬢さまー?』

「……これからお会いするのは、わたくしの父上……現・フィンテーヌ侯爵閣下です。失礼のないように」

『りょーかいっす!』

「……その軽い返事を聞いていると、とてつもなく不安になるのですが……。まあいいです」


 お嬢さまはいったん言葉を切り、続ける。


「……そして、先ほども申しましたように、エリアの力を見せてもらうことになるかもしれません。……お願い、できますか?」



 ――ここまでずっと、りん、とした雰囲気をただよわせていたお嬢さまが、不意に見せた不安げな顔。

 美少女にこんな顔でお願いされて断れる奴がいるだろうか、いやいない!



『まっかしといてください! お望みとあらば、その侯爵閣下とやらを即座に亡き者に――』

「しなくていい! しなくていいですから!!」

『あっははー。ジョーク、ジョークっすよ!』

「冗談にしても、言っていいことと悪いことがありますわ……!」

『いやー、お嬢さまが笑顔になってくれてよかったです!』

「これはどちらかというと苦笑いですけれどね……」


 ともあれ笑ってくれたからいいだろう。少しは緊張もほぐれただろうし。


 ……ただなあ。

 あたしのカンでは、その “旦那様” とやらは……。





***






「……父上。シルヴァリア、お召しにより参上しましたわ」


 入った先は、執務室……とでも言えばいいのかな?

 やたらと広い部屋で、正面には大きな窓。

 その前に置かれた机には書類が積み上がっていて。

 そこに座っている人物こそ――。



「……うむ、ご苦労」



 お嬢さまの父親、フィンテーヌ侯爵閣下、とやらなのだろう。

 ……年齢は50代半ばぐらい?

 シルヴァリア様に比べるとくすんだ銀髪をオールバックにまとめた、中肉中背のおっさんだ。

 ……ただ、その目付きは鋭く、侯爵家の当主というだけあって威圧感がある。

 そして、どことなく嫌な感じも……。



「……シルヴァリア、息災そくさいのようで何よりだ」

「……お父上もお元気なようで何よりですわ」



 お嬢さまと侯爵閣下の淡々としたやりとり。

 ……これだけでも、2人の仲が冷え切っていることがわかる。

 それだけの、空気感だった。



「また “精霊の森” などに向かったと聞いて心配していたぞ。お前の身に何かあったらと思うと――」

「……ご心配、痛み入ります。ですがご安心を、わたくしにはとても優秀な護衛がいますので」

 お嬢さまはチラリと背後に控えるレイを見やる。

 

 ……わかる! レイは表向き平静をよそおっているけど、お嬢さまから寄せられる信頼に大喜びしていることが……!!

 

 険悪ムードの中の一服の清涼剤を楽しんでいるうちにも、2人の会話は続く。



 ……そして。


「……そうか。

 ……しかし、以前から何度も言っているように、お前もそろそろ年頃だ。

 いい加減、許婚いいなずけの1人ぐらい――」


「……父上。わたくしも何度も申し上げておりますわよね? ……まだ許婚など持つつもりはない、と」


 ――その会話を聞いて理解した。

 



 侯爵閣下(この男)は、敵だ。




 ここまでの会話でだいたい事情はわかった、お嬢さまは婚約を押しつけられそうになってるんだ!



 ここまでの百合美少女に無理矢理に男をあてがおうとするとは……なんという冒涜ぼうとくか!!

 百合の神からの天罰がくだるぞ貴様ァ!!!


 ……かくなる上はしかたがない。

 この愚かなる異世界人めに、誇り高き百合の守護者! “風の大精霊” たる我が、ことわりを教えてやろうではないか……!!




 ひそかに闘志を燃やしているあたしに、気付いたのかどうなのか。

 お嬢さまが告げる。


「……父上。その件については話がついておりましたわよね? わたくしが相応の実力を示せば、婚約をせずともよい、自由を認める……と」

「……ああ、確かにそうは言ったが……」

 歯切れの悪い侯爵閣下に構わず、シルヴァリア様はあたしに問いかける。



「“風の精霊” たるエリア様よ……。わたくしとの契約に従い、そのお力の一端いったんを示してはいただけませんか?」




 ……その言葉を聞いた瞬間の侯爵の顔は見物みものだった。

 どこか余裕のある顔つきだったのが、とたんに蒼白そうはくになっていく。

 ……人間の顔って、本当にこんなに青くなるんだなあ、と感心するぐらいに。



「……ま、待てシルヴァリア! か、風の精霊とはいったい……!」


 絶賛動揺中の侯爵に、お嬢さまは不敵な笑みをたずさえて答える。



「申し遅れましたわ。……こちらにおわす御方おかたは、高位精霊たるエリア様。……わたくしは、精霊との契約に成功したのです」


「何の冗談だ、これは! ひ、人型の精霊など、この世にそんな、存在するわけが……!」


 ……あー、うっとうしい。

 いい加減、この見苦しいおっさんをぶっ飛ばしてやりたくなってきたところだ。

 この際だ、一発ガツンと派手にかましてやろう!!






『……愚かな。我の事を疑うか、人間よ』


 可能な限り、重々しい口調で。


『よい。そこまで言うのであれば、我の力を見せてやろう』


 魔力を全開にし、プレッシャーを与えながら。


『……もっとも、貴様の命は保証できんがの……!』


 ……瞬間。

 

 ゴウ、と部屋の中を暴風が駆け抜けた。




 書類がバサバサと宙を舞う。

 扉や窓、棚が壊れそうなほどガタガタ鳴り。

 壁に飾られていた剣や盾が、ガチャン! と派手な音を立てながら落下する。


 レイすらも警戒態勢を取り、侯爵は青を通り越した真っ白な顔になりながらも。


 シルヴァリア様だけは泰然たいぜんと立ち尽くしていた……。




 ……こっわぁ〜! あたし、相手を威圧しようとしただけでこんなことになんの!?

 しかしまあ、ここまできたら行くところまで行くしかないか!




『……さあ、何が望みだ?

 烈風で八つ裂きにされたいか? 

 ただ暴風に身を任せ、そこの窓から天上へと旅立ちたいか?

 それとも――』




 ……と、そこでシルヴァリア様の手があたしを制止した。



「……エリア様。そこまでに」

『……むう。そこな男を消し飛ばしたりしなくてもよいのか?』



 許可さえ出れば即時実行するよ!

 百合を邪魔する男は死すべし! 死すべし!

 百合オタの掟、第一条一項に書いてあることだ!!



 しかし、シルヴァリア様は首を横に振り。


「……あなた様と契約を結んだのは、そのようなことをしていただくためではありませんもの」

 

 そしてシルヴァリア様は侯爵を見やり――。


「……それで、父上。……わたくしの実力、お認めいただけますか?」


 ……その言葉に、侯爵はガクガクと頷いた。





***






 部屋を出て、一息。


『……ふう〜〜〜』


 それに対して、お嬢さまもあきれたように。

「ふう。……エリアがあそこまでやるとは思いませんでしたわ」

『いや〜、ついイライラしちゃって☆』

「……そんなに明るい笑顔で言うことではありませんわね……」


 ただ、お嬢さまは気疲れしたように笑っていて。

 その笑顔はとても――。




「………………」


 ……気付けば、レイからも感謝するような視線が向けられていてむずがゆい。

 それはそうか、レイはずっとお嬢さまのことを心配していたんだろうけど、メイドという立場では婚約などという話には口を挟めないはずだ。

 ずっと気を揉んでいたんだろう……。


 ……ともあれ、これでレイの好感度も少しは上がったかな?






 ……さて、それでは次回!

 『侯爵家にうごめく怪しげな影!?』

 そして、ついにレイが……?

 待て次号!!






明日も更新します!

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