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どうせ転生するなら空気になって百合カップルを見守りたい!  作者: 二橋 千手
第一章 メイドさんって……いいよね……。
3/7

3 メイド×お嬢様……王道っていいと思いません?



 シルヴァリア様との契約が済んだあと。

 近くの木陰から、1人の人影が現れた。


「……お嬢様、あれほど先走らないように、とご注意申し上げたはずですが」

「レイ!? ご、ごめんなさい、つい……」

「お嬢様はいつもそうではありませんか! だいたいこの前も――」



 突然現れてお説教を始めたこの女性。どうもシルヴァリア様のメイドっぽい?

 というか、恰好かっこうは完全にミニスカメイドだ!

 さすがに生足なまあしではなく、ストッキング的なものを着用しているけど……、森の中ではむしろミニスカのほうが動きやすいのか? どっちにしろお嬢さまのドレスよりかはマシか……。

 上半身は半袖にロンググローブを着用し、上腕じょうわんだけがわずかにのぞいている。

 イイね! フェチごころをくすぐるよ!


 浅黒い肌で、首元にはチョーカーをつけ、もちろんメイドさんが頭につけるやつ(ホワイトブリムだっけ?)も装着済み。その白さが黒い短髪に映えている。

 瞳も黒いし、肌の色を除けばわりと日本人っぽい?

 そしてこのメイドさんも文句なしに美人だった……! 胸は……その、アレだけど。

 でも隠れて見えないけど……スタイルは良さげだし、なんとなく美脚っぽい気もする……?


 ともかく、シルヴァリア様と並ぶと非常に映える! メイドさん……レイのほうが頭1つ分くらい背が高いのも、また……!



 ……お嬢さまはずーっと説教されてるけど。あたしはほったらかしだ。

 レイから見て、あたしは脅威じゃないと判断されたんだろう。


 ……実は、シルヴァリア様とのやりとりの最中もずっと気配を感じてたり。

 お嬢さまに何かしようとしてたら絶対に殺されてた……! そんな気配してる、この人絶対に強い!

 ……精霊になったことで、そういうのもなんとなく分かるようになったらしい。たぶんレイはお嬢さまの護衛的なものなんだろう。

 お嬢さま、「ド・フィンテーヌ」とか言ってたし。貴族なんだろう……というか、知識の中にある。侯爵家、だそうだ。うん、偉いほうの貴族だ、そのはず。




 ……でも、そんなことはどうでもいい。



 問題は、このメイドさんから感じる百合の波動だ!


 だって、めっちゃお嬢さまのこと心配してたのが伝わってくるし! それが行き過ぎてあたし眼中がんちゅうにないし!

 あたしの百合ゆり(ぶた)の鼻がぎ分けてるんだ、トリュフよりもかぐわしい百合の花の香りを……!!






「――というのがお嬢様に申し上げたいことです、お分かりいただけましたか?」

「はい……。いつもごめんなさい、レイ」

 お、説教が終わったらしい。


「……お嬢様、それで、あちらの方は?」

 おっと!

『あたしをお呼びですかなー? メイドさん!』

「……この方はエリア。わたくしの……契約精霊です」

「なっ……!」

 おー、クールそうなメイドさんが驚きの表情を浮かべてるのはいいなぁ……。

 眼福がんぷく眼福……。


「お嬢様……それは、おめでとうございます。しかし、その、対価は……」

 ああ、その心配か。

 過保護……ってわけでもないかな、何を要求されたのか分からないんだから。


『シルヴァリア様の魔力。あと名前を付けてもらったよー』

「え……? それだけ、ですか?」

「……ええ。エリアはとても無欲なの」

 いやー、そんなこと言われると照れるなー、本当は下心したごころ満載(まんさい)なのに!



 ……って、あ、レイがめっちゃ警戒した目でこっち見てる。何か裏があるんじゃないか……と疑ってるんだろう。はい、裏はありまぁす!

 しかし、レイはついと目を逸らした。


 ……でも聞こえる、「とりあえずは見逃してやる」っていう心の声が……!

 「お嬢様に手を出したら八つきにするからな」って無言で言ってるぅ!




「……ともかくお嬢様、用件が済んだのですから引き上げましょう。長居は危険です」

「そうね」

 そう言って歩き出す2人にとりあえずついていく。



 ……そういえば。


『ねえお嬢さま』


 シルヴァリア様に話しかけると、レイにギロリと睨まれる。あんまりなれなれしくするな、ってことだろう。


 ……いいわぁ〜、このほのかな嫉妬の香り! 「私のお嬢様なのに……」とでも言いたげな、かすかな独占欲!

 いい百合ですなぁ……。

 でも大丈夫、あたしわきまえた百合豚だから! 何だったら2人をくっつけるのに全面協力する用意もあります!!



 ……っと、話がそれた。


「……なんですの?」

『けっきょくお嬢さまの目的って何だったの?』

 まあ、なんとなく見当はつくけれども。


「……強くなることです」

『強くなる?』

「ええ。……わたくしは強くならねばならないのです」


 その思いつめたような顔。

 ……これ絶対、なんかワケありだな……。


「お嬢様……」

 レイも心配そうにシルヴァリア様を見やっている。

『な〜るほど、それで、この風の精霊たるあたしとの契約を求めたわけですな〜?』

 “大” 精霊ってことはわざわざ言わなくてもいいだろう。


「ええ、そうなりますわね。……高位精霊との契約を成し遂げたことは、わたくしの実力を証明するに充分なはず。……もしかしたらエリアに力を振るってもらうこともあるかもしれませんが、その時は――」


『OKまっかせといて!』


「早っ! 相変わらず返事が早くて軽いですわね!」


 だってさあ、だってさあ、お嬢さまにはこれから存分にゆりゆりしてもらわなきゃいけないんだよ?

 なにかその障害になりそうなものがあったらぶっ飛ばさずにいられようか、いやない!!



『シルヴァリア様の邪魔をする奴はぜーんぶまとめて消し飛ばすから! 安心して!』

「逆に安心できませんわ!」

『まーまー、落ち着いて。ともかく、あたしの力が必要になったら言ってよ』


 百合を邪魔するものは極刑きょっけい、これ常識!




 ……とまあ、話しながら歩いていると、ピクリ、とレイが反応した。

 あたしにも何が起きたかわかる――。


「お嬢様――」『魔物の気配だよっ!』


 魔物……大量の魔力により巨大化した動物やら、生き物を食べるようになった植物やら、動き出した無機物やらの総称。

 連中の特質としてはおおむね狂暴で、特に――人を襲う!


「……レイ」

「中型の魔物と思われます。確認できた気配は2つ」

「逃走は?」

「相手の速度からして難しいかと」

「そう。……では迎撃げいげきなさい」

「は。お嬢様は私の後ろに」


 ……くぅぅ〜、いいねぇ、このお互いを信頼し尽くしたやりとり!

 ってそんなこと言ってる場合じゃなかった。



『ねえねえ、レイさんや』


 前に出て構えるメイドさんに声をかける。


「……なんだ?」

 うおー……ゾクッとするような目付き……。まるで信頼されてないなこりゃ。


『片っぽはあたしがやってもいーい?』

「……構わないが、決してお嬢様の方には通すな。そのような失態をしたら……切る」

 そう、小声でボソッとつぶやかれる。

 ……ヤベーよこのメイドさん! 目がマジだよ!!


『りょーかい。シルヴァリア様には指一本触れさせないよ〜?』


 ここはお嬢さまにあたしの実力を見てもらうチャンス!

 ……あとね、レイからも少しぐらい信頼されないと動きづらそう……。

 なんとか仮想敵から、せめて気に入らない奴ぐらいにまではランクアップしないと!




 さてと。

 こっちに突進してきてるのは……ワイルドボア?

 まあ、要はデカいイノシシみたいなもののようだ。魔力によって得た力をすべてパワーとスピードに振っているから強くはあるけど、魔術を行使してくるような知能の高い魔物じゃない。

 たぶん慣れてないあたしでもやれるはず!

 ……ってか、できないとレイにられる。



 相手を目視もくしした瞬間、ぶっ放す!


風弾ふうだん!』


 魔術っていうのは本来、詠唱やら陣を描くことやらをしなきゃいけないんだけど、充分に鍛錬たんれんを積んだ人間や強力な魔物、……そしてあたしたち精霊は、“行使すること” を念じるだけで魔術を発動できる。

 特にあたしはなんたって “風の大精霊” なので、風の魔術ならばほぼ無尽蔵むじんぞうに撃ちまくれる。

 もちろん、風弾……風を球にしてぶつける魔術も問題なく発動し――。




 ワイルドボアは爆散した。




『……へっ?』


 散乱した臓物、血まみれの毛皮……猟奇りょうき殺人現場みたいになってる?!

 “風弾” ってのは本来、初歩も初歩、風の魔術を学ぶ人間が最初に練習するような魔術で……。習得が簡単なのと、発動が早いこと以外にとりえがないようなものなのだ。

 少なくとも、ワイルドボアを一撃粉砕(ふんさい)するような威力は出ないはず……。あたしの知識ではそうなってるし、これは試し撃ちのつもりだったのに……!


 そんな状況なので、もう1頭のワイルドボアも驚愕きょうがくしたような雰囲気をただよわせている。

 ただ、イノシシは急には止まれない――!


「……地の底よりでよ、影に生きる者。その手によりて生者をいざなえ――束縛の闇」


 そして、レイの詠唱はとっくに完了していた。

 突如とつじょとして地面から湧き出た黒色の触手しょくしゅ

 それに足を取られ、ワイルドボアの突進はキャンセルされる。

 護衛メイドがその隙を見逃すはずもない――。


「……シッ!」


 一息に距離を詰める。

 そしてもがくワイルドボアに向かって――




 その刃を、振り下ろした。




「ブォォォーーーーッ! ブッ……」


 たったそれだけの断末魔だんまつまを残し。

 その魔物はいともたやすく討伐された――。






***






『こ、こわぁ〜……』


 いや、自分の魔術の威力にもびっくりしてるけど!

 それ以上にレイが怖い……!


 やったことは実に単純、魔術で足止めした隙に叩き切る、それだけなんだけど!

 あれだけのイノシシの首、一撃で落とせるもんなの!?


 ……いや、正確には落としてはいないか。まだ胴体に繋がってはいる。

 ただ、きっちり頸動脈けいどうみゃく……、いや脊髄せきずいか? ともかく、その辺を確実に断ち切って絶命させたんだろう。

 よくそんな短い刃物でそんなことできるな?! てかそもそもその暗器みたいなやつどっから出した!?

 ヤッバイわ〜……さすがお嬢さまの護衛……。


 と、そんなあたしに構うことなく、レイはその短刀でワイルドボアの首元をえぐり、死亡を確認した。

 そして、あたしが吹き飛ばした方のワイルドボアを一瞥いちべつし、さらに用心深く周囲を見渡した上で……ようやく、警戒を解いたようだ。お嬢さまのほうへと向かってる。



「……ご無事ですか、お嬢様」

「ええ。いつも通り、あなたのおかげでね」

「もったいないお言葉……」

 その場に膝をつくレイ。


 けどあたしには見える……シルヴァリア様じきじきのお褒めの言葉に、忠犬レイが尻尾をぶんぶん振って喜んでいる姿が……!

 いいぞもっとやれ。



 けど、そんなあたしの願いとは裏腹に。

 お嬢さまはこちらに向かって歩いて来て……?


「あなたもすごいわね、エリア! あんな威力の “風弾” なんて初めて見たわよ!」

『いや〜、それほどでも〜。……って、ちがーーーう!』

「な、何よいきなり」


 なんたる失態か! あたしが妙に活躍しちゃったせいで、2人の間に現れていた百合百合しい空間がもう解除されてしまったじゃないか! あたしのバカ!!


 ……とはいえ、過ぎてしまったことはしかたがない。反省は今後に活かそう。



『……コホン。失礼しました、お嬢さま。ご満足いただけましたか?』

「……あなたの言動をいちいち気にしていたらキリがないわね」


 シルヴァリア様は、はぁ、とひとつため息をついて続けた。


「でも、やっぱり精霊の力は興味深いわ。

 無詠唱で、なおかつ初級の魔術だったというのにあれだけの威力……。

 魔力が人間より多いから、というのは間違いないだろうけど、それだけであそこまで効果が上がるものかしら?

 もしかして人よりも効率のいい魔力伝達方法が……」


 なんだかブツブツつぶやいていらっしゃる。

 うすうす思ってたんだけど、やっぱりシルヴァリア様は研究者気質なんだろうか?



 ……そして、ワイルドボアを黙々と解体しながらも、こっちをチラチラ見てくるメイドさんも気になる。

 ワイルドボアは肉も毛皮も売り物になるほか、魔物には必ず “魔石” っていうのがあって、それも高く売れるらしい。だから、解体してること自体は何も驚くことじゃないんだけど……。


 レイはお嬢さまとの会話が終わったあと、しょんぼりしながらそっちに向かっていってて……嫉妬の目線がすごい。


 「お前ばっかりお嬢様に興味を持たれやがって……!」っていう心の声が聞こえてくるぅぅぅーーー!!

 ごめんなさいごめんなさい!




 ……でもこれ、百合的にはオイシイな?


 ずっとお嬢さまのそばにいて、信頼関係をはぐくんできたはずなのに、ポッと出の女に関心を奪われて……! でもメイドという自分の立場上、その不満は決して表には出せず! 悶々(もんもん)とするほかないメイドさん!!




 あたしの大・好・物だぁぁぁぁぁぁ!!!




 でも安心してほしいレイさん、あたしはただの当て馬だ!

 決して邪魔をするようなマネはしない……百合ゆり(ちゅう)の誇りにかけて!


 ……だから、その殺気がこもったジト目はやめてほしい……マジで。






 戦闘メイドとのファーストインプレッション、これにて完了!

 つづく!






明日も更新します!

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