2 捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもので。
次に目が覚めると、そこは深い森の中だった。
『あたた……なんか頭が痛い……』
いや、でもおかしいな。
『確かに自分の姿は見えない……でもなんか “頭が” 痛い気がする……!』
そもそも。
『精霊に頭ってあるのか……?』
説明通りなら、あたしは “風の大精霊” とやらに転生したはず。
不可視の存在とは聞いてたけど。
『……お?』
疑問に思っていたら、何もなかったはずの場所にうっすらと人の腕らしきものが現れ……。
『……ってこれ、あたしの腕か』
なるほど、実体化することもできるらしい。
見下ろせば、なんか白い貫頭衣? みたいなものに身を包んだ身体が。
……でかいな。前世よりもあるわ、何がとは言わないけど。
『確かに……神様っぽい?』
顔は見えないが、この感じならちゃんと頭もあるんだろう。
というかこれで頭だけなかったらホラーだよ……!
デュラハンもどきじゃねーか!
美人かどうかは知らないけど、まあそれっぽく見えればOKだ。最悪ずっと姿を消してればいいし。
というわけで状況を整理。
頭の中には確かに色んな知識が詰まっていた。頭が痛かったのはこれのせいか?
ともかく、基礎知識的なものを……、いや、別にいいか。必要になったら思い出せば。
ここがどこの国か〜、とかどーでもいいし。
それよりも、だ。
『百合は……百合はどこだ……』
あたしは百合を求める百合ゾンビのごとく歩きだした。
***
森の中のひらけた場所にたどり着いたあたし。
そこであたしは……!
『おお……ついに、ついに……!』
あたしは百合に遭遇した……!
『……って、そっちの百合じゃねーよ!』
眼前には咲き誇る純白の百合……。植物のほうの。
前世でいうところのヤマユリあたり? いや、異世界だから厳密には違うかもしれないけど、あたしには百合に見える。
百合の群生地なんだろうか? キレイだよ、キレイなんだけど……。
『そっちじゃないんだよ〜!!!』
あたしの叫びはむなしく響き渡っていった……。
しかし、捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもので。
ガサガサと草をかきわける音がしたかと思うと、
「なんですの今の声は!」
そう、背後から声をかけられる。
ふと、振り向いたあたしは。
そこで、運命に出逢った。
そこにいたのは少女。
身長は160cmいかないぐらい?
その娘はこんな森の中だというのにドレスっぽいものを身に着け、いかにも高貴な雰囲気を漂わせている。
なかなかスタイルも良さそうで、特に胸部の発育は……。(ゴクリ)
艶やかな銀髪はロングのストレートで、陽の光に映えて妖しげな輝きを放っている。
顔立ちも非常に整っており、スッと通った鼻筋に、美しい白い肌。そして意志の強そうなツリ目の紅眼が、髪の色とあいまって鮮やかなコントラストを形成している。
総括すると、一寸の世辞もなく絶世の美少女だった。
……ただ、あたしが反応したのはそこではなく。
(なんだ……これ! これは……いったい……!)
その美少女から醸し出される、
(この娘……この娘は絶対……!)
そのオーラ――!
(この娘、絶対に女たらしだ!! しかも……総受け体質!! 間違いない……!)
そう、彼女は、圧倒的なまでの百合オーラを放つ美少女だったのだ!!
***
「……やっと! やっと見つけたわ!」
はっ、とその美少女の声で我に返る。
少女はその瞳を力強く輝かせ、グイグイとこちらに詰め寄ってくると、
「あなた……精霊なんでしょう!? しかも人型を取れる、かなり高位の存在!」
と、あたしをいきなり問い詰めはじめた。
そういえば、大精霊ってとんでもなく希少な存在らしいし……。驚かれるのもわからんでもない。
『あ〜、まあ、ちょっと落ち着いて、ね?』
「しゃ、しゃべった……!」
落ち着いて、と言ったらさらに驚かれた。
『あれ? しゃべったらおかしい?』
「おかしいわよ! 精霊術を使わずに意思疎通できる精霊なんて……!」
精霊術……精霊と意思を交感したり、使役したりすることのできる魔術の総称だ。
「いやでも、人型を取れるぐらいなんだから、人の言語程度なら理解していてもおかしくない……精霊が言葉を発さないのはその必要を感じていないからだという説もあるし……」
少女はブツブツと何事かをつぶやいている。
どうも研究者気質っぽい?
ともあれ、だ。このまま眺めててもいいんだけど、いちおう会話を試みてみよう。
この娘こそ、今後のあたしの幸せ百合ライフにおいて重要な位置を占めている気がしてならない……!
『お〜い、もしも〜し』
「……え? あ、失礼いたしましたわ、精霊様」
『いや、別に構わないよ。……で、何の用?』
「ああ……そうでしたわね……」
少女はひとつ息を吸う。
そして、思い切ったかのように口を開いた。
「……高位の精霊様とお見受けいたします。
わたくしの名はシルヴァリア・ド・フィンテーヌ。
……あなた様との契約を望みます! 条件を!」
契約。
それはこの世界において、人ならざるものの力を借りるための手段。
高位の存在に対して代償を支払うことで、その協力を取り付ける……そんな魔術。
法外な対価をふっかける存在もいるらしいんだけど、あたしは。
『犬とお呼びくださいお嬢さまぁぁぁ!!』
思いっきり土下座をキメた!
「……はぁぁぁ?! な、何をおっしゃってるんですの精霊様!」
なんと言われようが、この頭は……上げないッ!
私の百合オタとしての勘が言ってるんだ……シルヴァリア様についていけば素晴らしい百合が見られるはずだと!
そのお礼ならば契約など安いもの! むしろこっちが礼をしたいぐらいだ!!
「ちょ、あなた本当に精霊様なんですの?! まさか人間なんじゃ……って、でも仮契約がちゃんと成立してる!?」
『契約成立ですか! 一生ついていきますお嬢さま!』
そう、これで堂々と付いていって百合を観賞できる!
「まだですわ! これから本契約をしないと……!」
『OKですよ! どんとこーいです!』
「ですからあなた少しは考えなさいな! さすがに一切の対価なしというわけにも……」
おお、お嬢さまはマジメでいらっしゃる!
『じゃあ……シルヴァリア様の魔力をください。あたし、こんなでも精霊なんで』
魔力。魔術を使うための便利パワーで、あたしのご飯。本当は細かい説明が色々あるらしいんだけど面倒だから省略!
「魔力……わたくしのものでよろしければ。でもそれだけでいいんですの?
わたくしの魔力など、精霊様からすれば微々たるものでしかないのですが……」
『いいんですよお、ちょっとでももらえれば』
基本、周囲に漂ってる自然の魔力だけでご飯には困らない。まあ、人の魔力はおやつみたいなもんだ。
『でもそうだな……あとは、名前をもらえるかなー?』
「え、精霊様の名前をわたくしが、ですの?」
『お嬢さまが初めてのあるじっすからねー。自分で適当に名乗ってもいいんですけど、せっかくだから』
……本当は前世の名前もあるけど、それはあっちに置いてきた。
これからは新しい名前で生きてくんだ!
「精霊様のお名前……」
むむむ、と考えこむお嬢さま。
腕を組んで目を閉じて……美少女はこれだけでも絵になるなあ!
特に、腕でむにゅりと持ち上げられたおムネ様が素晴らしい……!
目の保養をしながら待つことしばし。
「……エリア様、というのはいかがでしょうか?」
『エリア……エリアね、うんOK!』
「軽っ! 軽すぎますわ、せいれ……エリア様! 高位精霊ってこんな存在だったのでしょうか……?」
『そんなこと言われてもなー。あたしも他の精霊知らないし? あ、なんだったら様付けもしなくていーよ?』
「エリア様!?」
どうも立てられるのは性に合わない。
『契約者と精霊って一心同体みたいなもんじゃん? そう気を遣わなくていーよ? こっちもテキトーにやるから』
あたしの言葉にシルヴァリア様はあきれた顔をして。
「ハァ……。分かりましたわ、エリア。……これでよろしい?」
『うん、バッチリだねー』
美少女はため息をつく姿すら絵になるなあ……。
こうして、お嬢さまとのファーストインプレッションは終わったのだった!
つづく!
この1週間で少し書き溜めが出来たので、明日からしばらくの間、毎日17時に更新しようと思います。
毎日更新チャレンジです! 期間はストックが尽きるまで!
また、別作品『ダンナに浮気されたので実家に出戻りしたら、幼馴染みの女子高生に押し倒された件。……と、その後。』が、先日完結いたしました!
下にリンクがありますので、まだお読みでない方はぜひ!