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弁慶の言う、黄泉がえりから後、怒涛のように世の中が動いた。

 以仁王が平家討伐の綸旨を出し、各地で源氏が立ち上がった。その中に九郎の兄、頼朝の姿があった。

 九郎は頼朝の元へ行くと言った。秀衡は止めた。ゆきのかはただ、寂し気にしていた。大天狗は何も、何も言わなかった。

 弁慶は、

「お呼びになりましたかな」

時宜よく、弁慶が月影に現れた。思い出していた頃の弁慶よりも幾分か年を取り、また、その顔には深い憂いが刻まれていた。それだけ時が流れているのだ。突然の訪いに秀衡は驚いたが、大天狗は笑っていた。

(大天狗様が導かれたか)

濡れ縁は大天狗が結界を張っていたはずだった。そのため、許しなくそこへ入ることは出来ない。弁慶が入って来たということは、許された者だという証だ。

 弁慶は秀衡の顔色を見て、一瞬眉を潜めた。何をか口にしようとしたが、

「一献」

大天狗に盃を差し出され、黙った。その意味を、そこに隠された言葉を、秀衡は聞かずとも分かる気がしていた。そして、静かに微笑んだ。

「九郎殿は、如何している」

大天狗が訊いた。弁慶は押し黙った。

「様々なことが、在り過ぎました」

沈黙の後、同じ事を口にする。言葉で語るには、あまりにも急激に、様々なことが起きた。その、同じ場所に、弁慶は居たのだ。


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