ゆきつもどりつ
「九郎殿!」
大天狗に連れられて元の館の庭へ戻ると、ゆきのかが見たことのない表情で駆け寄って来た。そのまま勢いで抱き着かれ、よろめくと、後ろから弁慶が支えた。
「御無事で何よりにございますな」
顔は笑っているが、肩に置かれた手が雄弁にその心の動揺を示していた。
「……すまぬ」
九郎はどちらへともなく呟いた。
その声を聞いて、ゆきのかがやっと離れた。涙を拭きながらどうにか笑顔を作っている。
「ゆきのか殿の結界から九郎殿を攫うとは、相手は余程の力の持ち主か」
秀衡が言うと、大天狗はふっと笑った。
「あの方に入れぬところなどこの国にはあるまい。まして、あの方より強い力の持ち主などおるまいよ」
「それほどか。恐ろしい方なのかな?」
秀衡が冗談交じりに言う。そうでないことを承知の上だ。大天狗は意味ありげに笑った。
「九郎殿が無事に戻られたことが、何よりの証と思うがな」
「然り、然り」
秀衡も笑った。
「さ、九郎殿。まずはお召し替えを」
ゆきのかがいつもの調子に戻っている。九郎は素直に頷いて、館へ向かった。
その後姿を弁慶がじっと見つめていた。
「其方も、やっと安堵したようだな」
大天狗が弁慶に声をかけた。弁慶は向き直り、一礼した。
「何、黄泉帰りは運命の子の通過儀礼にございましょう」
そう言って笑った。
そのまま、御免、とだけ言い残して九郎の後に着いて行った。
「何のことにございましょうな」
秀衡には分からぬようであった。
しかし、その横で、大天狗は満足気に笑っていた。
(そうでなくてはな)




