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邂逅

 その後の旅路は何かに導かれているようにするすると行った。不思議と同じ方向へ向かう者と出会い、日が暮れる頃に宿を見つけた。それも大天狗様のお力かと、九郎は感心するばかりであった。

 そうして、金子の袋に、共に入っていた小さな紙片に書いてあったのが、五條天神宮の名前であった。それが目的地であろうと、九郎は天神宮へ参拝した。しかし、そうしたからといって、何か別段変わったことも無い。

(私自身が何の意味か分からずとも、成せと言われたことは成したのだ。恐らく何か意味のあることだったのだろう)

九郎はそう心の中で呟いた。そうして、一つの用事を済ませると、心がふわりと自由になる。軽くなった九郎の心に、新しい方向性が浮かんだ。ここは京なのだ。

 さて、京に来てどうするか。

 母親や鞍馬の天狗に会いたい気持ちもあったが、今の自分が下手に動くと迷惑になりかねなかった。鞍馬の寺に戻ったら、それこそもう二度と出してはもらえないかもしれない。そう思えば、別段他に何かということも無かった。大人しく奥州へ向かおうと思った時、通りすがりの若い男女が、縁日の話をしているのが聞こえて来た。

 どうやら清水寺の縁日が明日であるようだった。縁日と聞いて、九郎の心は久々に若者らしい興奮を覚えた。多くの人が集まり、特別な催し物もあるかもしれない。奥州も良い所ではあるが、時にはこうして都の賑わいにも触れてみたくなる。

(その縁日を見てから帰ろう)

そう決めると、足も軽やかになった。

 その、矢先であった。

「そこな男、」

聞こえて来たのは知らぬ声ではあったが、声の響きから自分の方へ向けられたと、九郎は感じた。武骨な男の声である。声の響きも不穏な気配がする。九郎はゆっくりと警戒しながら振り向いた。嫌な予感がする。

 そこには僧兵の姿をした大男が立っていた。周りの群衆が、その男を避けて通り、遠巻きに見ているのが分かる。途端に九郎と大男の周りに奇妙な空間が出来た。

「私のことにござりましょうか」

九郎が静かに言った。大男は何故かぐっと唇を結び、眉根を寄せた。そして、ふっと息を吐いて、

「その腰の物を頂こう。それは其方には似つかわしくない」

と、言い、下卑た笑いを見せた。明らかに何か馬鹿にしている、と、九郎は思った。そうなると、九郎の顔も負けじと不機嫌に歪む。

「これはさる高貴な御方よりのお預かり。どなたにも渡すことなど出来申さぬ」

九郎は凛として言った。

「されば、力づくで頂くまで」

大男はそういうとやにわに九郎に襲い掛かった。だが、九郎はそれをひらりと避けた。

(力はありそうだが、遅い)

鞍馬のお山で天狗に習った身のこなしが役に立った。そして、相手の動きを見る目も培われていた。稽古で付けていた力が、はっきりと分かる。

(だが、稽古では無い)

九郎は初めての実戦に用心深く相手を探って動いた。稽古と同じ思ってはいけない。自分にそれなりに心得はあるが、経験は不足している。そう、自覚していた。

「こやつ!」

中々捕まらぬ九郎に業を煮やして突っ込んできた大男を九郎はひらりと躱すと、刀の柄で男の延髄を叩き、そのまま着地した。大男はそのまま前に倒れ込み、膝をついた。

「勝負あり。これ以上の争いは無用と存ずる」

九郎はそう言って一礼すると、その場を後にした。

 確かに、刀を抜いていたら大男は首を斬られていたかもしれない。大男はくらくらと揺れる視界を戻そうと頭を大きく振った。そうしている間に九郎の姿は人込みに紛れ、全く見えなくなってしまった。

「あやつめ……このままでは済まさぬぞ」

大男の呟きは、九郎には届かなかった。


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