白乙語り
私はここで意識を持った、水の御魂。数多あるものの、一つにございます。
その時からずっと、ここに居ります。時折、先ほどのように写身を使って外の世界との繋がりを持つことはございますが、生身で出たことはありませぬ。また、それができるかどうかも知れぬ状況にございまする。
最初の写身は蛇にございました。人の姿を取るようになったのは、大天狗様やゆきのか殿に出会ってからにございます。
大天狗様と出会った頃、私は人の存在を知ったばかりでした。そして、話してみたいと思っておりました。
人に、興味があったのです。牙も持たず、爪も持たず、毛皮も持たない。暑さ寒さに弱く、時に、獣の牙や爪で命を落とす。自然界の中では弱い存在にしか見えませぬ。それでも彼らは懸命に命を繋ぎ、その知恵にて苦難を切り抜けておりました。そんな彼らが愛おしく、そして、眩しかった。しかし、その術を知らずにいました。そんな私に写身の使い方を教えてくださったのが大天狗様にございます。そして、その時の足掛かりになって下さったのがゆきのか殿にございます。
私の外見がゆきのか殿に似ているのは、そういう事情もあるやもしれませぬ。あるいは、私自身が白蛇だからということもございましょう。
しかし、心は欲張りにございます。外の世界を知れば知るほど、自分の、そのままの身体で外を感じたいと思うようになりました。写身で外を知っても、何も感じられないのでございます。
物を飲み食いすることは当然、光も、風も感じられませぬ。明るいのは分かります。しかし、人々の話すように温かいとは感じませぬ。風が吹いているのは、音で分かりまする。髪が撫ぜられるのも、分かりまする。しかし、それが肌に触れる感触は、やはり分からないのです。
私は外へ出たい。
風を感じ、光を感じ、食べ物、飲み物を、この口で味わいたい。如何に知識を持ったとて、この身で何一つ感じないままでは知らないのと同じではありますまいか。




