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風
「九郎に、ございます」
奥州の覇者、藤原秀衡の前に、一人の若者が平伏していた。その姿を秀衡は暫し、無言で見つめていた。
(……時流が、変わる)
秀衡は、人の目には見えないはずの、大きな河の流れを聞いたような気がした。その大河が、大きく流れを変えようとしている。
秀衡は静かに目を閉じた。
何処かへと、想いを馳せる。
流れは、ただ、そこにある。
その流れに、乗ろうとするのも、抗おうとするのも、また、人の性だ。
選ぶのは、いつも人だ。
流れはただ、そこにあるだけだ。
常に変わり、常に流れ続ける。
元の場所には、在りはしない。
「……無常」
その瞳が、静かに開かれた。