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切ない別れ9

「おええええー!」

 堂致先輩は酒に弱かった。それなのに自分の下ができたと、喜んでお酒を飲みまくった。結果、道の端っこにゲロを吐いている。

「大丈夫ですか? 早く電車乗って帰ってください。」

「気分が悪くて動けない。」

 まだ終電はある。社長たち他の先輩社員たちは帰ってしまった。

「タクシーを呼びますから、待っててください。」

「ダメ! 車に乗ったら、もっと気分が悪くなる。おえー!」

 動けない。電車もタクシーもダメ。俺は早く帰りたい。先輩は俺にどうしろという。酒に酔ってゲロを吐く女。正直、俺は相手にしたくない。

「先輩、俺は先に帰りますから、気をつけて帰ってくださいね。」

「貴様! 私を置いて帰ったらどうなるか分かっているんだろうな?」

「え?」

「明日から会社でいじめまくってやる。私に楯突いたら社長に言ってクビにしてもらうぞ。」

「なんですって!?」

「私を甘く見たことを後悔させてやる。おまえは無職になり、路頭に迷うのだ。」

「卑怯な!?」

 俺は逃げることにした。しかし、逃げられなかった。先輩は俺を脅迫する。これは完全なパワハラである。質の悪い酔っ払いである。

「分かりました。ビジネスかラブホまで運びますから、明日は、そこから出勤して下さい。」

「ダメだ! お金が無い。」

「俺もないです。」

 実はお金は持っていたが、先輩がお金を返してくれるのか、不安なので、俺は自分のお金を使わなかった。

「先輩、終電までには良くなってくださいよ。」

「無理かも。おえー。」

「先輩はどうしたいんですか?」

「佐用の家に行こう。ここから徒歩で帰れるはずだ。」

「うち!?」

 なぜ先輩を家に招待しないといけないのか分からない。逆に、俺の家に来るのが目的で、これだけ酔っぱらったなら確信犯である。先輩は、普通そうな人なのに、男の家に行くことに抵抗が無いようだった。

「おまえ、明日から、いじめるぞ。パワハラするぞ。セクハラするぞ。」

「わ、分かりました。連れて行けばいいんでしょう。」

「それでいい。おええええー!」

 これが社会人というものなのか? 理不尽にも程がある。疑問は残るものの俺は先輩に肩を貸し、引き吊りながら俺のマンションまで連れて行く。

「んん? 千和?」

 なぜか俺のマンションの部屋の前に一人の女の子がスーツケースを持って立っていた。大学時代の友達の今仁千和だった。

「な、奈良!?」

 彼女は俺が女を部屋に連れ込もうとした所に見えたのか恐ろしく驚く。まったく迷惑な先輩である。俺は、なぜ彼女が俺の部屋の前にいるのかが分からなかった。

 つづく。

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