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終わる世界の物語(仮)  作者: いおす
9/22

友人と妹と幼馴染と女教師と

クールビューティー大好きマン

 不良2人は途端に驚きの表情になる。

 勇と美里亜と咲はその教師を見て、安堵のため息をつく。


「な…なんで小森センセー、息切れ一つねぇの? 俺、全力だったんスのに」


 肩で息をしている勝記は、連れてきた教師に疑問を投げかける。

 栗毛でウェーブの掛かったショートヘア、銀縁眼鏡に鋭い目つきだが一見すると雑誌のモデルのようなスタイルの女性は、その問いには答えない。


(そりゃそうだろうなぁ)


 勇は特にその状態を不思議とは思わないでいた。


「もう一度聞きます、なにをしている」


 ややハスキーな声の後、廊下に高いヒールの足音が響き、勇の隣に並ぶ。

 トサカ頭は掴んでいた勇の襟元から手を離し、バツが悪そうにしていた。


「小森先生」


 そう勇が呼びかけると小森と呼ばれた教師は銀縁眼鏡からの視線で声の主を一瞥し、次いで美里亜、咲と順を追い、最後は不良2人で動きを止める。


「――()()()()()()


 教師の言葉にトサカ頭はわずかに舌打ちし、女史を睨む。


たちばな 元木もとき水沼みずぬま 洋二ようじ……私は先日伝えたはずです」


 名前を呼ばれた恐らく本人あろう不良2人は、そっぽを向く。

 無言を通す不良に、先程より怒気は少ないがそれでも威圧有る声で語る。


「次回問題を起こした場合、成績の減点と保護者連絡を行うと」


 1年生は入学まだ半月であり、既に問題を起こして教師に注視されている事は異例とも言える。


「何か反論が有るなら聞こう、そうでなければもう下校時間です。 早々に帰宅しなさい」


 そう言いながら小森と呼ばれた教員が、緩やかな薄手の長袖ブラウスの前で両腕を組む。

 すると腕に抱え押し出された豊かな胸の形が顕になり、まるで見せつけるかの様になった。

 不良2人はそれを色目でちらりちらりと見ているが、小森女史はその視線を気にした様子もなく不良からの答えを待つ。


「――おい、行こうぜ」


 しばらくしてトサカ頭の連れの不良が口を開きその場を去ろうとする。

 再度舌を鳴らして悪態をつくトサカ頭だが、その言葉に従い遠ざかっていく。

 そうして意外とあっさりと不良が去った所で、勇は深い溜め息をついた。


「あー……助かった、かっちゃんナイスタイミング」


 勇は勝記に親指を立てて通例のサムズアップを送る。

 先程より息を整えた勝記も同じ様にサインを返す。


「ナイスタイミングではない」


 小森女史から厳しい言葉が勇に掛かる。

 腕を組んだまま勇へ向き直り、ヒールを一つ鳴らして仁王立ちになる。


「あの、先生、ゆーちゃんは私達をかばって――」

「そんなことは状況を見れば判る」


 勇を庇おうと慌てて進言する咲を見ること無く、小森女史は即座に返事を返す。


「真行寺 勇。 何故わざと相手を逆上する方法を選んだのですか」


 銀縁メガネから鋭い冷ややかとさえ思える眼光が、勇の背丈よりも高い位置から見据え問う。

 モデル顔負けの美貌が見て取れるその表情は、怒りではなくどこまでも冷徹な印象を受けた。

 外野から見れば女史の後ろには、吹雪が舞っている様にさえ見て取れる雰囲気でもある。


「……()()が悪く言われたからです」


 勿論それは美里亜と咲の事だ。

 小森女史の眼光に多少威圧されては居るが、それでも視線は外さずに勇は答える。

 妹の美里亜の悩みでもある胸へ侮辱を込めた発言が有った事。

 その妹を守る幼馴染の咲を邪魔者扱いした事。

 傍から見れば普段のマイペースな態度で不良と相対していたかの様に見えていた勇だが、その実は内心かなり穏やかではなかったのだ。


「にーちゃん……」


 美里亜は勇に近寄り、再び袖を握る。

 咲もそれに続き、美里亜と一緒に小森女史へ嘆願の眼差しを向ける。

 勇の答えを聞くも小森女史は押し黙っていた。

 美里亜の居る看護科教室にまだ残っていた生徒達は騒動が収まったのを確認した為か、恐る恐る帰宅の途に着こうとしていた。


 小森女史はしばらくして周囲に無関係の生徒が居なくなると同時に両目を閉じ軽く頭を垂れ、深いため息をつく。

 そして再び開けた眼には先程までの威圧感はなく、かと言って冷徹な眼差しでも無くなっている。


「真行寺 勇()()

「はい」


 組んだ腕を崩し、腰に片手を預ける小森教諭。


「とりあえず生徒指導室まで一緒に来なさい。 他の者は帰宅するように」

「えっ」


 疑問の声を上げたのは勇ではなく美里亜と咲だった。


「なんで、ゆーちゃんが怒られるんですか!」

「にーちゃんが怒られるんなら、私達も一緒に――」


 詰め寄る2人に小森女史は無表情だが、初めて穏やかな口調で答える。


「立場上経緯を聞くだけです、心配する必要はありません」

「ほんとに? ()()()()()…あっ」


 美里亜は言ってから自分の発言に気づき、口を片手で抑える。

 勇と咲も同時に「あちゃー」と手で顔を覆う。


「……学園内ではちゃんと先生と言いなさい、真行寺 美里亜さん」

「ご、ごめんなさい。 小森センセイ……」


 別段表情も変えず、かと言って咎める口調でもなく小森女史は答える。

 美里亜は顔を真赤にして、頭を下げる。


「……なぁなぁ、ユウ…どゆこと?」


 今まで沈黙して様子を見ていた勝記が、勇に小声で疑問を投げかける。


「あー…えーと…」


 どう答えようか軽く頬を指で掻きながら、小森女史を横目で見る。


「簡潔に」


 小森女史はそう答え、片腕を腰に当てたまま目を瞑り勇に説明を任せる。


「別に秘密でも何でも無いんだけど、母さんの後輩なんだよ」

「小森センセイが?」

「うん、高校・大学で部活も同じの先輩後輩ってヤツなんだよね」

「へー……え? あっそれで咲ちゃんや勇とも?」

「子供の頃からお世話になってるんだよねー」

 

 勝記は感心したように小森教諭を見る。


 小森こもり 涼子りょうこ、勇の母の真奈美まなみの後輩で1年年下。

 高校在籍時はバレーボール特待生で双璧の強さを誇り、全国大会準優勝を経験している。

 大学卒業後も真奈美との友情は変わらず、勇達姉弟の育児にも大なりに関与していた。

 その影響か真行寺家・長女の立花は現在バレーボールにて活躍を見せ、勇や真奈美、咲も含め懐いていた。

 更に城愛高校卒業生のため、勇達の先輩と言う事にもなる。


「さぁ、説明が済んだなら行きますよ」


 小森女史はその場の動きを促すように歩き始める。


「あの、私と咲はおにい…兄を待ちます」


 美里亜は咲と手を繋いでそう意思を告げる。


「俺も美里亜ちゃんたち残るなら、一緒に残るぜ。 またアイツラちょっかい出してきてもアレだしさ」


 帰宅の道中への意味も含めての事だろう。

 勝記は廊下に置いていた自分の肩掛けバッグを持ち、一緒にあった勇の鞄をひょいっと本人へ渡す。


「かっちゃんこういう気は廻せるのになぁ、なんでいつもエロ発言多いの」

「バッカ! 余計なこと言うなし!」


 鞄を受け取りながら勇はいつものじゃれ合いを見せ、そんな2人を美里亜と咲はジト目で見ていた。

 何となくいつもの雰囲気が漂う心地よい空気を、その場の全員が感じていた。


「……そうですね、少々配慮が足りませんでした。 わかりました許可します」


 そう言い、小森女史を除く4人は教員室すぐ横の食堂で待ち合わせをする事となった。



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