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終わる世界の物語(仮)  作者: いおす
8/22

妹と幼馴染と+1

年号が変わりましたねー

「いいかげんにしてよ!」


 廊下の角を曲がればすぐ美里亜の教室までという所で、勇の耳に語気の強い声が届く。

 見れば教室の出入り口で廊下に美里亜を後ろに庇う咲の姿があった。

 咲たちの前に居る二人男子生徒が居り、恐らくあれが美里亜の言っていた例のストーカーな2人なのだろう。

 廊下に行き交う一年やまだ教室にいる生徒は、何事かと様子を伺っている。


「そんな怒んなくていーじゃん、遊ぼうって言ってるだけだしさあ」


 どこかチャラい風の男子生徒二人が、制服のズボンに片手を突っ込んで咲の前で薄笑いを浮かべている。

 もう一人は周囲に目で威圧をしており、目の合った生徒は怯えてその場を去っていく。


(ケンカ慣れしてるっぽいなぁこいつら)


 勇達は咲たちの後ろを見る形で、角にやや体を隠し相手を観察する。


 城愛高校には不良と言われる輩は少ならからず在籍する。

 中学時代に素行や学力が悪く進学がままならない生徒の為に、または保護者への面子や学校としての体裁を保つ意味合いで「友愛」を学園の主と掲げるこの高校へ、別の意味での推薦として丸投げするのである。

 噂ではカトリックの教えである万人に救いの手をという意味合いで【別枠】の、ほぼ中学生初期レベル入学試験があるとか無いとか。

 現実問題で高校側としては生徒が入学後に中学同様の問題を起こし、最悪退学になろうとも入学金等の返還はされないので損をしないという事らしい。

 それら背水の陣という事もあってか前述に当たる生徒達の殆どは手に職をつけ就職を目指す、本来根は真面目な生徒が大多数である。

 義務教育ではないので生徒の自主性を重んじているとは、校長の弁である。


 なので咲の目の前にいるいかにも不良ですという輩は本当の意味で稀有だった。


「かっちゃん」


 勇は一連を眺めながら後ろにいる勝記に小声で声を掛ける。


なん?」


 勝記の返事のトーンが低い。


「職員室行って小森センセー呼んできて」

OKっけー

「居なかったら誰でもいいから看護の一年教室で騒ぎですって伝えて」

「おう」

 

 勝記は返事と同時に来た廊下へと踵を返す。

 既に誰かが呼んでいるかもしれないが、念には念をだと横目で走っていく勝記を見ながら勇は考える。


「さて」


 勇は改めて咲たちへと視線を戻すと、不良2人が咲へ距離を詰めようとしていた。

 埒が明かないから実力行使か?短気だな、と思いながら勇はすぐさま廊下角から姿を出し咲たちへと()()()()()に歩き出す。


「おまたせ二人共ー」


 朝と同じのんびりしたテンションで咲と美里亜に声を後ろからかける。


「ゆーちゃん!」「おにーちゃん!」


 咲と美里亜は聞き慣れた声に振り返ってその姿を確認すると、日が指したような笑顔で同時に答える。

 抱きつかんばかりの勢いで勇の元へ駆け寄る二人に、勇はいつもの笑顔を返す。


「遅いよ、ゆーちゃん!」


 困ったような笑顔でそう言い放ち美里亜は勇の長袖の右袖を、咲は逆の袖を同様に掴んでこれまた同様に安堵のため息をつく。


「あいつら私達の普通授業終わる前に、教室の外で待ち伏せしてたの」


 美里亜が小声で状況を告げると美里亜も隣で、うんうんと頷いていた。

 午後の授業は全校共に専攻授業の為、長くなることは有っても短くなることはない。

 恐らく不良2人は最後の授業をサボって先回りしていたのだろう。


「そこまでやるか…」


 勇は少し異質なしつこさに呆れと不快感を覚える。

 1年で授業をサボれば、教師たちへの印象は悪くなるだろう。

 しかも入学したてとあれば尚更である。


「なぁ、あんた」


 不良二人組の短いトサカっぽい頭の方が不機嫌さを隠さず声をかけてくる。


「誰? あんた」

「俺は…この娘達の兄で幼馴染かな」


 問われるたので素直に答える。


「ごめんね、今日一緒に2人と帰る約束してるんだ。 2人に用事でもあった?」


 白々しく、でもいつもどおりのペースで語りかけながら、咲と美里亜の背に手を回し手をあてがう。

 傍から見れば美里亜と咲を抱きしめようとしてる様にも見えるのか、不良2人は更に不機嫌になる。


「いやさー、そこの胸のクソでかい子いんじゃん? タイプだから一緒に遊んであげようと思ってててさー」


 美里亜の事だろうが、性欲丸出しすぎるだろう。


「したらさー、そこのポニテが邪魔すんのよ。 オニーサンならちょっと邪魔しないでって言ってくんない?」


 顔を煽り気味に向け、威嚇するかのように見下そうとするトサカ頭。

 もう一人の不良も勇を睨みつけて目線を離そうとしない。

 恐らくわざと荒れた言葉使いと態度で、この場の上位に位置したいのだろう。

 未だにこういう人達いるんだなぁと、内心呆れ果てている勇。


「あんたたち仮にも先輩に向かって、敬語も話せないの?」


 咲が脊髄反射的に噛み付こうとする。


「しかも遊んで()()()? バッカじゃない!?」

「私、断った」


 珍しく咲が激昂しているなと思っていると、勇の両腕への重さが変化した。

 見ると、美里亜と咲はいつの間にか勇の袖を掴むから、しがみつくに変化していた。

 2人の胸の弾力が勇の腕に伝わり少々戸惑うが、状況が状況なだけに一瞬で素に帰る。


「…ということらしいんだけど」


 少なくとも目の前にいる不良2人とは一緒に行動しないと、女性陣は今はっきり断言したわけだ。


「…先輩だかおにーちゃんだかしんないんだけどさぁ、あんま俺、なめんなよ」

「もっくん前の中学で番はってたかんなー? お前みたいなひょろいのなんかワンパンよ?」


 トサカ頭ともっくんと言われたトサカ頭の不良はそう言い、ドヤ顔でこちらを見ている。

 かなり時代錯誤な単語を聞かされ勇は軽い脱力と頭痛を覚える。

 美里亜と咲は不良が何を言っているのか理解できていないようで、


「…勇くん、ばんはるってなに?」


 と、咲が小声で聞いてくるが、勇は乾いた笑いで答える他無かった。

 教室にまだ僅かに残っている生徒からも失笑が聞こえていた。


(腕力の誇示ってなんていうんだっけ…ドラミング?)


 勇は思い出すのを止め、不良2人を真正面から見据える。


「君らは看護科の一年?」

「そうだよ、だから何」

「看護科って大変でしょ、覚える事ややらなきゃならない事いっぱいだしさ」


 事実、美里亜はよく家で授業内容が大変で挫けそうと嘆いていた。

 もちろん次の瞬間には立ち直って闘志を燃やしていたが。


「カンケーねぇだろ、そんなん」

「俺にはね、でも妹達は帰ってきても頑張ってるんだよ」


 美里亜は夢に向かって本気で頑張っている。

 看護師になって人をできるだけ助けたいと、本気で思って勉強を続けている。

 勿論見ては居ないが咲も同じだろう。


「遊びに誘うこと自体は別にいいと思うんだけどね、でも看護って人相手に何かするわけでしょ」

「だから、何が言いてーんだよ!」


 要領を得ない言葉だからか不良はイライラを募らせて、大きな声で威嚇する。


「人の気持ちを無視するのって、人相手の看護を勉強してるのにだめじゃないかなって思うんだけども」


 看護も料理も人相手だしね。

 独りよがりじゃ絶対うまくいかないと思うんだよね。


「ゆーちゃん…」

「にーちゃん…」

「まして無理強いっぽいのはねー……というわけで、これ以上妹達に関わらないで欲しいんだ」


 ワザと正論を相手に叩きつけ、逆上を誘う。

 このあとは大体殴られたり暴言吐かれたりで、ターゲットは勇自身へと向く。

 そうすれば正当防衛等の言い訳で周囲を説得できるし同情も引きやすい。

 今迄もそれで済んできた事実がある。

 正直、勇自身もこの行動が一番いいとは思っていないが、問題が長々と後引きするぐらいなら自分の方向へ向いた方が面倒がなくていいと考えていた。


「偉そうにコイてんじゃねー! おめぇにゃ関係ねーよ!!」


 怒りの表情で拳を握りしめ、勇の方へ近づく不良2人。

 勇は腕にしがみつく美里亜と咲を軽く後ろに下がらせ、前に一歩出る。


「看護科に入りゃぁ女いっぱいいるから、来ただけだっつーの!」

「そうだよ! それ以外にガッコ来る意味なんかありゃしねーっつーの!」


 勇の後ろで咲が「さいってー」と呟く。


「それ聞いたら余計に妹達には関わって欲しくないなー」

「うるせぇ!!」

 

 トサカ頭が勇に掴みかかり拳を振り上げる

 それを見た美里亜と咲は「やめて!」と止めようとする。

 勇は殴られるのを覚悟して腹部に力を込め、奥歯を噛みしめる。



「そこでなにをしている」



 勇の後ろから恐ろしく怒気が含んだ冷たい声が聞こえた。

 振り向いてみると息を切らせた日野勝記と、ベリーショートに眼鏡と紺のタイトスーツスカートの教師が、ヒールの一音と共に立っていた。

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