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終わる世界の物語(仮)  作者: いおす
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日常 その1

素直クールが好きです

「まってくれ!」


 勇は勢いよく目を開ける。


「……あ…れ」


 まず視界に写った風景は、17年過ごし見慣れた自分の部屋の天井だった。


「……」


 知らぬ間に突き上げていた右手を顔に下ろす。

 深い溜息と共に自分は夢から覚めたのだと確認をする。

 しばらく頭を冷やそうと息を整えようとして、


「にいちゃん」


 と、聞き慣れた声がかかる。


「…美里亜みりあ?」


 体半身を軽く起こし()()()の妹の美里亜の方へ見やる。


「お前なんで…」


 なぜ自分に跨っているんだ?と聞こうとしてその妹の顔が紅葉している事に気づく。


「顔赤いけど…」


 美里亜は着ている制服の胸元を両手で祈るように結んでいた。


 真行寺しんぎょうじ 美里亜みりあ

 この春に高校1年生になったばかりで勇のひとつ下である。

 肩まで伸びた栗毛は柔らかく、前髪は切りそろえて所謂ボブカットに近い髪型だ。

 あまり物事に動じない印象があるらしく、初対面ではよく冷たいと誤解されがちだが実は割と表情は豊かな方である。

 現に今もその表情は普段とさほど変わらないが、なにかに恥ずかしがる振りをし赤面は見えて取れる、。

 余談でその所為せいかどうかは定かではないが、高校生活はじめてのクラスでかなりの人気があると友人づてに聞いたことがある。

 傍から見ても整った顔立ちはしていると勇は思うが、恐らくその人気の原因は容姿だけではなく年齢に似つかわしくないその胸囲が主な点だろうと同時にため息を付いた記憶もある。

 美里亜は胸のサイズがDクラスらしい。

 らしいと言うのは美里亜本人からの報告で知っているだけで、実際に見たことも採寸したわけでもない。

 幼少の頃から周りの友人と比べ発育はいいほうだったが、アンダー75と聞かされても正直よく判らない。


「…胸」

「ん?」


 胸が大きいのは知っているぞと、見慣れたふくよかな妹の胸へ視線を向ける。


「…まだ寝てるみたいだから起こそうと思って…そしたら苦しそうにしてたから…」

「うん」

「そんで、にいちゃん起こそうと思って上に乗ってね」

「…ん?」


 何故上に乗る。


「突然にいちゃんが腕を上げて胸触ったんだよ」

「…それは触ったじゃなくて、当たったって言わない?」


 言われて目が覚めた時に手に何かが触れた気がする。

 美里亜は少し困ったような表情で結んでいた手をさらに強く握る。

 というか兄とは言え男性に跨っていることは恥ずかしくないのだろうか。

 その問題のほうが先に赤面する現状の起因にならないだろうか。

 毛布越しとは言え跨っている場所も正直、微妙な部分なので自分が赤面するほうが自然なのだろうか。


むかしから起こす時はいつもこうじゃん」

「あー…んー…」


 内心の質問の答は、そう言えばそうかと不思議と納得してしまう勇だった。

 美里亜と勇は1歳違いだが、小さな頃から勇に美里亜が何か事あるごとについて回るという間柄である。

 休みの朝は、ほぼ毎日美里亜が部屋に来て兄を起こすというものだった

 高校に上がってからは多少異性を意識し始めたのか、部屋に来る頻度は減った。

 美里亜が胸を気にし始めたのもその頃だったかなと勇は思い返す。


「…まぁ、胸に触ったのはごめんよ」

「うん…」


 美里亜はさほど不機嫌な態度は取らず、普段の表情に戻る。


「別にいきなりだっただけで怒ってないけどね」


 突発的じゃないのならいいのだろうか?と微妙なニュアンスの返答への問を思いながら、未だに自分に跨って動かない妹が目前にいることを思い出す。


「ごめんごめん…ところで着替えるからそろそろ降りて」

「うん」


 素直に言葉通り美里亜は勇のベッドから降りる。

 学校の制服のスカートの丈が短いためか下着が顕になるが、勇は見えていないふりをする。

 美里亜はベッドを降りながら、そんな勇を見続けていた。


「ここで待ってていい?」


 部屋のドアの横の壁に背をもたせかけて美里亜は聞く。


「朝ごはんは?」

「まだ」


 美里亜は表情豊かでないのと同時に、言葉も割と淡々としている。

 知らない人から見れば最初は冷たいと感じるかもしれない。


「まだ7時前だし」

「あれ、ほんとだ。かーさんもう出た?」

「お母さんさっき行ったよ、だから起こしに来たし」

「そっか」


 返答しながら着ていた寝間着代わりの半袖シャツを脱ぐ。

 母は家より少し離れた県立病院の医事課で主任として働いている。

 稼ぎとしてはまぁまぁらしいが残業も多いため夜が遅く、朝も割と早い。

 女手一つで俺たち姉弟を育ててくれている、お酒大好きな割と肝っ玉の座った人だ。


「…トランクスにしたんだ」

「兄妹とは言えあんまり見ないでよー」

「先週までボクサーだったじゃん」

「かっちゃんに言われて新学期からこれにしようってね」

「ふーん…」


 本当は寝巻き代わりのトランクスも履き替えたいが、美里亜がいるし今日は帰ってからでいいかと制服を着込む。


「誰かに見せるの」

「なんでやねーん」


 友人のかっちゃんこと日野ひの 勝記かつきがトランクスを勧めて来た理由は、

 (女子ともしかしたらそういうことになった時ブリーフとかありえないから!)

 だった。


 ブリーフじゃねぇよと反論したが似たようなものだと押し切られ、その流れでトランクスを買う羽目になった。

 おかげで手持ちのバイト代が一瞬で消えたが、もしかしたらそういう事もあるかもと自分を納得させている自分が居た。

 そう…いざというときのためなのだ、それ以上の理由なんて無い。


 高校2年生、真行寺 勇、多感な時期である。


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