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終わる世界の物語(仮)  作者: いおす
2/22

はじまり

夢の中の表現てむずかしい

 真行寺しんぎょうじ ゆうはここ最近は同じ夢を見ている自覚があった。



 先月くらいからだろうか。

 自分の体がいつのまにか水中らしき中で漂っている事に気がづいた。


 ()()()というあやふやな感覚だったが、特段不快なものではなかった。

 両目を開けていても圧迫感はないし、口を開けていても息苦しくもない。

 むしろ全身を包む僅かに温かい感覚と、どこまでも薄く蒼白く、だが上を見上げると揺らいでいるような光が見て取れる。


(気持ちいいなぁ…)


 以前家族と共に海に出かけ、姉妹がふざけた拍子にゴムボートから突き落とされた事を思い出す。

 その時に見た光景によく似ているなと考えを巡らせ、


(…思い出したらなんかムカついてきたな)


と、夢を見ている安心感がほんの少し現実に引き戻される。



 少しして相変わらずゆらゆらと揺れている上の方から


    とぷん


 と、勇の漂う上方の空間が水滴が落ちたてきたような波紋状に広がる。


(あの人だ)


 勇は改めて波紋が広がった場所を見る。

 波紋が起こったところに長髪の人影が薄っすらと現れる。


 ゆっくりとゆっくりと

 [彼女]は水中の中を落ちてくるように

 勇の元へ近づいて来る


(相変わらず綺麗な銀髪?だなぁ)


 勇は落ちてくる銀髪の女性を身動きせずに見続けていた。

 銀髪から覗くことができる両目もやはり銀だったが、その表情は美麗なものだった。

 服は着ているようだが透けて、クラゲの様に揺れているものが彼女の全身を覆っている。

 その肢体は光に映し出され薄い布一枚だけのように見え、はっきりとその体の線が見ることが出来た。

 逆光で全身がはっきり見えることに違和感があるはずなのだが、その漂う姿に見惚れている勇は疑問を抱くことはなかった。


(美人だよな…)


 だが勇は知っていた。

 彼女は自分の手が届くところまで辿り着けずに夢が覚めてしまう。


 いつもそうだ。

 本当は銀髪の女性の顔をもっとよく見てみたい。

 そして出来ることなら触れてみたい。

 いいじゃないか、夢だもの。


 しかしそこまでには至らない。


(まぁ、仕方ない…夢だものな)


 諦めと目が覚めるであろうこのあとの事を残念に思いながら、勇は目を閉じる。


 さぁ起きたら歯磨きと洗顔だ。

 まだ少し寒いがお湯はいらないだろう。

 今日の朝ごはんはトーストにしよう。

 食パンを焼いてマーガリンを多めに塗って冷蔵庫に買い置きしてある紙パックのミルクティー飲んで学校へ行かなきゃな。

 姉の立花りっかは部活の朝練だろう、妹の美里亜みりあはまだ夢の中かもしれない。

 起こさないと拗ねるかな…まぁもう子供じゃないんだし、いいか。


 勇は起きてからの算段を思い浮かべる。

 目を閉じたままで現実の自分が目覚めるのを待つ。


(…………あれ?)


 いつもなら目を閉じて数秒で完全な闇が訪れ、現実の自分があくびとともに起きるはずである。

 が、いつまで経ってもその兆候が現れない。


「っ!?」


 突然自分の両頬に温かいものが触れた。

 驚いて閉じていた目を見開く。

 やさしい銀色の両目が彼女と自分の鼻とが触れてもおかしくない距離で勇を見つめていた。

 さらに頬に感じる温かい感触は彼女の手のひらだったと気づく。


「…」


 銀色の眼は勇を微動だにせず見つめている。


「…えっ…あ…っと…」


 驚きから多少持ち直した勇の口から出た言葉はかなり間抜けと自ら感じるものだった。

 そして彼女の視線になんとなしに耐えられずふと目を逸らした勇の目に写ったものは、目の前の彼女の顕でふくよかな胸だった。


(おっぱ…!?)


 勇は心の中ですら最後まで言えず途端に赤面する。

 銀髪銀眼の彼女は全裸でこそ無かったものの、薄いほぼ透明な布一枚で体を覆っていただけだった。

 腰に着ている布と同様なもので固定はしているが、従来の服という機能はほぼ無いように見える。


「………て」


 勇の頬を両手で覗き込むようにしていた彼女は初めて口を開く。


「………きて」


 ガラス細工を軽く鳴らしたような透き通った声が、勇の耳に届く。


「えっと、ごめんよく聞こえない…」


 勇はなんとか耳を傾けるが、彼女の声はなぜかすべてが届かない。

 銀髪銀眼の彼女はほんの少し悲しそうな表情になるが、それでもなんとか口を動かして勇に言葉を伝えようとする。


「………て」


 だがやはり彼女の言葉はすべてが聞き取れない。


「きみは…」


 勇は彼女に問い正そうと声をかけようとした。


「!?」


 その瞬間、勇が頬に感じていた感触とぬくもりが消えていき、同時に勇の視界が急速にぼやけていく。

 彼女の手のひらが自分から離れていくを理解したのとほぼ同時の出来事だった。


 まって

 きみはだれ

 ぼくになにをつたえたかったの


 勇は声に出そうとするが視界と共にまどろみに落ちようとしているのか、声が出せなかった。

 だが視界が完全に閉じる寸前、彼女の口の動きを勇はなんとか見逃さなかった。


「ゆう」


 その言葉を発したであろう事を勇は自分を呼んだと認識した瞬間。



 意識は完全に閉じた

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