水道の抜け穴 3
「いや、でもそれだけでは説明がつかないよ。 確かに今は職に付いていないし、紅茶も毎日飲んでいるけど」
そう、私が聞くと彼は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべ
「あはは、それこそ簡単さ。 これから私に付き合うと言った時点で、明日の予定は空白であると予想がついたんだ。 連日続けて休みも無くはないが、それならそれで予定はあるだろう。 だが君はそれを言わなかったからそう思ったんだよ」
「思った? それは憶測じゃないのかい? それに、紅茶は……」
「消去法で選択肢を消していけば、最後に残った選択が答えになるのさ。 アァ、紅茶に関しては更に単純だがね。 ここまでの仮説で予想をたてれば、よほど歯磨きをサボる不衛生な人には思えない。 ならば歯に付いている茶色の付着物は茶渋だろうと考えたわけさ。 煙草だったらそういった人はことさら気を使うものだろ?」
この瞬間、私は人生で一番の恐怖を目の前の男に感じた。 いや、恐怖という表現は正しくなく、好奇心、感心、怯え。 なんとも言い表せない感情が心を埋め尽くしたのだ
「まいった、君は凄いな。 全て正解だよ」 私が辛うじてそう言うことが出来たのはほぼ、無意識による防衛本能のようなものである
「ふふ、だろう? さて、私の名前だったが生憎と目的地に着いてしまったようだ。 さ、中へ入って料理を頂いてからゆっくりと話そうじゃないか」
※
そう言って案内された場所。 それはどうみても料理屋等という小洒落たモノではなくただの住宅であった
「おいおいどういうことだい? そろそろ私をからかうのもいい加減にしてくれよ」 私が言うが、彼はそんな私を無視して
「やぁ、お待たせして申し訳ない。 五分……いや、七分ほど遅れてしまいましたな」
と、彼は出迎えてくれた初老の男性に話す。 まさか最初からここの来るつもりでいたのだろうか、などと思考を巡らす間に初老の男性が答えた
「いえ、こちらこそお呼び立てして申し訳御座いません。 たいしたお構いも出来ませんが、よろしければ中へお入りください」
「あぁいや、いや。 どうかお構い無く。 それよりも現場に行きましょう。 遅れた分、誠心誠意調べさせていただきましょう。 さ、案内を」