水道の抜け穴 1
私が彼と繰り広げてきた半生を語るに於いてまずはこの話だろうと思う。 題名を考えるならば……そうだな、素人ながらに「奇なる出会い」などが合うかもしれない
当時、私は世間でいうところの就職難民 (正確にいうならば大手企業を途中退職後、やりがいのある仕事を見付けることが出来ずに放浪の日々を過ごしていた。 ある程度の貯蓄があったことが幸いしていたからこそだが) であり過ぎ行く日々を無為に過ごしていた。
そんな自堕落に溺れかけていたある日の事である。 学生時代に恩ある師の頼みで、見知らぬ男のカウンセリングをすることとなった。 心理学を専行していた訳ではないが恩師の頼みである。 無論、快諾し働いていた時代に購入した羊革のコートを羽織りその人物に会いに行ったのだが…
「やあ、それでね。 君の名前を教えてもらってもいいかな。 いい加減、君、私では会話が進まないよ」
「見ず知らずの君に名乗る必要があるのかね。 それよりも我々の出会いを祝して交流がてら、歓楽街にでも繰り出すと言うのを提案するがどうだい、のるかね?」
と、目の前にいる件の相手とはこの調子でかれこれ数時間が経過しているのである
「私は友として、君は師として同じ人物を得てこうして巡りあったのだからね、こんな偶然はそうはないよ。 さ、ところで君の好みはなんだろう。 ウォッカ、ウイスキー、さてはワインだったかな? それともお国柄、焼酎や日本酒という線もあるな。 結構イケる口かね」 彼が言った。
「ああ、うん。 分かった、分かった。 君を心配に思った師の過労がいかほどなモノであるかがだがね。 さぁ、もう割りきって行こうじゃ無いか。 もっとも、こんな時間にやっている店を店を少なくとも私は知らないのだけれど」 私が言えば、彼は朗らかに笑い声をあげつつ言うのだ
「嘆息しているところ申し訳ないがね、とびきりの店を予約してあるんだ。 さぁ、向かうとしよう。 きっと相手様も首を長くして待っていることこの上無いよ」
彼はどこか胡散臭い笑みを浮かべて言えば、元より薄かったであろうであろう私に対する興味をさらに失ったかのように歩いていってしまった。