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7 黒猫、隠密スキル『隠形(観音隠れ)』発動



 こ、これはさすがに心細いです……。

 全く見知らぬ場所にひとりで、まだ誰とも会えません。

 とにかく人がいる場所を目指して歩いているはずなのですが、どうしてこうも閑散としているのでしょうか……?


 今歩いているところは、所々に彫刻やガラス細工なんかの煌びやかなオブジェが飾られ、毛並みの短い群青色ぐんじょういろの絨毯が敷かれた通路なのですが、どこからも話声ひとつ、足音さえも聞こえません。

 扉があったので開けてみたら、机と椅子が並ぶ会議室みたいなところで誰もいませんでした。

 それにしたって、王宮なのに人が少なすぎやしないでしょうか?

 人数の割には無駄に広いだけ?

 それとも、ここはもう実際には使われていなくて、歴史的建造物を保存しているだけなのでしょうか?

 騎士様があんなに物々しい警備をしていたのに?

 馬車で門を通る時、わざわざ馬車の中まで検分されたのです。ただの見物人を通すためだけに、そんな事はしませんよね、普通……。


 ガチャ。

 おぅっと‼


 突然目の前に扉が迫ってきたので、飛び退いて激突を避けました。

 ら。

 まだ幼い身体では踏ん張りが利かず、よろけたはずみで壁際に――。


 部屋の中から出てきたおじ様二人が目の前にいるのですが、私に全く気付かずに会話を交わした後、さっさとどこかへ行ってしまいました。


 ってか!

 置いていかないで!

 慌てて立ち上がろうとして、あれ? 何故か身体が動きません⁉


 身体の状態を確認してみると……柱とオブジェの台座の隙間にすっぽりと挟まれた状態で……体育座りの体勢のまま、見事にはまってしまいました!


「たしゅけてっ!」


 救助を求める私の声が通路に虚しく響き渡ります……。

 さっきのおじ様方、どうか戻ってきてください!

 ど、どうしよう……待てども全く人の気配がしないのです。

 こうなったら、自力で抜け出すしかありません。


 んぎぎっ、肩がはまってっ……。

 落ち着いて、落ち着いて。手と足を延ばしてぇ、オブジェの台座に手の指と踵を掛けてぇ。

 うんしょ! うんしょ!

 あ! 少し動いた!

 そ~れ、もひとつ、うんしょ! うんしょ!


 ずるっ、ずるっ、ぽん!


 そんな擬音が似合う勢いで、隙間からの脱出に成功しました!

 よ、よかった……。

 ともあれ、母の所へ戻らないと。

 さっきのおじ様たちが立ち去って行った方を目指して歩き出しました。

 あ、分かれ道を発見しました。どっちに行けばいいのか……。

 えぇい! とりあえずこっちにします!

 でもです。どうしてこんなに人がいないのですか。さっきのおじ様たちも父みたいな貴族服を着ていたから絶対他にも沢山人がいるはずなのに。

 すると、またしても扉が目の前に迫ってきたので、ぴょぴょんと!


「ヘイズ、君は西側を頼む」

「はい」

「庭園にいるから教えて頂戴ね」


 ぉおぅ! 奇跡が起きました!

「ぱぁぱ! まぁま!」

「冬!」「冬ちゃん!」「え、おぉおっ、本当に帰ってきた‼」


 両親と見知らぬお兄さんが吃驚眼で私を見つめています。そして、母が泣き笑いの表情で抱き上げて抱きしめてくれました。


「ごめんなしゃい」

「いいのよ、冬。ちゃんと戻ってきたのね」

「よかった、冬」

「あい」


 父の大きな手が、何度も頭を撫でてくれます。母の次は、父が抱きかかえて抱きしめてくれました。

 心配をかけてしまいましたね……。

 先ほど父たちが出てきた部屋の中へ、みんなで戻っていきました。

 絨毯敷きのその部屋には大きな机があり、書類が広げられています。その机をぐるりと囲むように、壁際には本やら資料やらがびっちり詰まった棚が並んでいました。


「見つかってよかったですね」

「ああ。予感がしたが、まさかここへ来るとは思わなかったが」

「冬ちゃん、ここは父様のお仕事部屋なのよ」

「おちごと」

「王宮で何か面白いものでも見つかったかしら?」


 あ、そうでした。興味深い情報の収穫があったのですよ!

 さっきのおじ様たちが話していたのです。


「あい。こんや、にんぎょういちば、いきたいでしゅ!」

「人形、市場ですの?」

「――それはどこで聞いてきたのだ?」

「どこ?」


 と言われても、場所の説明は難しく……。

 どう答えようかと考えあぐねていた時、父が抱っこしてくれているので目線が高かったお陰で丁度いいものを見つけました。

 父の執務机の上に広がっていた資料を指差して。


「あれとあれ、おじしゃま、いってたでしゅ」


 父の左胸に飾られているカッコいい鳥を象ったエンブレムのように、おじ様たちの左胸にも飾られていたエンブレムの絵柄がその資料に丁度あったのです。見知らぬお兄さんが、その資料を持って来てくれました。


「これとこれ、みまちた。こんや、あちじ、おにんぎょうかう」

「長官――」

「どこで買うか言っていたかい?」

「あい。るしぇんどおり、ぽびっちゅてい、でしゅ。あたちも、おにんぎょう、みたいでしゅ」

「残念だが、冬が喜ぶ人形ではないのだよ。今度、父様たちと別の店へ行こうな」


 喜ぶ人形じゃない?

 もしかして……気色悪い人形ってことでしょうか?

 え、この国では市場でそんな人形を普通に売っているのですか?

 もしかして、お化け屋敷で使うような人形でしょうか?

 ちょっと見てみたい気もしますが、父は行かせたくないようなので。


「あい、いかない。ちがう、おにんぎょうが、いいでしゅ」

「そうかそうか。今度出掛けような」

「あい!」


 一歳の誕生日には黒猫のリュックを。別の日には私が喜びそうなものを見つけたからと、尻尾に瑠璃色リボンが結ばれた抱きつけるほど大きく、もこもこで肌触りのよい可愛い黒猫のぬいぐるみを父が買ってきてくれたことがあります。

 どれも可愛いので問題ないのですが、黒猫シリーズ以外のぬいぐるみとかも見てみたいのです。

 父がお出掛けの約束をしてくれたので楽しみです!


 で、父たちは仕事に戻り、このまま母と一緒に帰宅することになりました。

 馬車の所へ行くまで母がしっかりと私の手を繋いでくれたのは言うまでもなく、着いたら着いたで和馬おじちゃんが、きゅうっと眉を八の字にして「ご無事で何よりです」と言ってくれました。

 それだけ皆さんに心配を掛けてしまったのですよね。すみません……。


 何はともあれ、迂闊な失敗を繰り返さないように気をつけたいと思います。










耳学問の豆知識:隠形術(観音隠れ)。

 手に入れた情報を持ち帰る忍者が追っ手から逃れるために、物陰に隠れて相手をかわす術のことだそうです。

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