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40 愛でられる黒猫 ~最終話~



 王宮舞踏会の日以降、蒼真は再び侯爵家通いを始めていた。

 休日になれば冬瑠を連れ出し、二人きりの甘い時間を過ごしている。そんな蒼真の変わりように戸惑う冬瑠だが、素直な感情をぶつけてくる蒼真に、日に日に心を寄せているのは誰の目から見ても明らかだ。


 秋が深まり樹々も黄色や赤へと景色を変え、社交シーズンも終盤を迎えた休日の今日も蒼真は侯爵家を訪れていた。


「冬が可愛過ぎて死にそうなんだが」

「――真顔で惚気か」

「あれは可愛いにも程があるだろう」

「うちの妹は可愛いに決まっている」


 正直なところ、あれだけ頑なだった蒼真の態度の激変に夏翔も苦笑いしかない。


「で、冬は何をしているんだ?」

「クッキーの再挑戦だそうだよ」

「再挑戦?」

「以前、冬のクッキーを粉っぽいと言っただろう?」

「あ」

「あの時は本心だったのか? それとも照れ隠しだったのか?」

「両方」


 夏翔の頭がガクリと落ちた。


「なんにせよ、今日は君のために焼いているんだから満足だろう?」

「言わずと知れた事」

「はいはい。ところで前々から聞いてみたかったんだが、もしかして、やる事があるって言っていたのは冬を見つける事だったのかい?」

「そうだが?」


 即答した蒼真に、夏翔は頬を引き攣らせている。


(一途と言えば聞こえはいいが、凄い執念というか、負けず嫌いというか……)


「冬を大切にしてやってくれ」

「言われなくても」


  ※※


 冬瑠は厨房の一角を占拠して、料理長に教わりながら、もう一度ラムレーズンのクリームサンドクッキーに挑戦していた。

 小麦粉を零したり、卵の殻を混入させたりと相変わらずの不器用さだが、一生懸命取り組んでいる。


「お嬢様、そんなにオーブンを見つめなくても焦げたりしませんよ」

「だけど心配なの。どうしても美味しいって言ってもらいたいから!」


 事情を聴いて出禁を解禁した料理長だが、冬瑠の不器用さを目の当たりにし、さりげなくフォローを繰り返していた。その光景を冬瑠の同級生たちが目撃したならば誰もが思うだろう。

 ――調理実習日には必ずぴったりとくっついていた清花そのものだ、と。

 オーブンの前に座り込んで真剣に見つめる冬瑠に、他の料理人たちも微笑ましく見守っていた。


 丸から長方形に変えたので以前よりもましな形に仕上がったクッキーに、力加減を間違えずにクリームを塗って出来上がりだ。

 クッキーを紙製の箱に盛りつけ、もう一つ用意していたサルオモテバナの実も別の箱に盛り付けていく。甘味と塩味の連鎖は言わずもがな。

 冬瑠は、四歳の時から始めたサルオモテバナの栽培を毎年続けていた。家族はこの時期を楽しみにしているのだ。だが、それも今年で終わりかと寂しさも感じていた。

 冬瑠と蒼真の婚儀が来年一月に控えている。その準備が着々と進められている。


「できた!」

「お疲れ様です、お嬢様」



 冬瑠の外出の支度が終わると、ダブルデートの約束をしている清花を迎えに馬車を回して、四人は王立公園へと足を延ばしていた。

 アーレント家の料理人とフレーゲル家の料理人が準備したバスケットを広げてピクニックを楽しんでいる。

 デザートの頃合いになると、冬瑠は徐に別のバスケットに手を伸ばして蒼真へと差し出した。


「蒼真様、クッキーを焼いてみましたの。おひとつどうぞ」

「ああ。早速」


 つぶらな瞳でガン見してくる冬瑠に、蒼真は心中で苦笑いだ。

 味を気にしているのだろうと分からないでもないが、そんなに見つめられると食べにくいものが。

 そんな二人を脇で見ている夏翔がすかさずフォローを入れる。


「冬、味見はしたのかい?」

「あ! あ、でも、料理長が美味しいですよって言ってくれましたよ!」

「ああ。美味しいぞ」

「ほんと?」

「ああ」


 花が綻ぶような笑顔になった冬瑠に向かって蒼真の手が伸びそうになる。

 夏翔と清花がいる手前、理性を総動員して二口目を食そうとした時、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。


「私もひとつ」

「私もおひとつ下さいな」


 これは自分のために作ってくれたものだからと、蒼真が渡すものかと籠を取り上げようとしたが、それよりも早く冬瑠が箱を夏翔たちに差し出してしまった。おまけに満面の笑みを向ける冬瑠が面白くない。

 ならばと、手に持つ食べかけのクッキーを、清花から分けてもらったマフィンを食べようとしている冬瑠の口に押し込んだ。


「むぐっ」


 何を食べたのか分かった冬瑠は、顔を真っ赤に染めている。


「な。ちゃんと美味しいだろう?」


 冬瑠が恥ずかしそうに頷くのに満足した蒼真は、してやったりと心中でほくそ笑んでいる。

 甘い空気が流れる二人に清花は口元を片手で隠して小刻みに震え悶え、夏翔はクッキーが更に甘く感じて遠い目をしていた。


(あ~、はいはい。今日も変わらずお熱いことで)


 冬瑠の唇に残っていたクッキーのかすを蒼真の指が優しく取り除ている光景から目を逸らし、夏翔は空を見上げている。







 雲一つない秋晴れの空に、一羽の鷲が賑やかな声が絶えない四人の頭上を滑空していく。


 その姿は――黒曜石のような色合いを放っていた――。










これで完結となります。

シビアな運命のもとに生まれた冬瑠ですが、きっと蒼真に溺愛されて、家族や夏翔、清花に見守られながら幸せな人生を送ることでしょう。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

本作品を閲覧いただいた全ての方に心より御礼申し上げます。




――この作品で最後というと、最後最後詐欺…ゴホゴホっ…(;^ω^)

諸事情(ネタ切れです…)のため、静かにフェードアウトいたします――。

ありがとうございました!

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