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16 黒猫、隠密スキル『七化(5歳児)』発動

本日2話目の投稿です。


 

 身長がもう少しで百センチに到達しそうな今日この頃、私も今年で五歳になります。平均身長よりも低いことはスルーして。


 そして今年の春、いよいよ私にも家庭教師がついたのです。

 文字は日本語なので知っていて当たり前。

 家庭教師がつく前から子どもの好奇心を装って、夏兄様が課題をやっている横で母から教わりました。

 書庫にあった絵本を使って、母も楽しんで教えてくれていました。

 なので、平仮名とカタカナはマスターしたことになっています。


 私が受ける勉強は淑女教育というらしく、貴族の令嬢として必要な教養を身に着けることが目的らしいです。

 列挙していけば、礼儀作法、座学、ダンス、裁縫、雑学です。


 礼儀作法は、これから参加することになるお茶会の作法、夜会の作法、立ち居振る舞い、王族に対する作法など、細かなしきたりを学んでいくそうです。


 座学は、地理・歴史、文学、語学、算術を順追って学ぶそうですが……教科書を見る限り地理・歴史と語学は別として、他の教科は簡単なのです。

 当たり前といえば当たり前ですが、幼稚園児が学ぶレベルなので退屈な時間を耐えられるか心配です……。

 語学は英語かなと期待しましたが全く違いました。日本語だけ一緒なんて、本当に不思議な世界です。


 本格的なダンスはもう少し成長してから習うそうですが、基本姿勢、ステップから徐々にレベルを上げていくのだとか。


 裁縫は令嬢の嗜みとして習うものらしく、母がやっていたような刺繍や編み物、パッチワークを覚えるのです。

 家族の部屋にある花瓶敷きなど、母のお手製のものが色々ありますし、父は我が家の家紋が刺繍されたハンカチを携帯しているのです。そんな風に、将来の家族のために学ぶそうです。


 雑学はこれまた幅広く、お花の名前から花言葉、紅茶の種類だったり、各領の特産物だったりと、話のネタとして役立ちそうな知識を詰め込んでいくみたいです。

 特に気をつけないといけないのは、お花を贈るとき。

 花にはいろんな意味があるし、本数でも意味が変わるのだとか。迂闊に贈ってしまうと家族にも恥をかかせてしまいますから要注意です。


 昔想像した通り、面倒な事がてんこ盛りな未来が待っていそうです……。


 ちなみに、貴族の子どもたちは十四歳になる年を迎えると、王立の学園に通うことが義務付けられているそうなのです。

 期間は四年間。

 その学園を卒業したら、十八歳でデビュタントを迎えるそうです。

 王宮で開かれる舞踏会に参加して、成人貴族と認められるのだとか。

 余談ですが、平民の子どもたちが通う寺子屋のような無償の学校もあり、そこに四年間通って文字や算術などを習うのだとか。こちらは十歳から十三歳の義務教育だそうです。


 地理・歴史の講義で最初に教えられたのは、王族と国の事でした。

 私が暮らすこの国は『バイルハルム国』といい、建国されてもうすぐ八百年を迎えるのです。

 現在は、第四十二代国王、雅直まさなお陛下が統治しています。

 王族の姓はキュヴィエ。

 王太子殿下には二人の王子がいて、現在十歳の第一王子は側妃の御子で、九歳の第二王子が妃殿下の御子なのだそうです。

 この国は地球でいうところの豪国のような一つの大陸に一国なのです。面積は豪国くらいでしょうか。我が国は東西の大陸間に位置し、玄関口となる主要四港を守るのが辺境伯様たちです。

 この世界は五大陸で構成され、我が国がある大陸はアリオール大陸と呼び、一番大きな大陸でもある東側をウェントゥス大陸、西側をスオーロ大陸、ウェントゥス大陸から南側の大陸をピュール大陸、スオーロ大陸から南東側の大陸をヒュドール大陸と呼ぶそうです。



 色々な事を習い始め、自分の不器用さにゲンナリしている今日この頃。

 学業はそれなりで問題ないのですが、裁縫系の嗜み分野が苦手なのです……。

 基本のところでつまずいて、なかなか先へ進めません。単純な形に仕上げるだけなのにどうしても歪に……。

 先生も母も焦らずにゆっくりでいいのよと慰めてくれますが、先行き不安です。


 それとは別に、ここ最近気になることがあります。

 それは、王子様の婚約者は高位貴族の令嬢って定番ですよね。私は侯爵家の娘です。なんとな~く嫌な予感がしたので聞いてみました。

 そしたら予感的中というか、どちらの王子もまだ定まっていないのだとか。

 更に嫌な予感が……。

 先生に何故かと聞いても分からなかったので、家族に聞いてみたいと思います。


 今日は勉強も仕事もお休みの日曜日なので、居間に家族が集まりました。

 チャンスです。


「お父様」

「何だい?」

「どうして王子様たちの婚約者はまだ決まっていないのですか?」


 あれ? 三人が三人とも一時停止しました。

 聞いてはいけなかったのでしょうか?


「それがどうかしたのかい?」

「先生にそう教わったのですが、何故かは分からなかったのです。王子様たちのお相手は、高位貴族から選出されるのが通例ですよって言っていたので気になったのです」

「冬が心配するような事はないと思うよ」

「そうなのですか?」

「ええ、そうよ。王子様方に歳近いご令嬢は、まだ他にもいらっしゃるのよ。だから冬にお話が来ることはないわ」

「そうだったのですね」


 ほっと一安心です!

 王子様の婚約者なんて苦労が目に見えるようで心配していましたが、大丈夫なようですね!

 私は平穏無事な生活を目指していますから。


 もうひとつ嬉しいことは、ダンスの基本姿勢をマスターするための練習が始まったのですが、小さい頃からのお散歩が功を奏し、基礎体力が培われていたので苦労することなく練習を進めています。

 それと、礼儀作法にある淑女の立ち居振る舞いの練習もです。

 先生が仰るには、私くらいの子はまだ基礎体力づくりが目標なのだとか。

 ダンスって結構ハードな運動と変わりません。身体を鍛えていないとすぐに足も痛くなるでしょうし、姿勢を保つのも大変。

 淑女の歩き方や立ち姿、椅子に座る時、礼の執り方も姿勢が大事。

 私の場合は広大な敷地を歩き回ったり、塀の外の景色が見たくて木登りしたり、庭に迷い込んできた野良猫を追いかけて走り回っていたので、日頃の生活で十分な体力がついていたのです。


 なのでダンスの講義は、次の段階の基本ステップに取り掛かっています。

 先生の手拍子に合わせてステップ、ステップ。


 お?

 あの頭は!


 二階のプライベートエリアにある空き部屋だと思っていた中の一つは、今みたいなダンスの練習に使用する部屋だったのですが、その部屋の窓から見たくもない男の髪色が見えました。

 庭で剣術の稽古をしている夏兄様と話しているようです。

 ですが、私は今レッスン中。お客様であろうと相手をする必要なし!

 張り切ってステップ、ステップ。


 カチャ。


 ん?

 ――何故、堕天使がここに来るのでしょうか。

 嘘臭スマイルを常備して近づいてきました。


「ステップの練習なら、相手がいると上達が早いって言うけどね」

「左様でございますね。歩幅の感覚や、パートナーとのタイミングを合わせる練習になりますからね」

「先生、私にはまだ無理ですわ。先生の手拍子レベルですからお気になさらずに」

「早く上達した方が君もいいだろう?」

「ですから結構ですわ」


 淑女の言葉遣いを勉強しているので、早速披露してみました。


「いいから、いいから」


 こ、この! 勝手に手を繋いで組んできました!

 本当に、どこまでマイペースな男でしょうか!

 先生が手拍子を始めてしまったので仕方ありません。


 ぎゅっ。


「痛いぞ」

「申し訳ありません……」

「ほら、また」


 わざとです――。


「もしかして、わざとやってるのか? じゃなきゃ下手くそだな」

「まあ、お下品な言葉ですわ。公爵家の御子息がお笑い種ですわね」

「さぁ、ここでターンしてみようか」


 ぐるんと回され、よろけましたよ!


「もぅ! 練習にならないです! 早く出て行ってください!」

「冬瑠様……淑女が大声を出すものではありませんよ」

「……はい、先生……」


 どうして私が叱られるのですか!

 なぁっ、何でしょうか! その、してやったり顔は‼


「おチビのうえに”淑女失格娘”」


 ぷつん。

 ぎゅぎゅっ!


「っ、お前今、両足で踏んだな」

「あら、気のせいですわ」

「へぇ? なら」


 ん?

 突然堕天使がしゃがみこんだと思ったら、私の視界がぐらりと傾きました⁉


「いやぁぁ! 降ろしてよ‼」

「出来の悪い生徒にお仕置きだが?」


 堕天使の肩に担がれ、お腹が苦しいのです!


「えいや‼」

「痛っ、こら! やめろ!」

「降ろしてよ!」


 無防備な背中にグーパン連打。ようやく観念したのか、堕天使の肩から降りることができました。


「出て行け」

「お前こそ言葉遣いはどうした」

「私は、お前ではありませんわ」


 ぐいぐいと背中を押して、部屋の外へ追い出し完了!

 さぁ、レッスンの続きをと先生に向き直ると、なぜか微笑ましいと言わんばかりの笑顔を浮かべていました。

 どうしたのでしょうか?


「仲がよろしゅうございますのね」

「誰と誰がですか?」

「おやおや。ふふふ」


 ま、まさか……堕天使と私がと言いたいのでしょうか⁈

 驚愕していたら、またしてもうふふって仰るし。

 どこをどう見たらそうなるのですか……。

 ――気を取り直して。


「……先生。練習の続きをお願いします」

「はい。では最初から」


 神経を逆撫でする男は視界から消しましたので、再びレッスンに集中しました。






 +++

『……蒼真……さっき冬の大声が聞こえたが、何をしてきたんだ?』

『ダンスの練習に付き合っただけだが』

『それでどうして”降ろせ”と聞こえるんだ』

『チビ猫が爪を立ててきたからお仕置きしたんだ』

『――君が何かしたからだろう』

『足をわざと踏んでくるからだ』

『はぁぁ……』

 +++










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