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12 黒猫、隠密スキル『七化(4歳児)』発動



 私も今年で四歳となりますが、言葉もしっかりと成長しました。

 恒例の誕生日プレゼントですが、去年は黒猫シリーズのポンチョタイプの雨具とショート雨靴でした。フード部分に猫耳がついていて可愛いのです。

 これがあれば雨の日のお散歩もバッチリ。

 両親は、そのためにプレゼントしてくれたのかもしれません。


 今日は、父も仕事がお休みの土曜日。居間に家族全員が集まって寛いでいます。

 父はクロスワードパズルを楽しみ、母は編み物、私は夏兄様と一緒にジグソーパズルに挑んでいました。

 夏兄様のために買ったパズルなので、少々難しいレベル。

 ですが、夏兄様は結構手際よくピースを埋めていきます。

 私はというと……あまり得意ではありません。四隅のピースを埋めさせてもらって、似た色を集めてみるだけ。


 そんな時間を過ごしていると、父が手を止めて夏兄様に声を掛けてきました。


「そうだった。夏翔、明後日、王子たちとの交流会がある。心得ておきなさい」

「はい、父上」

「交流会って何をするのですか、お父様?」

「王子たちと歳が近い子息が集まって、話をするのだよ」

「へぇ」


 もしかして、これは四歳児アピールのチャンスでは。

 所謂、おねだりモードです!


「お父様、私も行ってみたいです!」


 あれ? 父たちが一時停止しました。あ、やり過ぎたでしょうか。


「交流会は男の子だけって決まっているのよ。冬ちゃんは、お留守番でしてよ」

「そうだよ。後で僕がお話ししてあげるよ」

「はい」

「いいや、父様と王宮へ行こうか」

「え、でもあなた」「いいのですか、父上」


 お。風向きが変わりました。


「冬は二年ぶりの王宮になるな」

「はい!」

「なら、明後日は夏翔と一緒に来なさい。交流会には参加できないが、父様の部屋へおいで」

「はい!」


 久しぶりに王宮へ出掛けることになりました。母やご夫人方と庭園散策をして迷子になったあの日以来です。ご夫人方の集まりに母が連れて行ってくれますが、このところは別の公園だったりと王宮は疎遠でした。


 父は、王宮のどこへ連れて行ってくれるのでしょうか。

 今から楽しみです!




  ※ ※ ※




「ほら、足元に気を付けて」


 夏兄様の手を借りながら馬車に乗り込みました。

 今日は雨が降っていたので、早速黒猫雨靴を履いています。

 玄関ポーチにも広いひさしがあるし、王宮も大きな屋根がある部分で馬車の乗り降りをするので雨に濡れることはないのですが、気分的に履きたくなったので。

 母と執事の征爾さんに見送られて、馬車が出発しました。


「王宮に着いたら、父上が迎えに来てくれるからね」

「はい」

「父上の仕事の邪魔にならないようにするんだよ」

「大丈夫です、お兄様」

「うん」


 隣に座る夏兄様が頭を撫でてくれます。

 七歳になった夏兄様は身長も伸び、私とは頭一つ分以上も違っています。父も身長が高いから、夏兄様もスレンダーな紳士に成長しそうです。妹の欲目で見れば、きっとカッコいい容姿になるのではと思っています。


 そうこうしているうちに、馬車が王宮へ到着しました。

 馬車の扉を和馬おじちゃんが開けてくれると、夏兄様が先に降り立ちます。

 すると、どこからか男の人が声をかけてきました。


「夏翔・アーレント様でいらっしゃいますね?」

「ああ、そうだ」


 お、おぉ。夏兄様の雰囲気が変わりました。なんだか、どこかの御曹司のような話し方になっています。そうでした、侯爵家の御曹司でしたね。

 私が馬車から顔を出したら、その男性のお顔が戸惑いに変わりました。


「あの。そちらのお嬢様は」

「ああ、いい。私が呼んだ。夏翔、しっかりと務めてきなさい」

「はい、父上」


 扉の陰から現れたお父様が私を抱えて降ろしてくれました。

 夏兄様は、男性に先導されて王宮へと足を踏み入れていきます。


 ――なんだか、とってもあれな気分です。

 王宮とは、貴族とは、身分とは……こういうものなんですね。

 我が家は侯爵家。

 夏兄様の態度は何というか、その家に恥じない振る舞いをと日夜勉強に励んでいる努力の成果なのですね。


「どうかしたのか?」

「えっと、お兄様の雰囲気に吃驚しました」

「そうだな。夏翔は、冬の前では優しいお兄ちゃんだからな」

「はい」

「だが、我々貴族というものは、人前では気品を求められる。冬も来年の春になれば、そういったことを勉強するのだよ」

「はい、お父様」


 今の私の言葉遣いもそうです。いつの頃か母が教えてくれました。お父様、お母様と呼びなさいと。貴族はそう呼ぶものだと。


 私も夏兄様のように立派になれるよう頑張らないとですね。

 家族に恥をかかせてはいけませんから。



 父に手を繋いでもらって、久しぶりの王宮を歩いています。

 二年前は迷子になって慌てていたのでよく観察していませんでしたが、凄く天井が高いです。建物全体が芸術品ですね。階段を見上げてみると、踊り場の壁面にはこれまた美しい壁画が施されています。

 そういえば、迷子になったあの日の通路はどこだったのか。

 ――ふと、ここで一つ疑問が湧いてきました。王宮には、こんなに沢山の人がいるのです。なのにどうしてあの日は誰にも会わなかったのでしょうか?

 ……もしかして、歩いてはいけない場所だったのでは……。


「ほら、ここだよ。一度来たことがあっただろう。父様の仕事場だ」


 父の声につられて見上げてみると、迷子になった日に開けてみた会議室のシンプルな扉とは違って、精緻な螺鈿らでん細工が施された重厚な扉がそびえ立っていました。その扉は父の身長よりも更に高く、重そうな扉です。

 あの日は色々あって気が動転していたし、父に抱えられながら扉を通ったので景観が全然違います。

 身長が伸びたにしても、私はまだまだ父の腰にも到達していません。

 四歳児にしては背が小さい気もしなくはないですが、これから成長することを期待して、父が開けてくれた扉を通って久しぶりの父の仕事場に入りました。


「これからどこかへ行くのですか?」

「そのつもりだったのだがな。冬は行ったことがない庭園へ連れて行こうと思っていたが、雨が降ってしまったからね」


 そうでした。雨でしたね。残念です。王宮だから迷路みたいな庭園があったら楽しいだろうと期待したのですが。


「そこには迷路のような庭園があるのだよ。遊べたらよかったのだが」


 本当にあったんですね! 是非行ってみたいです!


「今日の交流会で計画されていたはずだが、変更になっただろう。小雨でも気が進まないだろうからな」

「誰のですか?」

「王子だよ」


 気が進まないって、この国の王子様って我が儘ちゃんでしょうか?

 窓際にあった椅子によじ登り、窓の外を眺めてみました。

 邸を出た時よりも雨脚が弱まっています。


「迷路庭園に行ってみたいかい?」

「はい。遊んでみたいです、お父様」

「なら、いつか連れて行ってあげよう」

「はい!」


 とその時、扉からノック音が聞こえてくると、いつか会ったことがあるお兄さんが入室してきました。腰に剣が吊るされていますが、騎士様じゃないようです。


「お嬢様がお越しだったのですね。では、出直してきます」

「ああ、いい。急ぎか?」

「ええ、まぁ」


 私は、そのお兄さんにぺこっと挨拶をして。


「冬瑠です。よろしくお願いします」

「これはこれは。私はヘイズ子爵が嫡男、守道・ヘイズと申します。父君の部下で補佐官をやっているのですよ。どうぞお見知りおきを」


 う、うわぁぁ……なんだか小難しい挨拶をされました。


「冬、少し待っていてくれ」

「はい」


 ヘイズお兄さんがお父様へ書類を渡しています。

 うぅむ。

 夏兄様の言う通り、仕事の邪魔になってしまいそうですね。

 じゃあ、一人で散歩に行きますか。

 父の机の脇に白紙の紙束を見つけたので、それを一枚拝借。

 丁度手が届く場所に筆記具を見つけたので、さんぽメモを書き書き。

 父の机にメモを滑らせて、うんしょ、やっぱり重たい扉ですね。

 早速執務室を出て散歩に繰り出しました。


 黒猫ポンチョ雨具を持ってきていれば迷路庭園で遊べましたね。残念です。

 お父様が約束してくれたので、次を期待しましょう。





 +++

『了解です。では、そう取り計らいます』

『頼んだぞ』

『はい。あれ? 長官、お嬢様が』

『ん?』


 名前を呼んでも返事がなく、暇を持て余して昼寝をしているのかと、秋周とヘイズがふたりして執務室内をくまなく探すがどこにも冬瑠の姿は見当たらない。


『あ……一体いつの間に……』

『これが話に聞く”書置き”ですか……』


 冬瑠の書置きを手にして、秋周は頭を抱えた。


『あの子は本当に散歩好きというか……嫌な予感しかしないがな……』

『いやまさかそんな。ここは王宮ですし。そう何度も厄介な情報を掴んで来たりなんて……しちゃったりして……』

『ふぅ……』

 +++










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