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1 プロローグ

ご無沙汰しております。

前作で最後とか言いながら、しれっと出没して連載始めました…。

どうぞ、さらりと見逃してくださいっ (*ノωノ)


では、物語のはじまりです――。



「おぎゃぁ、おぎゃぁ」


 助産師によって取り上げられた赤ん坊の元気な産声が室内に響き渡った。

 我が子の元気な産声に安心した母親の頬を、一筋の涙が伝っていく。出産に立ち合っていた者たちからも祝福と安堵の声が上がっていた。

 生まれたばかりの赤ん坊を、看護師が丁寧にタオルで拭っていく。

 まだ目は固く閉じられ、己の存在を知らしめるかのように泣き続ける赤ん坊の小さな身体からだを、母親が愛おしく抱き寄せた。


 扉の外では落ち着かない父親と幼い男の子がうろうろしながら、今か今かと新しい命の誕生を心待ちにしていた。

 室内から赤ん坊の産声が漏れ聞こえてくると、父親は男の子を抱え上げて喜んでいる。その声が聞こえてからしばらくの後、閉じられていた扉から顔を出した看護師に二人の視線が集中した。

 看護師から入室の許可を得ると、二人は室内に飛び込んでいった。

 ベッドに横たわる母親の腕に抱かれた小さな存在に、二人の目元が緩んでいく。


「旦那様、おめでとうございます。元気な女の子でございますよ」

「そうか、娘か。でかした」

「はい、あなた」

「母子ともに問題ありません。ゆっくりお休みください」


 母親の腕から父親の腕に抱かれた赤ん坊は、まだ赤く皺くちゃの顔でうぶうぶとぐずっている。

 母親のベッドによじ登って目を輝かせながら一心に見上げている息子にも見せてあげようと、父親はベッドの端に腰掛けた。

 肌触りの良い真っ白な産着から覗いている小さな小さな手に男の子がちょこんと人差し指を近づけると、生を受けたばかりの愛らしい力できゅっと握ってきた。

 その可愛らしい仕草に、三人の目元が更に緩んだ。


「貴方も生まれた直後はこうだったのよ」

「僕の妹」

「貴方もこの子も、私たちの宝物だわ」


 母親の白く温かい手が男の子の片頬を包み込むと、男の子ははにかんでいる。


「父上たちにも見せてあげよう」

「そうですわね」

「疲れただろう。ゆっくりお休み」

「ええ」


 頬に羽根のような口づけを受け、娘を抱いた夫と息子が寝室を後にすると、妻は安堵の息を吐いて静かに目を閉じていた。

 暖かく整えられ静まり返った室内に、窓の方からカサっという微かな音が聞こえてきた。樹々に降り積もった雪が重さに耐えかねて落下していた。

 外では牡丹雪が深々と降りしきり、辺り一面を白く染め上げている。

 窓枠に降り積もった雪が風に煽られ、はらりと落ちていった。


  ※※


「父上、母上。無事に生まれましたよ」

「僕の妹です。お祖父様、お祖母様」

「まあ、女の子だったのね」


 床に臥す主が妻の手を借りながら、介護ベッドのマットレスを立ち上げて身体を起こしていく。

 点滴の管が繋がる腕とは反対の腕を伸ばして、可愛らしい帽子を被っている孫娘の小さな頭を撫でた。


「貴方たちに似て、きっと可愛らしい子に育つでしょうね」

「はい。僕の妹は絶対可愛いです」


 祖母の腕に抱かれた孫娘は、まだ歯も生えていない小さな口を大きく開いて欠伸をしている。


「ふふふ。おねむの様ね。そろそろ眠らせてあげなさいな」

「はい、母上」


 小さな命は父親の逞しい腕に抱かれ、優しい笑顔の祖父母に見送られながら部屋を後にした。

 両親の寝室に準備されていたベビーベッドに横たわると、赤ん坊は愛らしい寝息を立てて眠りに落ちていった――。







「辛いだろうが、決して忘れるでないぞ。我が一族の使命を――」

「心得ています、父上」


 病を患ってから日に日に生気が失われていた主の瞳が、最後の炎を燃やすかのように輝いている。だがそれには、憐憫も滲ませていた。

 父親は娘の行く末を案じながら決意を胸に秘め、静かに頷いていた。





 それから間もなく、主は家族に見守られながら最期を迎えていた――。










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