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魔法で奏でる三重奏! ~無慈悲な世界は女神の箱庭~  作者: 雨宮鈴鹿
魔法で奏でる三重奏! 一章、無慈悲な世界は女神の箱庭
9/85

高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に

A.D.1545.2.2


「イエティイエティ……あった。えっと、標高の高い所く涼しい場所に住処を作る……セシリアー、こんなの教科書に載ってたっけ?」


「いまマギアちゃんが見ているのが教科書だよ?」


「え、マジで?」


セシリアから借りた本をいったん閉じて表紙を見たら『現代魔物学Ⅲ』と書いてあり確かに私の机の置く深くに眠っている本と同じものだった。これはおかしい、この科目は私も選択しているはずなのに。


「ホントだ、この教科書持ってる」


「はっきり言うけどマギアちゃんはせめて現代魔物学はちゃんと勉強したほうが良いよ?マギアちゃんはいっつもこの授業は『古代魔物学』の本読んでいるもんね。あの授業の魔物は大きかったり尾ひれが付いて強そうなのが多いけど……今はいないよ?」


「しってる。でも『現在魔物学』はつまらないって。あんなの動物図鑑見てるのと変わらないでしょ?」


小さくても優秀で強い魔物はいるけどどうせ戦うなら固有種とか超大型種とか戦ってみたい、自分の力が何処まで通用するか試してみたいからね。


「とりあえずこのイエティは二足歩行で白いゴリラって認識で良い?」


「うーん、でも教科書の印象はそうだよね。でもイエティは妨害系の魔法を使うから来をつけた方が良いかも。あ、マギアちゃんには意味ないか」


「そだね」




そんな訳で私とセシリアは現在、北の集落行きの馬車に揺られている。集落までは馬車に1日ほどゆられてから更に徒歩で3時間ほど歩いた台地にある……らしい。報酬だけで決めたけど思いのほか遠い。でもこれぞ冒険って感じでワクワクしている自分もいる。でも今は暇を持て余しているのでイエティに関する復習、私は初見だけどさ。


「ところでこのコート、暑くない?」


クエストを受ける事の可能になった生徒にはいくつかの道具、装備が支給される。ジョブによって支給装備は勿論変わる。私はイーランド王国兵士に支給される鋼製のブロードソード、片手で扱える最もオーソドックスな剣の一つ。斬れ味ではなくどっちかと言えば鈍器に近い。セシリアはこれまた彼女の得意とする木製の両手杖。これは魔法の力を高める効果があるし鈍器としてもそこそこ使える。私も本当は両手で使う武器が得意なんだけどな……クレイモアとかフランベルジュとか、ハルバードも良いかも。


話それたけどコートも支給装備の一つ。背中にはイーランド王国の紋章が刺繍してあって少し恥ずかしいけどCランクのクエストから灼熱、極寒の地での依頼も出てくるからコートは必需品になる。あと良い値段で売れそう。


「北の集落はイーランド王国な中じゃ高緯度に当たるから仕方ないよね。それにまだ2月だから、王都は赤道近いから暖かいけど北は極寒の地だよ? それにこれを着ておけば魔物は兎も角、人とかは迂闊に襲えなくなるからね。学生2人を襲う代償が世界最大の国家を敵に回すんじゃ不釣合いだよ」


襲われても返り討ちにするけど……セシリアの珍しいドヤ顔が見れたから無粋なマネは止めておこう、福眼。




話のネタは尽きて馬車の前に回りこんで先を見ると標高の高そうな山脈が見えてきた。山頂付近は雪化粧で白く染まり溶けた雪は川を作り見事な渓谷を作り上げている。澄み渡る川の水はクエスト出なければ足を止めて遊んで行きたいくらいだ。まだ寒いけど。


「セナさんから貰った地図によれば……だいたいあの場所くらいに集落があるみたい」


ひょこって馬車の前に出てきたセシリアの指差した方向は山脈の中で一番低い山の中間くらい。距離で言うと100マイルはある。まだ退屈は続きそうだ。







それから一日、私達は馬車の御者さんに運賃を払い馬車を降りる。昨日見えた山脈は目の前に聳え立ちまるで自然の要塞のようにそこにあった。


「これ今から登るのか……」


「受注したのはマギアちゃんだからね。でもこれ登るのは疲れそうだね……」


王都付近の整備された道とはかけ離れた獣道とすら言えない道、虫とか凄そう。


「あー、どうこう言っても仕方ない。行こうか」


「……そうだね、集落まで行けばいったん休憩出来そうだしね」


そう言うセシリアの顔は青ざめている、運動苦手だから仕方ないね。


「飛んでいく?」


「いや、折角だし足で登るよ、魔法頼みじゃ体が訛っちゃうからね。それに魔法は便利だけど使い過ぎはいろんな意味で体に良くない」


やせ我慢のセシリアはプルプルしながら笑顔を作ってそう答えた。セシリアは決して丈夫な方じゃないし運動が得意なんて事もない、だからこそその答えを尊重したかった。


「そう、じゃ行こっか」


「うん、行こ」


改めて振り返るとそこには聳え立つ山脈。辛うじて道と思われるそれをたどってゆっくりと登っていく。






「……なにこれ寒い」


山を登り始めて2時間ぐらい、私の体感だとそれくらい。思った以上に緩やかな傾斜で体力的にはセシリアでも余裕があるくらいだがある地点を越えたところで急に冷え込んできた。訂正、冷え込んできたなんてレベルではない。はっきり言って寒い。こんな地に人が住んでいるなんて考えられない。


次第に回りは白銀に染まりだし沈む地面のせいで足取りはとても重くなる。くそっ、安直にクエストを決めた事を今更に後悔する、これイエティより着くまでの方がきついのでは?


「なんてお使いゲー」


……クエストなんてそんなものか。にしても道は会っているのだろうか、集落は今だに見えない。道あってんの?


「地図にが正しければもうすぐ集落があるはず、コンパスが壊れてなければだけど……」


「………………」


セシリアが思った以上に疲れてないことにびっくりした。回復呪文を使った形跡は無いし。


「どうしたのマギアちゃん? 疲れた?」


「いや、こっちのセリフ。登り始めてだいぶ立つけどケロッとしてるから」


「うん、下から見たらお腹いっぱいだったけど登り始めたら緩やかで助かったよ。どっちかって言えば寒さのほうが辛い、でももうすぐだからがんばろう?」


そう? とだけ私は返して周辺に視線をやる。セシリアの話だと集落が近くにあるはずだけどやっぱり見当たらない。


「夜になるとヤバイって、最悪、魔法使っていこうか」


季節は冬、北半球の比較的緯度の高いここは日が沈むのが非常に早い。王都ではまだ明るいはずの時間の星の位置だけどここでは同じ時間、星の位置なのにもう日は山にぶつかっている、そう立たないうちに回りは静寂に包まれてくるだろう。こんな寒いところに留まるなんてごめんだ。


「……そうだね、ごめんねマギアちゃん。魔法使えばもしかしたらもうイエティ倒せてるかもしれないのに」


……なんでこの娘は、


「すぐに謝んない、ほら行くよ」


才能も努力も十二分のセシリア、アビリティも使いこなしてトップクラスの才能を持っているのに自信が足りない。何か自信を持つ機会があればきっと彼女は一皮も二皮も剥ける。何か機会が……


「……分かった、行こうマギアちゃん」


まつげが凍るような寒さの中、弱弱しく笑ったセシリアは私と共に雪に埋まり重い足取りをゆっくりと進めていく。







暫しの時間が経ち澄んだ空気には星空が輝く。すっかりと夜だった。本当にこんな秘境に人が住んでいることを疑う。


「全く、イエティが怖いならこんなとこ住まなきゃ良いのに……馬鹿だよ馬鹿」


何処と無く沸いてくる怒りを言葉にする事で解消する。疲れこそしないけどストレスは溜まる、こればかしはしょうがない。黙って溜め込むのこそ毒だ。


「セシリアー、さっきから黙り込んでいるけど大丈夫ー?」


後ろを歩くセシリアはもう暫く黙り込んでいる、疲れているのなら休憩を取ったほうが良いのかも知れないけどそもそも休むところなんて無い、この極寒の地では進むしかないから。


「セシリア? どったの……」


私が歩みを止めて後ろを振り向こうとした瞬間だった。私の肩にそっと触れたのは……セシリアの頭だった。


「セ……シリア?」


呆然としている私の体を這うように両膝を地面に膝をついた、そのまま横に倒れそうになるセシリアの軽い体をしっかりと支える。


「ちょっとセシリアしっかりしてっ!!」


どうしよう、セシリアがセシリアがっ!


「だいじょう……ぶだよマギアちゃん……ごめんね、足を引っ張って……」


息は荒く顔は真っ赤に染まっている。私がこんなとこに連れ出したから。えっと魔法で体力の回復……でもそれじゃあ根本的な回復にならないし……どうしよう、どうしようっ!


「とりあえず横に出来る場所を……」


羽のように軽いセシリアを背負って魔方陣を発生させる、戻るしかない。


「駄目だよマギアちゃん……折角ここまで来たのに戻っちゃ」


「そんなのセシリアと天秤に掛けるまでも無いでしょうっ!」


一瞬後ろから魔法、癒しの風を感じた。途端にセシリアと私の周りを暖かい風が包み込む。この魔力の流れは基本魔法呪文、この呪文は体力は回復するけどこの魔力では根本的な解決にはならない。でも魔法は毒、必要以上の回復は毒であり肉体こそ回復するが精神を著しく蝕む。彼女は上級魔法使いとしてそれを知っている。その結果なのだろう。


「……ハァ、ハァ、これで大丈夫。体は少しだるいけどきつくは無いから。ごめんねマギアちゃん」


「……どう考えても謝るのは私でしょ、ろくに考えもせずにクエスト受けて。ごめん」


どうしようもない馬鹿だ、我が身ながら救いようがない。セシリアとセナさんの忠告を無視して勝手した結果がこのざま、どうしようもないな。


「私は大丈夫だよマギアちゃん。それにほら、すっかり暗くなったおかげで見えたよ」


セシリアが指差したその先、かすかに小さく揺れる炎の光が見えた。

余談、考察


教科書

大人になってから開くと結構面白い。


学校支給のコート、装備

結構良いやつ、売れば半年は遊んで暮らせるけどバレたら退学です。そんな生徒もチラホラ。


クエスト

どんなクエストでも命がけです。

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