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魔法で奏でる三重奏! ~無慈悲な世界は女神の箱庭~  作者: 雨宮鈴鹿
魔法で奏でる三重奏! 一章、無慈悲な世界は女神の箱庭
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偽りの平和の中で

A.D.1545.2.2


イーランド王国が人の力、可能性を高めるために作った学校。表向きはそうなっているが優秀な人材を幼少から育て軍事力増強に当てる目的なのは誰が見ても明らか。ここの国の王様エリゴール4世は歴史を漁っても稀に見る野心家、その目的も容易に想像できる。しかしあの忌々しい事件の後だから誰も表立って指摘なんていないし出来ない。結果として王都アルローズのお城に隣接して立てられたこの学校は見事に成功し周辺国とは将来圧倒的な軍事力の差を持つ事になった。


あの事件はこの国の王様に軍事力を増強させる良い大義名分を与えたのだ。


私としては興味の無い話だ。学校を卒業したってこの国の軍に所属する気は毛頭無いしそれ以前の問題、私は誰かの下で働ける性格ではない。イーランド王国軍、中佐のフィリップさんに多大な迷惑を掛けるだけの話。それだけは駄目だ。


あ、そうだ。話に出てきたついでだけど私とセシリアはあの日、居場所を無くしてからフィリップさんの家に住まわせてもらってる。孤児院は私達孤児の最後の砦、そこが無くなったのだから居場所は無い。そんな私達を引き取って今日まで育ててくれたフィリップさんには感謝してもしきれない。


当時、露天商人だと思っていたフィリップさんの正体は今から9年前、孤児院が謎の大男に襲われてから2年前に魔物の大群を率いて世界征服を企んだ魔王を倒した旧世代の4英雄の一人でイーランド王国の陸軍中佐。アクセサリー作りは趣味らしく実態は超お偉いさんだった。


学校に入るよう強く勧めたのもフィリップさん。私がマガイアと女神マギアに強い復讐心を持っているのはフィリップさんは今の実力では歯が立たないのを誰よりも知っている。4英雄が全員で戦いまるで相手にされていなかったから。育ててもらった恩もあるし心配しているフィリップさんの推薦だ、無下にも出来ないしなにより未成熟な実力の私ではマガイアは倒せない。素直に学校に入って実力を磨いている毎日。


でもまぁ、本当は復讐に燃えていた私を学校に縛り付けたかったんだと思う。バカな私でもそれくらい分かる。セシリアも私のこと心配していたし……、


7年前のあの事件の後、人里近くで人間が襲われたって報告は無い。


今暫くはこの偽りの平和の中に浸るのも悪くないのかも知れない。






「ですから11年前に結成された魔王討伐軍の中にはまだ若き日のノエルも一傭兵として作戦に参加していた。そのころの時代背景はミナカンタ王国とイーランド王国の間に一時的な同盟が組まれ……」


「ふわぁ……」


眠い……強烈に眠い、なんとか頭を腕で持ちあげているけどもう限界。睡眠時間が足りてないわけじゃない、昨日も日が沈んですぐに寝たんだから。あと暑い。こんな環境で満足に勉強しろと言う方がどうかしている。つまらない歴史を書物を読むように淡々と話していく教師の授業は子守唄に等しく私を眠りに誘う。おまけに声が小さい。あのじいさん先生向いてないよ、書物を大勢の前で読むだけなら誰だって出来る、勿論私だって。あ、枝毛がある。サイアク。


「……昨日髪乾かす前に睡魔に襲われて寝ちゃったからかな、帰ったらケアしないと」



胸ぐらいまで伸びた自慢の銀色の髪をなんとなく弄っているとその視界に横に座って真面目に授業を受けているセシリアが入った。物凄い集中してこの魔物と戦うにはおおよそ必要の無い講義を必死に聞き取りノートに書き移していく。そんなに集中して受けたいなら私なんかほっておいてもっと前の席に座れば良かったのに、可愛いやつめ。あーあ、そんなに汗流して、こっちまで暑くなるよ。うん、もうずっと暑いけど。ってかまだ2月だよ、なんでこんなに暑いわけ?


あ、そうだ。


今の私は顔をニヤつかせてを隠せていないだろう。ばれない様にセシリアの背中の方に後ろからこっそりと手を回す。そして右手に魔力を手中させて、


「ひゃあ!」


言葉通り背中が凍るような冷気を送った。これくらいの魔力の発生なら先生にもバレて無いでしょ。よし、大成功っ。


当のセシリアは肩がビクンと上がって下から上へとぞわぞわと震えている。そしてすぐにカラクリ人形みたいにギギギとゆっくり困ったような怒ったような顔をしてこちらを向く。あ、これ予想以上に怒っているかも。


「……ちょっとマギアちゃんっ!」


前から見えないように頭を下げて小声で注意をされた。どうしよう、ニヤニヤが止まらない、隠せない。


「涼しかったでしょ? 少しクールダウンしないと勉強の妨げになるし。ほらセシリア落ち着いて落ち着いて」


優しい私、やっぱ親友には最高の環境で授業を受けて欲しいからね。


「あのねえマギアちゃん……それはマギアちゃんが暇なだけでしょ? そんなんで授業の邪魔しない。ほら、ちゃんと授業を受ける」


なにか下でごそごそしているかと思ったら取り出したのは鉛筆とノート。あらら、邪魔しない方が良かったかもなんて、もう遅いか。瞬く間に私がさっきまでうたた寝で頭を置いていた場所はノートが拡げられている。ハァ……全く、こんなつまらなくて下らない授業を受けるくらいなら私は少しでも強くなりたいのに。


「ため息つかないの」


「はいはい、セシリア様の仰せのままに」






「今日も無意味な時間だったねセシリア。はぁ、夕陽が眩しい」


今日最後の酷くつまらない授業も終わってようやく解放された。背伸びをして体を伸ばすと今日一日の無駄と怠慢が洗われる……気がする。


「確かに先生の話し方は声が小さくて熱意も足りないけど授業内容自体はとても面白いんだよ?」


「セシリアの言うことが正しいとしてもそれを伝えられない。それでその授業内容が伝わらないならその授業に意味は無いんじゃない?」


「それは屁理屈だよ……」


「でも正論。もういっそうセシリアが先生になっちゃえば良かったのに。うん、それなら私も最前列で目を光らして授業うけるね」


一切、瞬きせずにセシリアを見つめ続けます。


「またよく解らない戯言を……絶対間違っていると思うんだけどなぁ」


そうだろうそうだろう、セシリアの言うことはいつだって正しい。でもそれでも無意味な時間は御免。退屈は人を駄目にするんだから。それに私にそんな時間は無いしね。


「それよりセシリア、日が暮れまでまだまだ時間があるからちょっとカフェに寄って行こうよ。小腹がすいちゃってさー」


「何もしていないくせに……太るよ?」


その目線は私の脇腹を服の上から鋭く捉えた。その視線ははズルいって。しかしそれはセシリアが私に使える言葉じゃ無い。それを分かっているのかなぁ? セシリアちゃーん。私は知っている、セシリアが最近太った事を、その胸の脂肪が増えた事を。


「セシリアちゃーん、最近体重増えたでしょお? ねー」


その胸にな、ちくしょう。


「え、嘘っ!?」


私に背を向けて脇腹を確認し始めた。安心して、嘘とは言えないけど身も蓋もない話だから。


「ねえマギアちゃん、私太った? ねえっ!」


あー揺らさないで、疲れているんだから。でも悪くない……。


「冗談だって、太ってない太ってない」


だいたい剣士として毎日体を鍛えている私よりセシリアが絞まっているわけが無い、運動量も基礎代謝も私の方が断然上だ。セシリアが私に体の話をするなんて百年早いよ。


「だいたいセシリアは痩せすぎ、もうちょっと体重付けた方が絶対に良いって」


私より10キロ以上軽いくせに。摘まめる脇腹も無いくせに。巨乳のくせに。


「はい結論はご飯を食べましょう、って事。分かったらカフェ行くよー!」


「ちょっとマギアちゃん、マギアちゃーん……」


体重43キロの少女(20歳)は簡単に持ち上がる。恥ずかしがるセシリアを両脇からはさんで持ち上げそのままカフェに連行した。



学校内にあるカフェ、『エーデルワイス』その可愛い名とは裏腹にカフェの中は結構過酷な実践授業後の学生でごった返してる。この『エーデルワイス』含む学校で食事を楽しむ事ができる施設は7ヶ所ある中、ここは比較的オシャレで男子学生が少ないので静か……では無い。女子の方がえげつない話しているのは有名な話。そんな喧騒に包まれた夕方のカフェの端の方に席を取って紅茶を注文して待つ。因みに私はコーヒーが飲めない。


「何か食べるんじゃなかったの? 紅茶じゃお腹はあんまり膨れないよ?」


素朴な疑問を私にぶつけながら美味しそうにサンドイッチを頬張るセシリアはリスのようだった。そのサンドイッチの栄養が胸に行くと思うと何とも複雑な気持。セシリアは太らない体質だ。それだけでも羨ましいのに栄養を蓄えたと思ったらそれは全部胸に行く。私の推測ではE。


「別にお腹は空いてないよ、ちょっとセシリアに話が合ったんだけど家では出来ないと言うか?」


その言葉で全てを察したのだろう、サンドイッチから手を離して少し真面目顔になるセシリア。こう言う妙に勘のいい所は助かる。ベストフレンドのツーカーと言った所だろうか。


「……もしかしてフィリップさんに聞かれちゃダメな話かな?」


「……まあそんなとこ。ちょっとやってみたい事があって、まず先にセシリアに話そうって思って」


「当ててあげる、クエストでしょ?」


……本当に感がいいよセシリア。流石は学校主席の魔法使い、鋭すぎる。


学校は最短4年、最長7年での卒業が可能。そして4年目の2月からクエストを受ける事が可能になる。そもそもの話だが私達は学校の一期生なのでまだ試験段階だが最終的には実戦が必要との判断で王国公式のギルドでクエストの受注が可能になる。このクエスト、受けて単位が貰えるとかじゃ無いから無理に受ける必要は無いけど一回だけ、卒業試験として受ける必要がある。



ともあれ受けるのは学生なので受ける事の出来るクエストは限られるが利点としては2つ。魔物と唯一実戦できる事と、お金が手に入る。学校の授業内での実技は何処まで行っても対人戦。そんなの一部の魔物、それも人型の魔物は知能が高い魔物が占めるから少なくともAランクのクエスト以上で出るほどが殆ど。在学中に受けるクエストはCランクまでだからその実技には全く実用性が無い。私達が一期生だから教師人も慎重になっているのも分かるが正直言ってクエスト受注可能条件が遅すぎる。なお学校に入らなくてもギルドのクエスト可能だが学校入学の特典としてはギルドランクは通常、最低のFランクから始めないといけないのが学生及び卒業生はCランクから始める事が可能。年齢制限は18歳からだが通常、FからCまで上がるのは10年は掛かるとかの話。それも凡人の話だけれども。それにしてもだ、


なんだよ4学年の2月って。卒業2ヶ月前に解禁とは無能といって良いほど遅すぎる。アホか。


ともあれやっと魔物と公に魔物を叩く事が出来る。実戦だ、実戦。


「マギアちゃん近接戦、白兵戦の授業で先生相手に容赦なかったもんね……」


「教える側があんなに弱かったら話にならないよ」


「うんマギアちゃん、先生は決して弱くないよ。先生は悪くないよ。先生可愛そうだよ?」


「でもさ、あれこそ時間の無駄だよ」


学校に入れたフィリップさんが少しばかり罪悪感を感じているのか週に何回か実戦で稽古をつけてくれる。正直、学校の教師人と格が違う、比べるのも失礼だけど流石は英雄の一人だ、勝てる気がしない。だけれども確実に強くなっている事が実感できるのは嬉しい事だ。


あれ、学校に入る必要あったかな?

余談、考察


イーランド王国

マギアとセシリアの祖国。国力高くて強い国です。治安も良い。


学校

この世界、寺小屋や塾はあったものの学校規模の教育施設は無かったので初めての学校と言う概念の教育施設。だから学校と言う名前の機関。何だかんだ二人とも学校生活を楽しんでる。


エリゴール四世

有能で支持も厚い野心家、故に厄介。(ヒ〇ラーに近いかも)


フィリップ・ビュッセル (Philip Bussel )

フランス語。売店のお兄さんで正体は軍人さん(陸軍中佐)。元魔王討伐のメンバーで二人を引き取った本当に良い人。裏表の無い素敵な人です(本当に)。


体重43キロの少女

彼女の身長と胸のサイズから考えたら痩せすぎ、現実にはなかなかいない奇跡のプロポーション。

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