知識の探究者 風の魔女
A.D.1231.3.16
私がこの『神製7番星』に転生してからもう12年近くも経ちました。このバンガルス大陸を旅をする様に冒険して貿易を始め、交易を始めるのはとても大変でした。
この世界、結月さん曰くのこの大陸で初の木造大型船。驚くのは仕方ありませんが……その町や都市の貴族やお偉いさん、ビール共和国に関しては首都に寄港したわけでは無いのにYすっこう予定日には国王が来られました。とても優秀で物分かりが良い方で交易にも興味を持って頂きましたが。
そしてここ数年で大きく変わったことが2つ。
1つ目は船の数が6隻に増えました。1隻目は初めて作ったガレオン級アーク・ロイアル号、2隻目はこちらもガレオン級のセント・ミッチェル号。3隻目はキャラック級のディパー号、4隻目のキャラック級トライ・アンフ号に5隻目のキャラック級グレート・ハリー号に6隻目は今の旗艦、ガレオン級のクイーン・エリザベス号。船が増えるたびに次第にかつての艦隊を彷彿とさせ思わず笑みがこぼれます。もっとも、この船がこの大陸では前代未聞な事もありまして貴族や豪商に奴隷や武力的な契約など嫌な儲け話の話も来ます。勿論そのすじのお話はすべて断っていますが……国から話が来るのも時間の問題かもしれません。その為にも権力や国に屈しない様に艦隊、そして私自身も強くならないといけません。
余談ですが1つ目の余波みたいなものですが、この10年で船に乗る船乗りの方が増えた気がします。はじめはガレー船が占めていましたが今では小型船ながらも帆船もちらほら。ですが中型船規模も未だ見ません。設計図が無いと0から作るのは非常に難しいですから、そこは過去の世界の先人たちに感謝ですね。
因みに大型船の設計図を一般公開していません。造船所のノアさんにも設計法を漏らさないことを強くお願いしていますし、この世界で生き残る為にも総合的に強者でなくてはなりませんから。結果的にではありますが私のアビリティも有意に働きます。実はこれから作る上位の船、兵器から目を逸らさせる為に大型船を作ったのもありますが。
そして2つ目、これはなんと言いますか……
「姉さんはもっと海の女を目指した方が良いのでは?」
「……はい?」
「海賊っぽくもっと砕けた話し方で上から目線で生きましょう!」
「いえ、海賊ではありませんから……昔は半分海賊でしたが」
「船長は巷では海の女王と呼ばれています! 我々の為にもっと威厳を持って下さい!」
「ええ……」
「俺は悔しいです! 海の女神とまで謳われた姉さんが舐められるなんて!」
「誰に?」
この艦隊は外から見ると屈強な水夫を束ねる大艦隊の女船長とみられているみたいです、その通りですが。それに19歳で年齢停止した私が10年も同じ容姿をしているものですから『海の女神』などと恐れ多い2つ名もついてしまいました。
「フハハハ、かつての姉さんの父上が祖国の希望や英雄となったように、イスパニアから悪の竜と恐れられた様にこの船の皆も新しい時代の英雄を求めているのでしょうな!」
「いや、私女性です。ヒーローは男性に使いますよね?」
「そうでしたか? フハハ、しかしこのつまらない時代です、この船団は新しい時代の風ですからその時代の渦中の皆は嬉しいのでしょうな」
「そんなものでしょうか?」
「ええ、間違いなく」
ディエゴの言う事も一理ありますね。この世界に来た時冒険ギルドでクエストを受けましたが低ランクと中ランクまでは素材集め、弱小モンスターの討伐と冒険者は意外と夢が無いですからね。それに貧富の差が激しくかつては需要が0に近かった造船関係の皆は今はこの船の水夫として働いています。人気職らしく今も新しい船を作って頂いている皆様もこちらを希望しているみたいです。
「そんなわけですからここは1つ、金髪ロールが似合いそうな高飛車お嬢様キャラ等はいかがですかい?」
「……なんですそれ?」
金髪ロール? 確かに私は金髪ですが。それに私は貧乏村の貧乏出身です、方向性があまりにも違う気がしますが。因みに髪型は前世からポニーテールでしたが昔、麻里さんの髪型ハーフアップがとても綺麗でそれ以来、じっとハーフアップです。余談ですが麻里さんはくるりんぱポニーテールがメインでした。
「モノは試しでさぁ、水夫に高飛車キャラで接してみてくだせぇ」
「は、はい。分かりました。コホン……皆さん、私の為に早く仕事をしてくださいな!」
「オオオォオオオオォォォォォオーーーー」
「やんや、やんや!!!」
ここは私達の旅立ちの港、イーランド王国首都エルローズの港。艦隊の航海士に水夫1000人超、そして造船所の職人達数百人は3月の春一番の肌寒い風を跳ね返す様に異様な熱風に包まれました。それはもう英雄の凱旋の如く。
「流石は姉さん、『風の魔女』の名は伊達じゃありやせんな!」
え、なんですそれ? 始めて聞きましたけど。
「姉さんは今、時の人なんです。それくらい高圧的な態度の方が箔がつくってもんです!」
いえ、別に要りませんけど……、
「海の男を束ねるのでさぁ、威勢は大事でさぁ!」
…………、
「なにより姉さんを嫉妬故に影で叩く者もいる。それが我らは悔しいのです!」
……、
「姉さん、もっと高圧的で構いません! 最高でさぁ!」
……悪い気はしませんね。
「コホン……。はい、休んでいる時間はありません。食料、水、交易品を積んだのち直ぐにミナカンタ王国、ペントワープ港に寄港します!」
「「「「やんや、やんや!」」」」
完全に楽しんでますね、ですがそれで彼らの士気が上がるのであれば……良しとしましょう。
「随分と大きくなったものだ、しかし君とディエゴは10年前と全く変わらんな」
騒音と熱気の中、私の後ろに現れたのは私の艦隊の船全ての製造をして頂いたノアさん。初めてあった頃から歳を召されていましたが今では杖を付いて歩いています。かつては白髪交じりの髪は今では真っ白に。もう70を超えている、この国の男性平均年齢の60弱を大きく上回っています。不謹慎ですがもういつ召されてもおかしくはありません、口には絶対にしませんが。
「カッカッカ! 『風の魔女』の名前は伊達じゃないの、姿が全く変わらん、わしはもう造船に指示でしか出来ん。船に携えるのもこれで最後かもしれんの」
今だ完成していない7隻目の船。ガレオン級の船、6隻目に当たる現旗艦のクイーン・エリザベス号が半年前に着水したばかり、7隻目はまだ木の切り出しをしている段階です。1年後には完成するでしょう。
「そんな悲しい事を言わないでください、ノアさんが居たから私の船団が実現しました。まだ現役でお願いします」
「ハッハッハ! まだまだ死ねんよ、こんな楽しく遣り甲斐のある事簡単に辞められる事では無い! この7隻目まではわしが責任を取って完成させてやるわい! だからお主等はわしの事は気にせず航海を続けるが良い」
足と杖を突いた手は震え本当は立っているのも難しいはずなのに、本当にありがたい言葉ですね。
「ありがとうございますノアさん。期待してますね」
「カカカ、任されたよ!」
「姉さん、今回も大陸を1周してアルローズに戻りやすかい?」
「いえ、今回は少し寄り道をしようかと思います」
首都アルローズを出てバンガルス大陸をいつもの様に反時計回り。では無く少し寄り道を。いつもは2番艦『アークロイアル』の艦長を任せているディエゴを1番艦の私の艦長室に呼んでいます。他にも各船の船長や航海士を呼んでいます。その前でこの大陸の地図を広げます。
「このイーランド王国とビール共和国の間の大きな内海、シャム・ダルリャル巨大湾の中にはいくつか島が存在します。所有権は各国にありますがいずれも無人島、戦略的価値も現在ありませんし買い叩く事が出来ると思います」
大陸の領土は王や皇帝、貴族が支配し自由が利きませんが島なら。
「ですがその……姉さんの決めた事に異議を立てたくは無いですがその島に何が?」
「同感です、姉さんが決めた事なら付いて行きますが理由を伺いたいです」
もっともですね。私に最初からついて来たディエゴは無言です。理由なくとも付いて来てくれるようですが理由は分かっていないようで頭に『?』が見えます。
「この船は木で出来ています。ですがこの世界にはまだない物を作りたいですしこの船、技術を狙っている者や国家もあるのも事実です」
少なくとも今はこの船を戦争に使って欲しくは無い。まだ研究したい事が沢山ありますから。そして同時にこの艦隊を守る技術も必要ですから。
「新しいものを作るのに私は知識はありますが技術、そして何よりそれを作る素材もありませんの。その素材があるのであればその島を買い叩きましょうと思いまして、デイエゴ以外はこの大型の帆船も未知の技術のはずです。それ以上は私も分からない事が多いですがまあ、まずは鉱石。特に鉄鉱石と硝石に銅鉱石。金銀や宝石もあれば有りがたいですが……そこまでは求めません」
金銀は相当の額をこの10年で稼ぎました。ですがそれは『通貨』としての価値が高く『素材』としては両が圧倒的に足りません。流石に国を作るなどと恐れ多い事をするつもりはありませんから国に属する予定ではありますが、今はどの国にも魅力がありません。
「聞くより見て貰った方が分かり易く説得力がありますね、ディエゴ!」
「任された姉さん!」
ディエゴが持つのは90センチほどの鉄の棒。死神の魔導書が私に齎した知識は興味深いものが多すぎます、そしてそれが正当な進化であって私達の時代の技術の進化。でしたらまずは私達の技術の再現を。
そして……私自身もそろそろ魔法の研究もしたいですから。今のままでは他の『可能性持ち』と敵対した時に負ける事になりかねませんから。
甲板にあつまる船長人に航海士、彼らを乗せた船団はミナカンタ王国、ペントワープ港に向かっていた。
A.D.1231.4.13
~ミナカンタ王国、ペントワープ港~
町はずれのとある小屋。
「オイピープス、進展ハドウダ?」
「もうすぐ完成しますよ。はい、扇風機」
外を囲う安全ガードさえ無いがそれは紛れもなく手持ちサイズの扇風機だった。その風を受け髪を揺らすのは妖精。しかし懐中神苑の妖精とは違いその妖精さんは魔女風のゴシックドレスでは無く袴を着付けていた。
「エ……魔法でイインジャネ? コンナソヨ風作ッタッテ」
「何を言います、逆に考えて見なさい。魔法が無くても風を起こせるんですよ? ようやくこの化石の様な時代で私の文化的生活の第1歩を踏み出したんですから。銅線を作るだけでも魔法を使わず細さを均一にするのにそれだけで大変でしたよ」
「ソノ金属ノ糸ノ事カ?」
「そうです、コイルは沢山の電化製品に使いますからね。電気自体は石炭が少量ではあるが取れている。石油に原子力、重力エネルギーは暫く要りませんね、私と銀花2人暮らせれば構いませんから」
銀花と呼ばれた女性型の妖精はその言葉に笑いながら、
「ケ、シケテンナ! ダガピープスの菓子ハ旨イカラナ!」
ピープス。ショートカットの黒髪に180の高身長、の割には細身のその男は黒ズボンに白シャツ、だらけた着こなしのサラリーマンの様な姿だった。そんなピープスの頭の上に銀花は座り足をプラプラさせその足はピープスの顔に当たる。
「あのですね銀花、妖精が人より軽いとは言っても10キロくらいあるんです。重いんですよ……あ、チョコチップクッキー食べます?」
「分カッテイルネェ。トコロデピープス、『風の魔女』ノ噂ヲ知ッテイルカ?」
「ああ、確かこの大陸初の大型船、それも帆船を作り風を味方につけたと言われる船団の船長でしたか? この扇風機で勝てますかね?」
「馬鹿ジャネーノ?」
その体のサイズからは大きなチョコチップクッキーを頬張りながら銀花は心底馬鹿にしたように話すがその視線はクッキーに集中していた。
「冗談です、相手が虫なら飛んでいきますが。気にしない様にしましょう、ですが」
「モシ反応、敵対シテキタラドースル?」
銀花のたわいもない質問にピープスは暗く……黒く笑い、
「この私に時間を取らせるんです、承知はしませんよ?」
余談、考察。
交易、貿易
中世~近世に関して船での貿易は大規模の売買なので専用の交易所、大型船の停泊できる出航所が必要。また、他国と個人が交易をするわけだからその国、土地の王族、皇帝、総統、貴族との契約が必要。自国、自領が潤うので許可する者もいるがそうで無い者もいる。そういう者はお金で何とかなる場合もある。
リリー艦隊の船の名前
全てイングランド及びイギリスの史実上の船の名前。因みにリリーの時代からしたら未来の船の名前もある。
キャラック級
ガレオン級より少し小さい船。
金髪ロールが高飛車のイメージ
結月が懐中神苑時代にディエゴに話した。
海の女王
リリーの2つ名その1。この時代、この大陸では前代未聞の大型木造船の艦隊を率いているから。
風の魔女
リリーの2つ名その2。帆船により人力では無く風の力で船を動かしているから。また、リリーは歳を取らず外見が変わらない為、魔女と呼ばれている。
高飛車リリー
リリー艦隊の航海士及び水夫は信仰レベルでリリーを慕っているのでロールプレイを楽しんでいる。リリーも悪い気はしない。
ノア
彼が初めてリリーに頼まれて船を作ってから10年。御年72歳で非常に高齢。この国の平均寿命が58歳、彼がここまで生きているのは大型船を作った誇りと彼にとって最後の船完成を見届ける為。現代日本で例えたら100歳超え。
島の買収
リリーが求めているのは主に鉄鉱石と硝石。銅鉱石と金銀財宝があればラッキー程度。鉄鉱石は鉄の生成に必要で硝石は黒色火薬の材料。何を作るかはご察し下さい。
ペントワープ港
ミナカンタ王国の東南東に位置する王国最大の貿易港。規模は首都に劣っていない。
ピープス
黒髪ショート、黒縁眼鏡に黒ズボンに白シャツ。要するにクールビズのサラリーマン風の容姿。詳細不明。
銀花
女性タイプの妖精で桃色と紫色の袴を羽織り大正ロマン溢れる容姿をしている。詳細不明だがピープスと行動を共にしている。格好を分かり易く例えると『艦〇れ』の『神風型』の格好。性格、口調はやや荒っぽい。




