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魔法で奏でる三重奏! ~無慈悲な世界は女神の箱庭~  作者: 雨宮鈴鹿
魔法で奏でる三重奏! 二章、WW2 前編
48/85

私椋船長の意地

MHWIが私的に再燃し遅くなりました、ではどうぞ。


誤字脱字がオンパレードですので教えて頂ければ幸いです。

A.D.1545.3.17


AM4:02 シャムリャ湾 魔道船ゴールデン・ハインド号


ゴールデン・ハインド号の甲板の上では金属と金属がぶつかり合う音。それに時々魔法の音が鳴り響いていた。


すでに一時間以上に渡る一騎打ち、対面するドレイクとアーロンは息こそ上げないが疲労の色に濃く染まっていた。


「ハァ……ハァ……化け物鎧ですわね。連合国にも欲しいものです」


「よく言う……貴様こそ本当に人間なのか? 相変わらず馬鹿げた戦闘能力だ」


鎌を構え直し瞬間移動とも思える速度でアーロンの前まで移動して下から鎌を突き上げる。その速度に殆ど反応出来ないアーロンだがその身に纏う幻日が渡した鎧、通称『ブラックホール』は鎌を弾き傷一つ付かない。すぐに構え直し今度は魔法を放つがその魔法も『ブラックホール』に吸収され散るように消えた。唯一の弱点と思えた関節部分も結果は同じ。それはまるで個人が纏った要塞、何一つ有効打を与える事は出来ない。


この戦いの中でアーロンはドレイクの強さの認識を改めなければならなかった。ドレイクの最もの強みは慈愛とカリスマから来る信者とも呼べる部下からの絶対的信頼、そしてその若さからは想像も出来ないたぐいまれなき指揮、戦術能力が彼女の最大の武器でこれまでもイーランド王国は彼女率いる海軍に苦汁を強いられてきた。逆に彼女自身の戦闘能力は低いと考えられてきた。


しかし現実はどうだ、クラシカルロリータを纏いハーフアップでまとめたブロンドヘアー、そして自分の身長ほどのデスサイズと左手には青いアンブレラ。舞うように戦う彼女には無駄がなかった。


最初はふざけているのかとも思ったし彼女が戦わない前提で着飾っているとかとも思った。カリスマを持つものはその姿にも気を使わないといけないからだ。


現実は違った。その正体は『アレス』と名を変え、死んだと思われていた、前の大戦で絶対的な暴力を振るった『リリー』。青を基調としたそのクラシカルロリータ服は物理的守備力は兎も角、魔法を軽減するしデスサイズはトリッキーで動きが読めない。アンブレラは盾として十分な守備力を誇っていたしその素晴らしい武防具を纏った彼女もまた、一流の猛者だった。


かつてアーロンは四英雄のリーダー、ノエル・パスカルと模擬戦で戦った事がある。模擬線なのだから双方全力ではないがその時のノエルと今の戦っているドレイクの実力差はダンチだ。それでデルタ・ビール連合国最弱なら他の二人、ニーナ・エルフリーデ・オゾンとフレイア・ピア・オゾンは、どうなるのだ?


この戦争は勝てるのか?


イーランド王国の軍人としてトップに近い彼は弱気にそう考えたがそれはドレイクも同じだった。


アーロンは動きこそドレイクに比べ遅く魔法も使えない為、立体的な戦術をたてることが出来ないがこの防具が全てのパワーバランスを壊していた。


「マギア・ドゥミナスが持つ『アンチマタレールガン』でも傷を与えられる程度しか出来ない上等品です、この世界では無敵の防具と言っても過言ではありませんね、()()()()()()。ジリ貧ですがアーロン大将でも五分で戦える……はずなのに。気持ち悪いですね……『可能性持ち』のリリーがこんなに弱い訳ない。手を抜いている? どうでもいいか」


甲板の端、そこでこの戦いに微塵の興味も示さない幻日は爪やすりで爪を磨き時折見せる小さなあくび、それがドレイクには不気味でしょうがない。それにこの『ブラックホール』なる防具に対する幻日の評価は上等品、まるでその上の品がいくつもあるような言い草。その考えが正しければ彼女、幻日の危険度は大きく補正して考えなければならない。


「ハァ……ハァ……私の攻撃は一切効かない、ですか。これは精神的に参ります、ね……」


物理攻撃も魔法攻撃も効かないならアプローチを変える必要がある。


「ですが……防具自体がどれだけ優れていましてもその中は人の身でしょうに!」


カタルシスと名付けられたドレイクの身長よりも大きなデスサイズを飛び上がり下から上へと薙ぎ払う。金属の甲板と摩擦をおこし火花が飛び散る中、高速で突き上げたデスサイズにアーロンは対応出来ず成人男性のその体は容易に空中に高く浮き上がる。そしてそれより早く上えと飛び上がりデスサイズをアーロンの首へと引っかけると自分ごと空中で一回転させ地面に叩き落した。


「成るほど、確かに防具の強度は高くても中に入るのは人間ですからね。確実に、着実にダメージは入ります。ですが、だからと言ってアーロン大将もそのまま黙って殺られるような人では無いですよ」


「グホッ……」


バイザーの中から潮の匂いに紛れて微かに血の匂いが立ち込めドレイクは少しばかりの希望を持つ。


「優秀な防具でもそこまでは防ぐことが出来ない。安心しました」


完全にバランスを崩し伏せているアーロンはもがくように右手の剣をドレイクの横腹目掛けて振るう……が、


ダァン……


乾いた銃声、その後ドレイクの腱は謎の力に弾かれ中を舞う。銃の概念が無いこの世界ではアーロンは何が起きたか解らなかった。


「仕込み傘ですか、なんて古典的な事を。しかもマグナム弾、丈夫な傘ですね」


呆れたように笑う現日、それが不気味で不快で。けれども今のドレイクにとって最優先はアーロン、今の彼女に現日を構う余裕は無い。


剣を弾かれて一瞬ではあるが怯むアーロン、その一瞬をドレイクが逃すことは無くヘルメットの横に傘拳銃(ガン・アンブレラ)を突き刺し甲板目掛けて二発、発泡。聴覚障害をも起こすマグナム弾の発砲を耳元で行われたらどうなるかは容易に分かる事。右耳の鼓膜は破れアーロンは苦しそうに意味不明の譫言を呟いている。


「三半規管を破壊しましたから暫くは立つことも出来ません事よ?今度は貴方が戦いますか?」


傘銃のマガジンカートリッチを変えながら幻日の目をはっきりと見るドレイクに対して幻日は興味無さそうに目を合わせようとしない。


「戦いませんよ、最初にそう言いましたよね?貴方がズルをするから私も少し手心をと考えただけです」


「手心……それ以前に貴方の仰るズルとは?そのような事した記憶はありませんが?」


「どー考えてもズルでしょう、時代錯誤も甚だしい兵器持ち込んで。なんなんですか装甲艦って。燃料と弾薬、それに魔法対策さえとれば一隻で一国の海軍を壊滅させる事が出来るんですから。違いますか?」


「それは我が祖国の血と汗の結晶ですわ。王国側も数で押してきました、それと大差は無いと思いますが?」


「……確かにそれが連合国の努力の賜物なら私だって口出ししませんし退屈な船旅もしません、ですがそれは連合国のものなの?違いますよね『可能性持ち』さん?」


「…………っ!?」


目も見ず淡々と話す幻日、それはそれはつまらなそうな顔で。


「この世界は大砲は愚か銃すら発明されておらず遠距離攻撃は弓かその派生武器のボウガン、それに魔法。火薬すらまだ最初期状態、銃の開発着手まで本来はあと百年ぐらい?貴方がこの世界で生まれ育ち文化を育みその結果なら私も手出しはしませんよ、だが貴様はそうじゃない。別の世界で生まれ悠久を育ち学びこの世界の(ことわり)から外れた方法で戦争をしている。それはもう只の虐殺ですよ」


「……王国の馬鹿な王は己の欲の為に他国を侵略する強欲の化身、先の世界大戦では兄さん含め我々姉妹は守りに徹しましたがそれを良い事にあの強欲の王は魔王軍襲来の過ちを忘れ愚策にも再び戦争を仕掛けました。戦争をビジネス程度にしか考えていませんわ、あの愚王は。先の大戦でどれだけの人が死にましたかご存じでして!?」


「でもそれを裁くのは人間……とは言いませんが()()()じゃ無い。人外が混じるのは頂けません、貴方人間名乗っていますが人間辞めてるじゃないですか。ねぇ、堕天使、そして死神と契約した不死者さん。それと貴方が話す理論なら私も貴様も同じ穴の(むじな)でしょう?それなら私はとやかく言われる筋合いはありません」


一方的で高圧的で。しかし間違いは言わない幻日の態度にドレイクは憤慨寸前、それを直前で止めているのは重ねて話すがそれが正論だったからだろう。しかし正論がいつも正しいとは限らない。


「……かも、知れませんが私は連合国所属の軍人であり貴方はそうではない。ただ戦場をかき回す行為は忌み嫌われる行為はです」


「私も今回に限っては王国軍人なんですけどね、王国ギルドはお役所勤めですから。さて、ではくどい話はここらで幕引きと行きましょう」


背中から得意の得物、木製の折り畳みの弓天之麻迦古弓(あめのまかこゆみ)を展開、更に何処から取り出したか白く淡く光る矢を取り出し行射の構えを取る。しかしその矢先はドレイクでは無く薄暗い虚空、真上を向いていた。


「この海戦は大将同士の一騎討ちて貴方が勝ちました。よってこの海戦も連合国の勝利です、おめでとう御座います。嬉しいですねー」


呟く幻日の破魔の矢、天羽々矢(あまのはばや)には火花に近い白い光が集まり、次第に眩しく光だす。


「貴方、()()人間なのでしょ?ならとっとと帰ってください」


ドレイクの魔道船の上にいるのに何とも傍若無人な態度、そして虚空を捉える幻日の姿にただ戸惑うしか出来ない。


「約二十一年前に女神マギアが人として生まれ人と神との間で亀裂が走り冷戦が始まりました。この世界の話ではありません、そして神はこの世界への介入を始めました。マギアの存在と()()()()()()()()使()ラファエル・リュック・オゾンの存在のせいで。耳をふさいで口を大きく開けて避けてくださいよ、ドレイクッ!」


遥か上空、虚空を捉えていた幻日の弓はいきなり向きを変えドレイクに。正確にはドレイクの左後ろ、闇に向かい放つ。


瞬時に亜光速まで達した天羽々矢を目で追う事はおおよそ不可能。呆気にとられたドレイクの少し後ろで、何もないはずの場所でその矢は()()()往なされ次第に燃え遥か後方に消え行く。


そして亜光速で放たれたのは光では無く物質。実態の無い電磁波ではなく物質である矢が空気中を亜光速で飛んだらどうなるか、博識なドレイクが解らないはずはなく、幻日の発言により()()()()()()()()()()把握した。


「くっ!!」


目視して分かるレベルで空間が歪みその直前でドレイクは横に飛ぶ事により避ける。装甲艦の甲板は抉れ爆音と共に竜巻の様な大きな風を起こしまた瞬時に止んだ。間一髪、横に飛んだドレイクのクラシカルロリータ。それは属性攻撃に対する耐性を大きく軽減するマジックアイテムだったがそれでも右袖部分は大きく削がれ紫に腫れた腕からは血が滲み出ている。


「ソニックブーム……いえ、そんな生易しいものではありませんね」


「呑気に解説してる場合ですかっ!?」


一瞬とも呼べる時間で左手に持っていた天之麻迦古弓を背中に戻し腰に携えたソードブレイカー型のナイフ、エミリネイターを右手に構えて()()()()()()()()()()()()目掛け炎属性を込めて突くと同時に横に飛び今だ態勢を立て直していないドレイクの左腕を掴み幻日自身の後ろに乱暴に引っ張る。それと同時に回復魔法を左腕から流し込み腫れた右腕を治療。


ドレイクが大きく混乱する中、今度は数秒前までドレイクが伏せていた場所は何かの物理攻撃を受けて甲板が大きく凹む。


「……何用ですか、これは人による戦争であって貴方の入る必要は無いと思いますが」


先程から異常現象を起こしているその空間に向かい幻日はおおよそ人のものとは思えない程に冷めた声で話しかける。


「フム、気配も隠したつもりがバレるとは……腕を上げたな」


「貴方に褒められても不快なだけです、消えてくれませんか?いえ、ここで消します」


何かに阻まれた様に空気中で止まっていた幻日のエミリネイター、空間が歪みそこにはエミリネイターを阻んでいた正体、薄暗い中でも更に光を吸収したように漆黒に染まった大剣。


それは七年前、小さな孤児院を襲った者が所持していた大剣グラム。剣以外も次第に現れそこには二メートルを大きく超える身長にきっちり着込んだスーツ。それに特徴的なスキンヘッドに皮のコート。


「幻魔マガイア……」


マギアが暮らしていた孤児院が燃えたあの日以来、七年ぶりにこの世界に姿を現した女神マギアの右腕、マガイア。その者は幻日とドレイクを見下し笑っていた。

余談、考察。


クラシカルロリータ

ドレイクが着飾っているドレスで物理防御は無いに等しいが属性魔法及び属性攻撃の耐性が高い。それに追加し、ドレイクの個人的趣味でもある。


傘拳銃(ガン・アンブレラ)

ドレイクの所持する仕込み武器。広げれば剣も通さない防具にもなりマガジンによって銃弾を変えられるシステムウェポンでもある汎用性の高い装備。半面、ずば抜けた性能は無いので相手によっては役に立たない。


天之麻迦古弓(あめのまかこゆみ)

ギルド『カノン』の圧倒的技術をもって作られた弓。フェブロインとグラフェン、それにカーボンナノチューブで編んだ繊維に更に魔法を練り込み出来上がったもの。名前は日本神話から取っている。


天羽羽矢(あまのはばや)

天之麻迦古弓専用の矢で此方も日本神話が由来、即死属性だが亜光速で放たれるそれは空気抵抗で蒸発する為に射程は短い。


ソニックブーム

物体が音速を越えたときに発生する衝撃と音の総称。詳しくはwiki参照。

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