一騎打ち イーランド王国海軍総司令アーロン大将VSデルタ・ビール連合国総司令ドレイク中将 前半
A.D.1545.3.17
AM2:52
魔道船ゴールデン・ハインド号の甲板、そこには対峙するように二人ずつ、合計四人の人影があった。
「いいですかアーロン大将、アレス・ドレイク・オゾンは連合国の三銃士で個人の戦力では最弱と言われますがカリスマ性に関してはずば抜けていますし彼女を倒した時、士気はこの海戦だけでは無く戦争全体にも影響します。それにあくまで三銃士最弱なだけでドレイクも化け物染みた戦力を持っているでしょう。ゆめゆめ油断されない様に」
「フフフ、ならそんなドレイクにナイフ一本で致命傷を与えた君は化け物じゃないのかい?」
「まさか、私は弱冠十六歳の美少女ですよ?化け物なんで酷い」
「ガッハッハ、自分で言うのは兎も角確かに美少女だな、わたしがあと四十若ければ求婚していたかも分からん」
「遠慮しておきます、私には心に決めた人がいますから。とは言っても当の本人には恋愛に関して全く相手にされてませんけど」
「ほう、それはまた。いい男なのか?」
「それはもう……人望もありますし強いですし質実剛健で飾らず、あの人以上なんてありえません」
「君の様に可愛くて頭も切れ知識豊富、それに戦闘力もある者にそこまで言わせるとは……是非一度お目にしたいものだな」
「あのお方は忙しいですから、ですからまずは……この戦いで生き残って頂かないと。正直アーロン大将には微塵も興味ありませんがそれでも、顔見知りが死ぬのは見たくありませんから」
先程までの薄ら笑みでは無く年相応に可愛く笑う幻日。
アーロンが部防具の最終確認をしながら雑談する二人の姿、祖父と孫にも見える二人は敵陣ど真ん中にも関わらず笑いながら話していた。
「幻日、君には本当に感謝している。王都を出港した時は我が大群を眺め戦いにすらならんと思っていた。だが結果はこれだ、馬鹿でかい魔砲を沢山積んだ巨大な船に煙を上げる要塞の様な鉄の船。海戦の小手調べで歯が立たん事は良く分かった、付け刃の策ではどうにでもならんなあれは」
この船なんか浮いてるしな、と自嘲の笑みを漏らす。両手を上げて文字通りお手上げなのだろう。
「鉄甲船ならまだしも装甲戦は策巡らせてもどうしようも無いですね、戦列艦もありますし。策略はどうにかしようと思いましたがどうしようもありません。私が直接手を下せば別ですけど……それは出来ないしやる気ないし」
「ふっ、どうせあのまま戦っても負け戦だ。なら戦場でしか生きられん老いぼれは表舞台から去るべきかもしれん」
「……ふーん、アーロン大将は意外と弱気なんですね」
「弱気にもなるさ、私も一人の人間だ。だがまぁ……」
アーロンは航海士に見合わない甲冑を纏うとゆっくりと立ち上がる。
「海に生きる航海士が甲冑ですか?理解出来ませんが……」
アーロンに背を向け甲板から海を眺める幻日、ただひたすら何も見えないハズの暗海を何かを警戒するように眺めていた。
「……兎に角、落ちないで下さいよ。海に」
航海、それも海戦ともなれば砲撃やラムアタックで海に落ちる事は良くある。そうでなくても嵐等で落下は免れない。そんな航海士が甲冑を纏うのは自殺行為以外の何事でもない、転落すれば助からないのだから。
「私は海軍の総大将だぞ、それ位分かるさ。これは王より授かった秘蔵の武具でな、城の地下から掘り起こされたものだ。敵の大将、ドレイク中将と一戦交えるのだ、最高の状態で挑むのが礼儀であろう。それにドレイクはオゾン三姉妹の中で個々の実力は最弱とは言われているが、今までの戦歴は三姉妹でも一番華々しく実績を上げている。油断は出来んさ」
「三姉妹、私からしたらどんぐりの背比べですけど。でも強いですよドレイクは。先ほどナイフを投げられた時に分かりましたよ、剣技の実力もありますしオゾン三姉妹の中でも魔力は三姉妹最強の魔力の持ち主、長女のニーナ・エルフリーデ・オゾンと比べても大差ない。そして何でもそつなくこなす厄介な相手ですよ。それより……」
アーロンの纏った防具をまじまじと嘗め回す様に見つめる。金色に輝き、それでも嫌味は感じさせない輝きを放っていた。そして、海を眺めていた幻日はアーロンに目を戻すが、
「……どうしてそれがここに!!」
アーロンが装備した物を見た幻日の目が変わった、まるで有り得ない何かを見たかのように。
「幻日、この装備を知っているのか?」
「ええ、その装備は超硬化プラスチックの上に物理強化塗料、更にその上から魔力吸収塗料を塗った防収装備、通称『ブラックホール』。一定以上の魔力、衝撃をぶつけないとダメージを無力化する汎用型戦闘兵器、『色彩』型の十倍の強度を持つ化け物装備です」
「『色彩』とやらが何かは知らんがそんなに凄いのかこの装備は?しかし確かに金属にしては軽いな、そのプラスなんたらが軽いのか」
自分が装備している防具をまじまじと見つめたり体を動かしたりして確認、そんななか幻日からアーロンにとって衝撃の一言が出た。
「その装備に金属は使われてませんからね。あと少なくとも防御面だけで言えば戦いの素人がイーランド王国の四英雄一度に敵にして負けません。勝てるかは別の話ですが」
ついでに水に浮きますよ、良かったですね。と、幻日は軽口を挟むがまるでアーロンには聞こえていない、あまりに衝撃が大きすぎた。
「なんだそれは……そんなものが存在していいのか」
「現に存在しています、勝てるんじゃないですか?」
「フ……フフ、そうだな。幻日、これは君の知り合い、または知っている者が造ったのか?」
「ええ、こんなデタラメな装備作れるのは一人しかいません。私の尊敬する方の御友人です」
「そうか……君の知り合いや国は凄いのだな。一度行ってみたいものだ」
最後の一服とばかりにタバコに火をつけ煙を楽しむ。幻日は煙たがっていたが気にはしていない。
「これも何かの縁かもしれんな幻日」
「ええ、私はそうは思いませんけれど。しかし無いわけでは無いでしょう、正直知り合いに死なれると気分が良いものではありません。適当に頑張ってください。少しだけなら応援しますよ」
「そうか、それは嬉しい事だ」
タバコを十分に楽しみ海に捨て頭のバイザーをゆっくりと下ろす。
「さて、では行くとしよう」
「大丈夫ですかドレイク中将……」
「ええ大丈夫です……万全とは行きませんが幾分か気分も良くなりました、から……」
エフィに心配されながらもドレイクは顔色も戻らない中、少しだけ乱れたクラシカルロリータのドレスを正していた。先ほどまで圧倒的優位に立っていたドレイクに余裕の笑みは嘘の様に消え去る。
「幻日……この大戦が始まる直前まで存在まで知られていなかった。情報戦でもう負けていたのかも知れません。ですが、」
しっかりとした視線でアーロンを幻日を睨むドレイクは足元に魔法陣を展開、その光は足元からドレイクの体を伝わり体全体を光らせた後徐々に収まり、
「海賊の娘として、海戦で負ける訳にはいかないの!」
その目だけが紅に光り更に自分の前に青と黒の二つの魔法陣、その上にそれぞれの色の粒子が集まり青いゴシックロリータのアンブレラ、それに漆黒のドレイクの身長程ありそうな刃は朱に染まったデスサイズ。右手にデスサイズ、左にアンブレラを持ちそのまま真夜中にも関わらず自分の上にさし、そして後ろで心配そうに佇むエフィに優しく微笑む。
「エフィ。エフィ・フローネ中尉、貴方に軍人として命令です」
デスサイズを甲板に刺し自分の腕に巻き付けていた流星を模したチェーン付アミュレットをエフィの前に立ちそのアミュレットを首にかけた。
「これは私がまだ空を飛ぶ魔法を習得する前にとある人から頂いた御守りです。空を飛べる今は必要のない物なので貴方に貸します、魔力は消費するから気を付けてくださいね?」
次の言葉が予想出来る。それだけに、顔と顔と付きそうな距離で優しく話すドレイクに対してエフィは爆発しそうな感情と涙を堪えて口を開く。
「……嫌です。ドレイク様を置いてはいけません」
「エフィ、貴方がここにいても出来る事はありませんわ。そして貴方にしか出来ない事です。前衛に配置されているディエゴ達はそろそろ異変に気付いているはずです。只今を以て全指揮権をディエゴ・ホーキンス大佐に移行します。この海戦は中止、この海域を迂回し直ちに連合国側の沿岸に撤退、折を見てエルフリーデ姉さん率いる連合国陸軍の援護をするよう伝えてください。エフィ、貴方にしか出来ないことです」
「ですが私はドレイク様の近衛ですっ、主を置いて戦場を離れるなんて!」
その瞬間、エフィはドレイクに優しく抱きしめられ頭を撫でられエフィは言葉が出なくなり、その代わりか涙が止まらない。
「エフィ、まだ若い貴方が私の為に死ぬ事はありません。それにエフィ?」
エフィの髪を撫でていた右手を頭から離し甲板に刺していたデスサイズを抜いき背を向ける。
「私が死ぬわけ無いじゃないですか?」
アンブレラを優雅に回転させデスサイズをアーロンと幻日に構える、その表情は先程エフィに向けられていたものとはまるで違う真剣さと少しばかりの怒りの表情が伺えた。
「早く行きなさい、エフィ中尉! 軍人としての仕事を全うするのです」
「ひぐっ……了解ですっ!」
涙を堪えながら東の空へ飛びたつエフィを確かに見送りドレイクと幻日の方にデスサイズを向けた。
「さて、お待たせしました」
「おう、もう準備は良いのかい?」
「はい。とりあえず今は……思い残す事はありません」
「そうか。すまねえな、俺の負け戦に付き合って貰って。もう船とか関係なくなってしまったな」
「いえ、この魔道船への侵略を許し……それ以前に作戦が通じなかった時点で私の落ち度ですわ。ですからこれは私が付けないといけないケジメ。たとえここで私が死ぬとしても……です。では……」
アンブレラをもう一度くるりと回し一瞬、顔が隠れたと思ったら次に見えた時には不敵に笑っていた。そしてゆっくりと口を開き一言だけ。
「素敵な、戦争を、しましょう」
その言葉と共にアルマダの最後の決戦は始まった。
余談、考察。
ブラックホール
幻日がアーロンに渡した超硬化プラスチックに魔法、打撃二重の対策を行った極めて強度の高い防具。マギアが悠久の洞窟で死闘を繰り広げた汎用型戦闘兵器『色彩型』の『紺瑠璃』にも使われており並みの攻撃では傷一つ付けられない一級品。ついでに水に浮く。
青いアンブレラ
ドレイクが深夜なのにも関わらず魔法陣から展開した傘。何か秘密がありそう(小並感)
デスサイズ
ドレイクのメインウェポン。因みにデスサイズは名前の通り和訳すると『死神の鎌』だが実際に武器として使うと非常に使いづらい。その代わりトリッキーな武器でリーチも長いので相手が攻撃の予想がしづらい。




