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魔法で奏でる三重奏! ~無慈悲な世界は女神の箱庭~  作者: 雨宮鈴鹿
魔法で奏でる三重奏! 一章、無慈悲な世界は女神の箱庭
21/86

狂気の底で

A.D.1545.2.12


「…………っ」


目の前に迫るオークキング、ほかのモンスターに比べれば動きの遅いこいつの頭目掛けてボウガン(アンチマタレールガン)のエアガン機能で正確に首の肉を抉る。掠っただけで強靭な筋肉を数センチ削ぎ取れ平衡感覚を失ったオークキングのその巨体はバランスを崩して地面を揺らし倒れる。トロルキングは筋肉と脂肪の塊で骨ではその体重はとても支えきれない。その巨体を筋肉で支えているのなら筋肉を断てば良い。


簡単な話だ。


転んで立ち上がれないトロルキングのアキレスをダガーナイフで思い切り刺す。トロルキングは痛みからか暴れまわるが動けないこいつ(オークキング)は吠え悶えるだけの肉塊。もう向き合う理由もない、先に進むだけだ。









悠久の洞窟に入ってからどれくらいの時間が経過したかなんて分からない、薄暗い洞窟の中時間の経過は無意味に等しい。どこまでも奥に続くそのダンジョンはまさに悠久の名に相応しいのだろう、誰がつけたか知らないけど壮大さを実感させられる。迷惑な話だ。


悠久の洞窟に入ってからどれくらいの時間が経ったか分からない。あの時、セナさんに挨拶してここに飛び込んだのが随分と昔の事のように思える。このダンジョンに入って間もなくの頃は……敵のこの強さだ、攻撃の強さも方法も読めない、距離を取り行動を読みながら慎重に一打を与えて行き一瞬の隙やチャンスを逃さず確実に一体ずつ倒していく。この化け物の集まるダンジョンだ、冷静に処理していかないと刹那の油断が即死に繋がるから。それとこのボウガン(アンタマタレールガン)の恩恵が大きい。これが無ければ何度この世にお別れをしていた事だろうか……。


それに比べて今は……、


「………………ふん」


モンスターの性質、特徴を抑え最小限の動きで避けいなし倒す。例えば目の前に性懲りもなく沸くトロルキング、キングの名こそ持っているだけあり攻撃力が以上に高い、それだけ。安直に愚直に得物を振る事しか知らず垂直に振り下ろしてくるのだから間合いさえ読み間違えなければ片足を半歩下げるだけでも避けることが出来る。すぐに得物を持ち直すがその動きは遅いしやることは同じ。本当に芸がない。


「……こんな怪物に芸を求める方が無謀か」


棍棒を振り下ろした右手にダガーナイフを振り下ろし腕の筋を抉り落した。


「ガアアァァァァッ!!」


痛みに足掻くトロルキングを置いて先に進む。こちらも命がけでこのダンジョンに来ている、他人は愚か殺しあうモンスターの心配などできるはずはない。




「ハァ……ハァ……ウゥップ……クソ」


気持ちが悪い……、


吐き気を伴う倦怠感に思わず足を止めてしまった。薄暗い地下型ダンジョン、悠久の洞窟に入っておおよそ三日。勿論正確な時間経過なんて分からない、こんな地下まで太陽の光が照らすわけも無く懐中時計も持って来ていない、持参した食料も底を尽きかけ水はとっくの昔に尽きた。ダンジョン内には湧き水や池もあるがどこにでもあるわけではないし第一怖くて容易に手が出せない、沸騰させないと命に関わるから。かと言ってこの魔物の巣窟で火を灯す事の意味は火を見るより明らか。


それに加えダンジョンを下るにつれて温度が上がり息苦しくなる。ダンジョンの特性なのか魔物の仕業なのか飲み水が無いのと合わさってこれが一番辛かった。極度の疲労と合わさって才が止まる回数も増えた。


……怖い、怖い怖い怖い……


奥に進むにつれモンスターとのエンカウント回数は下がるが比例して敵は強力に、まともに動く力が無い私は完全にセナさんから貰ったボウガン(アンチマタレールガン)に頼り切り。だから、敵はそこまで怖くない、それ以上に後悔と生きてか帰れない可能性からの恐怖、そして心の荒み。気持ち悪い……。







「……無茶苦茶だ、こんな場所」


口は乾き体は汗の臭いを通り越して泥臭い。疲れとめまいで思わず座り込んでしまうその横には数十体を超える魔物の死体。その実績は私の実力は皆無、全てセナさんから貰った左手に装着しているボウガン(アンチマタレールガン)。その圧倒的な攻撃力と制圧力でここの強力なモンスターも無に帰した。だが……、


『使いすぎは注意です。精神の消耗も有ります』


魔力の衰えは感じないが体がもう言う事を聞かない。今は壁にもたれて座り込んでいるが歩くのが精一杯、もう走る事も出来ない。


「うぅ……ちくしょう」


生き残るにはきっと帰るのが最善の策。でもここまで来るのに数日来たから分かる、戻るだけの力は無い。ここで死ぬ事もあり得る。だけどそれは、


「やだなぁ……」


満身創痍のこの状況じゃ思考もうまく働かない。周りに魔物の気配は無いけど先も見えない状況でどうすればいいか。そんなのは分かっている、……進むしかない。






壁にもたれかかって立ち上がりゆっくりと奥に進む。ここまで来て魔物の気配は一気に消えた。私が考えなしに倒したのもあるけどそれにしても異様とも言えるくらいに静かだ。いや、これは魔物がいないどころの話ではない、そもそももっと根本的な話。先からおぞましい狂気を感じる。その狂気のせいで逆に冷静になり、気分の悪さも忘れるように消え去る。


「………………」


先の角を曲がった先、そこに狂気の根源があるのだろう、手が恐ろしいほどに震え近づく狂気は、


カシャ……カシャ……、


聞いたことのない音を立てながらその決してその場所を動いていないのだろうか、音が近づく事もない。そして狂気こそあれど殺気は全く感じることが出来ない、こちらが気づいた時点で相手に見つかっていない訳が無い。敵ではないのか?


ボウガン(アンチマタレールガン)のマガジンを新品に交換、再度左手にしっかりと固定。この先の狂気が敵かなんて知らないけど満全の準備を。思い込みは危ないが相手はきっとこのダンジョンのボスと言ったところだろう、そう考えないと精神衛生上良くない。ただでさえコンディションは最悪なんだ、そもそも戦う理由も無いしどうしようか?


自分の置かれている状況を確認。必死に今後の選択における状況の変化を考える。戦えば勝てるか分からない。いくらこれ(アンチマタレールガン)があっても私自体の動きがどうしようもないくらいに消耗している。再度、戦う理由は……、


「戦う理由……馬鹿か私は……」


ここまで来てセナさんの期待を裏切る? 私が苦悩しているのを知って(いにしえ)のダンジョンの存在を教えてくれた。強力な武器まで貰ってここまで来て、


「裏切れないよね……」


センチメンタルになっているのは分かる、それでも私の体のどこにそんな水分があったのか疑問を覚えるくらいこみ上げてきたものが溢れてくる。井の中の蛙で終わる?セシリアにもセナさんにもきっと失望される、それ以上に私が許せない。


「どうせ今からここから入口まで戻る事なんて出来ないし、ね……」


無駄な長考、道は一つで答えは決まっていた。


「行きますかっ!」


表情は久しぶりに自然と笑顔となり中腰の状態からボウガンをいつでも打てるように構える、この角を曲がったら狂気の根源が……、


「ガガガガガガガガガガガガガガガガガガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォーーー!???」


刹那、私の目の前には赤く光る一つ目、距離は一メートルも無い状態でまっすぐ私を見ていた。


「なっ……!!」


次の瞬間、第六感で危険を感じ取った私はどこにそんな体力が残っていたのか自分に問いたいくらいに全力で後方に飛ぶ、だが万全の状態ではない故にバランスをくずし尻もちをついてしまう。すぐに目の前にいるであろう狂気を目で捉える。


「なんだこいつは……」


私を捉えたままの光る赤い目はいまだに真っすぐ捉え次の攻撃を放とうとしていた。その振りかざした剣の攻撃から逃れるために迅速に立ち上がり横に飛び避ける。


「畜生、おちつけ私っ!!」


目の前にそびえる狂気、それは全高5メートル程度のからくり。異常に異形に精巧なそのからくりは4本の足と4本の腕、それに頭部に覗く赤い赤いモノアイは今なお私をはっきりととらえている。金属で出来ているだろうその緋色(スカーレット)のボディは近づく事も許さない熱を放っていた。そして他ならぬその狂気具合はまさに異常で異端で、


「ワムスシャバスデン、デンデンデンデーーンッ!! ワワワワワワッ!!!?」


「………………」


人の声とは思えない、ノイズがかった声なのか音なのか分からないモノを響かせて襲い掛かってくる。過激な攻撃と気の抜けるような狂気、それにこの世のものと思えないからくりはまさに異端。爆音で襲い掛かるのを冷静に避けるが頭がどうにかなりそうだっ!


「カカカカカカカカカカカカカッ!!」


4本の腕を絡まらないように器用に振り回し距離を詰めながら襲い掛かって来るからくり。こっちは頭に響く爆音の中防戦一方、ボウガンは狙いを定めなくても当たるサイズ。それでもあまりの猛攻の中で何も出来ないっ、距離を取ろうにも歩幅の大きさから来る移動速度で剥がせない。なら逆に前に進み敵の真下を抜け背後に付く。しかしそれも……、


「ギギギギギギギギギギ」


上半身だけ半回転して直ぐに赤い目で私を捉える、


「クク、ほんっとに厄介だよっ!」


口で効果音を出すのも不愉快、疲れによる無口も自然のうちに消え無意識に、そして不敵に笑い体も何故か動き負ける気がしない。勿論あの忌々しいイエティの時とは違う、この場所(悠久の洞窟)はもしかしたら井の中の蛙の私にはとても相応しい。ああ、きっとこれはこの目の前にいるからくりの狂気にあてられたのだろう、しかしそれが清々しくも感じる。


この場所なら()()()()()私の本気を出すことも出来る。


距離が近く思うように刀を振るえないからくりを前に再度左手を上げてからくりにボウガン(アンチマタレールガン)を向ける。相手の出からが良く分からない以上まずはお手並み拝見。


「では命がけの宴を始めましょう?」


真っすぐからくりの赤い眼を捉え弾を発射した。

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