閑話 四英雄リーダー勇者VSカノン序列6位覚醒人
後半、少しだけグロテスクな表現が有りますがご了承下さい。
A.D.1545.2.13
『セナ・フェブラリー
性別女性
推定身長150前半
推定年齢10代後半
出身 アコン帝国テナス領
2年前にギルドに突如現れクエストを受注することなくAランクからSランク相応のクエスト漁っていく。戦闘能力は一流、かつて魔王を討伐した英雄に勝るとも劣らない可能性あり。戦闘能力以外も非常に優れており統率力、政事、知力、策略どれを取っても異常に優秀。性格は非常に明るく活発、誰とでも打ち解け人見知りをしない。
クエストを受けずに討伐を繰り返す彼女のスタイルにこのままではクエストの紹介料が激減、ギルドとしての形が崩壊すると判断、ギルドは何らかの形で交渉して正式にクエストを受けさせる必要があるとの結論にたどり着いた。彼女との直接の交渉の上に彼女の条件を飲む。彼女の言い分は以下の通り、
・金銭には困っていないが戦闘自体が好き
・この世界の事がもっと知りたいから旅のついでに魔物を狩っている
以上の情報からギルドの判断は彼女、セナ・フェブラリーに正式に『Sランク』の称号を与え正式にギルドを通してのクエストをお願いした。その条件を飲む代わりにセナはギルドで働かせて欲しいとの事。彼女の意図するところは不明だがギルド側の推測では情報を欲してとの結論にたどり着く、ギルドの情報量は世界最大級。それを欲しているのでは無いかと想定。
彼女との交渉と適正の上、彼女にはギルドの受付嬢と共にギルドマスターの秘書補佐をしてもらう事になった。常人には不可能な仕事量だが彼女はそれを難なくこなした。ギルドとしては非常に優秀な彼女に引き続き仕事をこなして貰いたいと考える』
部下の書いた報告書に何度も目を通しながな私、ギルドマスター、リッカリオはため息をつく。彼女、セナ君が優秀なのは十二分に知っている。何をさせても当たり前のようにそつなくこなすし戦闘能力もそれなりに高い。魔法も使う事が出来るようだし何より冒険者からもギルドからも非常に好印象。
そんな彼女を目の前にして私は珍しく緊張していた。目の前にいるセナはいつものギルドの制服ではなく私服。それはそれなりに長く生きた私も見たこともない服装だった。ピンクの薄い着物に下は黄土色のズボン、それに色の入ったメガネを目ではなく額に付けていた。コーヒーを飲みながらニコニコ此方を見るセナ。分かっている、彼女が私が話すのを待っていることは。
「どうかされましたか、ギルドマスター?」
最初から彼女から注がれる視線、それをあたかも今気づいたかの様に私を見る。それが気遣いか意図的なのかは私には定かではないが彼女を見ていることに気づかれた以上、それには答えなければいけないだろう。
「いやすまない、君の私服を初めて見たからね。見慣れないデザインだ、どこかの民族衣装か何かかな?」
「民族衣装……とも言えるのかもしれませんね、私が生まれ育った場所ではポピュラーな衣装ですこれは。動きやすくて着るのに面倒しませんからね。ヘンでした?」
改めて彼女の衣装を眺める。何とも不思議ではあるが着こなしはとても良いと感じる。それにくびれの上の強調する胸、その大きさがそのまま分かる服でもあるな。
……おっと、こんなことで長考するべきではないな、これではただのスケベ親父だ。質問に答えて話を進めねば。
「とても君に似合っていると思うよ。素材が良いのと相まって素晴らしいセンスだ」
「お褒めにあずかり光栄です。この服、と言うよりはこの類いの服はよく知った友人の前でしか着ないものですから。今日はこの後その人と合う予定が有りましてこの様な格好で失礼させて頂いています」
「それは構わないさ、今日は仕事では無いからな」
正確には仕事の延長上ではあるが……、
「ではセナ君本題に入ろうか。お手柔らかに」
「こちらこそ、です」
非常に優秀な彼女、だが彼女のギルドでの立ち位置は難しいところにある。まずギルド本部はイーランド王国の傘下に有るわけだから万が一、他国との戦争等が発生したら冒険者は兎も角ギルドはイーランド王国として何かしらの働き、彼女程の才能があれば前線での指揮も戦闘も可能だし後方に回っての諜報や軍略、それに政も難なくこなすだろう。この才能はギルドや国からしたら宝に等しい。
だが彼女はイーランド王国出身では無い。
セナ君の出身はこのイーランド王国がある大陸の遥か北、一年中雪が降り積もる雪国のアコン帝国。今は休戦状態にあるがイーランド王国とアコン帝国は十年前まで血で血を洗う戦争状態にあった訳だ。その休戦相手の人間がこの国の重鎮となることは有り得ない話。
だからこそ実に惜しい、これ程の人材は百年に一度出るか出ないか。しかも戦争が再発した時に彼女が敵となる可能性すら孕んでいる訳なのだ。考えれば分かること、戦場で第一線で戦えて機転も利く。本人がその気が無いのは幸いだがそれにしても惜しい、優秀なだけに本当に。
「では改めて……契約の更新に入ろうか。どうだろうかセナ君、改めて正式にギルドに加入するのは?」
長い前座になったが今日の本題はセナ君の契約更新。彼女とは年ごとの更新で契約をしている。国籍がイーランド王国で無い彼女はギルドとの正式な契約が出来ず年単位の仮の契約となっている。私としては優秀な彼女だ、王に直訴したり彼女に国籍を変えて貰ってでもギルドの正式な雇用を受けてほしい。彼女に聞いた話では国籍に拘りはなくまた、万が一戦争が再発しても戦力としてどちらにも付く気は無いようだ。愛国心が無いのか戦争を嫌うのか。それはイーランド王国としては有りがたい話だ、少なくとも彼女と戦う事はないのだから。
しかし根本的な問題はそこでは無い。
「……毎年私なんかを誘って頂けることには有り難く思います。ですがすみません。私には使えるマスターがいます、今は好きにさせて貰っていますが……これ以上は怒られてしまいそうですので」
そう、彼女には使える主がいるようなのだ。その事に関して詳しくは話してくれないが彼女程の才能が使える主に謎の組織、嫌な汗が流れる。
「まぁ怒られるは冗談ですけどね、あの人味方には何処までも甘いですから……あぁ、すみません、身内にしか分からないような話をしてしまいまして、今年も年更新でお願いします。給与に関しては去年と同じでお願いします。それで構わないでしょうか?」
「あぁ、ではそのようにしよう」
「有難うございます、ギルドマスター」
……やはり正式には加入してはくれないか。ダメで元々だったがやはりその気は無いらしい。ふっ、娘の歳に近い少女にフラれてしまった。
「……これはもう私の興味本位何だが質問をしても良いだろうか?」
「ええ、答えられる範囲なら」
「ではお言葉に甘えるとしよう」
聞きたいことなんて決まっている。彼女がこの国、または世界の脅威になり得るかだ。
「君はそのマスターと恋仲なのかい?」
愛仲は厄介だ、損得勘定無しに行動を起こすから。そしてこの質問でマスターとやらの性別も分かる。
だが彼女はそんな私の意図を見透かすように笑みを浮かべて、
「そうですね、マスターは男性ですが……愛とか恋とかそんな関係じゃないですよ。ついでに言ってしまうとあまり尊敬もしていません。ですが……あの人は歯車の中心で皆が集まるんです。そして誰よりもストイックで自分に厳しいから助けたくもなります。うん、これくらいなら話しても怒られないでしょう。満足頂けましたか?ギルドマスター」
「有りがとう。後もう一ついいかい?」
「どうぞ、私に答えられれば」
「万が一、あくまで可能性の話だが君のマスターがこの世界を滅ぼせと命令したら君はどうする?」
我ながら馬鹿馬鹿しい質問だ。しかしこの質問の本質が分かると思うと恐怖も覚える、質問の解答によっては冷や汗を流す私を誰も攻めはしないだろう。
「あの人がその様な命令をするかは些か疑問ですが……理由を聞いてそれが間違いならば命がけで止めます、それならっとマスターも分かってくれますから。それに全力で止めないとマスターは頭に血が上ったら世界を滅ぼしかねませんから」
「そ、そうか……」
迷い無く世界を滅ぼす。それは裏を返せば彼女あるいは彼女の属する組織は世界を滅ぼす力があると言うことだ。冗談じゃ無い、そんな話を聞かされるとは。
「付け加えるなら……」
瞬間だった。私とセナ君2人がいる部屋の外から恐ろしいほどのプレッシャーを感じた。それを感じ取った彼女はギギギと音がするのでは無いかと思えるようにゆっくりとドアの方を向き私は瞬き一つ出来ず……蛇に睨まれた蛙の様だった。
そして彼女はゆっくりと口を開き、
「セナ、お喋りが過ぎますよ?」
「ア、アス……」
「貴方はとても優秀、後はそのお喋り癖を直せば。はぁ……これは報告しましょう。セナ、貴方の場合はマスターに報告するより聖さんに伝えた方が答えそうですね」
そのに居たのは蒼のドレスを纏い背中には宇宙色のマント。銀とも紫とも言える髪、それに透き通る肌をもった美少女だった。セナ君と歳こそ近いだろうが健康的な肌を持っているセナ君とは正反対の印象を受ける。この恐怖が支配する部屋の中でここまで分析できた事を我ながら褒めたい。
「え……ちょっと待って、聖さんは止めよう! そうだ、それが良いよ! お願い、土下座でも何でもするから!」
「……次はありませんよ?」
「本当に有難うございます! アストライア様、マジ女神!!」
「本当に調子が良いですねセナは。では今回は罰として例の2人のおもりをしてください」
「え゛……マジ?」
「聖さんの有りがたい指導とどちらが良いですか?」
「……分かりました」
2人の会話、先程の緊張した空気は消え去っていた。きっとこのアストライアと呼ばれた少女は組織の仲間なのだろう。恐ろしいプレッシャーだった。
「はてさてギルドマスター様、お邪魔をしてすみません。私はアストライア・テスタメント、セナとは仕事の同僚です。また会うかは分かりませんがどうぞよろしくお願いします」
手を差し出す彼女。何処と無くさりげない仕草にも気品を感じる。その手を握り返して私は彼女にも聞きたいこともあった。それはこのギルドを纏めるギルドマスターとして世界の危機を知る為だがそれ以上に好奇心が強かった。この歳まで生きてきたが知らないことがあまりに多すぎる。
「では失礼します。セナ、しっかり罰は受けて頂きますからね?」
「あはははー……」
苦笑いをしているセナ君。そして見事な仕草で一礼して部屋を出ていくアストライア・テスタメント。彼女は何処かこの世の者では無いようにも感じる。
「あー、セナ君。違ったら申し訳ないがこの後合う予定があるのは彼女かい?」
「はい、そうですよ?」
「ならもう契約は完了だ、行くといい」
「そうですか?では失礼しますねギルドマスター。明日からもよろしくお願いします。では!」
「あぁ、宜しく」
勢いよくギルドを飛び出した彼女を見送ってからすっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干し椅子にもたれかかる。
「さて、どうしたものだろうか……」
本来なら国王に報告するべきなのだろう、少なからず脅威になる可能性が有るのだから。だが、
「見守ってみるか……」
2年間仕事を共にして彼女の事はよく分かっている、真面目で天真爛漫な子だ。ギルドマスターとしては失格だろうがそれ以上に彼女の事を娘のようにも思えていた訳だから。
「……さてさて、仕事に戻るとしようか」
~セナ視点~
「うーん、アスたん何処に行ったかな? 性格からしてマスターんとこに向かうなら必ず手土産を買っていくと思うんだけど……見当たらない」
そもそも気配が無いから近くにはいないんだろうけど。せっかくだし私も何か買って行こう、うんそれがいい。
「アスたんはお洒落なお菓子とか買っていくだろうからそっちは避けよう。ってかどうせお仕置き受けるならアスたんとワンツーマンが良かったなー。むしろご褒美じゃん」
両手を頭の後ろんで組んで適当に露店を見て回る。マスター、何が喜ぶかな?
「優しいから何でも喜ぶんだろうけど折角だし良いもの買いたい」
でもその前に、
この後ろから向けられる殺気をどうにかしなと落ち着いて選べないかな。
「……どっしよー、殺気けっこうえぐいな。普通に強そう」
ギルドの指定ランクで表すならA……いやこれはSかな。誰かに目を付けられることした? もしかして今のギルドマスターとの会話からギルドに目を付けられたかな?
いや、それはない。ギルドマスターはその様な事は考えていなかった。このギルドで働いた2年で信頼は勝ち得たし私もギルドマスターはそんな事するとは思えない。
じゃあ誰?
「あーもう、考えるだけ時間のムダだわこれ。早くしないと招集に遅れちゃう。マジ最悪、意味分かんない」
人に恨まれる事なんてまだしていない。ここじゃ姿出さないだろうし。
「逃げよう、それがいい」
昔、高校で習った助走の付け方、両手を地面に付けて膝を曲げてそして全力で前に飛び込むように走る。所謂クラウチングスタート。
「わははは! 普通に走って私は100メートル6秒だぞ! だはははは!」
チノパン履いてて良かったー、スカートだったら死んでいたねこりゃ。
全力で露店街を抜けて裏路地を抜けて町外れの草原まで駆け抜ける。
「にゃはは、ここまで逃げればぁっ!?」
後ろから飛んできたナイフを感じとり左足で蹴りおとした。マジか、追い付かれるとは。
「あら、貴方は」
ギルドで受付嬢をしていてたまに見るその顔。無表情で言葉少なく私の苦手な部類。腰に2本のソード、それと別に背中には両手剣、茶色の髪が特徴の勇者様。
「ノエル・パスカル様じゃないですか。お久しぶりです」
服についた埃を瞬時に払ってノエルの方を向く。両手は前に、綺麗な姿勢を取りつつ武器を所持していない事をアピール。
それにしてもまさかよりにもよって勇者ノエルとは……近接戦闘の実力は例外を除いてトップクラス、個人としては現地人で最強と言っても過言じゃない。なんでこんな化け物が……殺気凄いし……ナイフ投げられたし……もしかして襲われます私?
「いきなりナイフ投げるのは危ないですよ? もしかして魔物でもいたでしょうか? なら危ないですね……王都の近くに魔物なんて。すぐにギルドに報告して策を練りましょう」
「避けるとは思ったが弾かれるとはな」
あぁ、
「ではやはり私を」
「それに関してはすまないと思っている。だが君は危険だ、この世界に対して」
……成る程、彼のその言葉で全てを理解した。強すぎる故の道化、およそ待ち受ける悲しい運命。けれども、
マスターが認められる程強くはないし何より、
「謝罪で済むなら警察は要らないんですよっ」
こんな奴に振り撒く愛嬌や笑顔なんて持ち合わせていない、無表情で目の前に対峙するノエルを睨む。そして、
「警察? なんだそれは……!」
ガキンッ!
金属と金属がぶつかり合う激しい音が反響するものが何も無い中、それでも大きく響いた。右手に装備した手甲で素早く全体重をかけて殴りかかってみたら案の定、双剣をクロスされて止められてしまった。この程度の攻撃が勇者に通じるなんて思っていない。でも先手必勝、策もないのに出方を見るのは愚行だ。
「くっ! 重い攻撃だ、魔王やフィリップよりもよっぽどに」
「女性に対して重いなんて最低ですねっ!」
全体重をかけている私の体勢は手甲を付けた右手だけノエルの双剣に触れていて、その剣の上に逆立ちしている状態。今度はほんの20センチ程しか離れていないノエルの顔めがけて高速無詠唱、瞬時に巨大な雷を落とすが……それも私は振り払われその場から移動することで難なく避けられる。
やっぱり強い……右手の手甲も一度剣に触れただけでバターの様に避けていて右手からは少なくない血が流れていた。安物の手甲だから文句なんか言えない、すぐに外して投げ捨て右手に回復の魔法をかける。
「その攻撃力に俊敏性、更には無詠唱の雷呪文に回復魔法。貴様本当に人間なのか?」
難なく攻撃を交わしておいてよく言う。さて、武器は殆ど無い、こんなことなら得意の得物でも持ってくるんだった。武道術も使えない事は無いけれども相手は勇者だ、付け焼き刃では怪我をする。
なら短期決戦を仕掛けるしかない、か。
「本当に失礼ですね、私は歴とした人間ですよ」
ただし根本的に人種が違いますけどね。
「さて、私は武器を持っていませんし魔法も特別得意でもない。丸腰の受付嬢を倒すのに貴方ではオーバーキルではありませんか?」
ノエルが私を襲った理由は分かっている、それは必要悪。だけど倒されるつもりは微塵も無い。
「先程も言ったがすまないとは思っている。それに君は聡明だと聞き及んでいる、何故アコン帝国の国籍まで用意してギルドに君はいる?」
やはり私の考えに間違いは無かった。でも襲ってきた事を考えると私の安全性を説いても納得はしないだろう。
「調べもせずに……知ろうともせずに不安要素を取り除く為に動く。だから貴方は道化なんですよ!」
ノエルに限らず上級以上の魔法が使える者はたとえ体が欠損しても回復魔法で治すことが出来る。それは長期戦を意味し時間の無駄を意味する。なら一発必勝、どうせこの手しかない。
「舞い踊りなさいっ! 風たちよっ!」
空に左手をかざして空気を圧縮、極限に圧縮された空気は高熱を持ちやがて発火。その空気で竜巻を作る。同じものを同時に数個作りノエルに放った。
「火災旋風っ!」
一瞬で全てを灰にする力はないが触れれば熱いし巻き込まれれば絶命もする。私は更に魔力を込めて全ての旋風をノエルに向ける。
「くっ、なんてデタラメな攻撃を!」
剣を納めて瞬時に風の魔法で火災旋風の方向を変えながら避けている。英雄の中でも1人だけ化物と呼ばれるだけの事はある、ここまで繊細な詠唱をしながら動ける者は高位な魔法使いでも数えるほど。本職は剣使いの彼は難なくそれをこなしている。でも、
「両手が塞がってますよ勇者様?」
火災旋風によって動きが極度に制限される中、天才の私なら次の動きを読むのも難しくはない。チノパンのポケットに入れていた鉄の塊のピンを抜いて思いっきりノエルに投げつける。
「クソッ!」
恐るべき動体視力、真横から高速で投げた鉄の塊を左手でも、抜いた剣で切り落とそうとして、
「それ斬ったら危ないですよ?」
次の瞬間、轟音と共に眩しい光を放ちノエルの真横で巨大な爆発を起こした。
砂煙が消え去るとそこには左手が切れかかり多くの血を流すノエルの姿、辛うじて呼吸はあるが誰がどう見ても瀕死、当然と意識は無くそこには世界を救った勇者の姿は無かった。
「……ちょっと卑怯だったかなーなんて」
でも他に武器もなかったししょうがないよね。不意打ちしないとこの勇者、馬鹿みたいな強さしてるし。
「さーて、やることやってマスターのとこ戻らないと」
私は足で地面を蹴って緑色の魔方陣を展開。そのまま魔方陣をノエルの下に移すと少しずつ傷が塞がり始めた。
「傷とか後遺症は残らないけど血を流しすぎで暫くは意識戻らないでしょ」
勇者ノエルに背を向けて移動呪文の詠唱、終わったところで何となく今も倒れているノエルを見る。
彼が世界の為に私を倒そうとしたのは分かっている、異端を巻き込んでは歯車が上手く噛み合わないから。それにしても、
「ほんっとうに不器用ですね、貴方は」
次の瞬間、私は移動魔法で移動、そこには血まみれで倒れた勇者だけが残った。
書いているうちにセナが個人的にとても好きなので勢いで書いてしまいました。多分、伏線になると思うのでご了承下さい。