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32.闇の中で

こんなんでも一応戦えない訳では無い。こんな状態で刀を扱うのは初めてだが……まぁ足音を基準に場所を探っていけば良いだろう。っつっても俺にそんな技術があるとも思えないがな。

その前に果たして今俺は立っているのだろうか?さっきまで持っていた刀を掴んでいる感触が無い。更に目が見えなくなった途端声も何も聞こえなくなっている。となると五感全てが奪われているのか。うむ……確実に殺しに来ているんだな、これは本当に鬱陶しい。

なら……スケイルには悪いが暴れさせてもらおう。

いつもの感覚で刀を宙に浮かせ、いつものようにそれを不規則ながらも敵を刻み倒すように動かす。実際動かせているのかは分からないがそれでも魔力の制限は出来ないはずだ。


まだなのか……?まだ視界は開けないのか?もうどっちが前なのか後ろなのか分からない、分かるはずがない。どうすればいいんだ、手応えがなく何も見えないこの環境はここまで不安になるもんなんだな。


……魔力は消費しつつあるのは分かる。だからこそ恐ろしい。このまま俺は何処に向かって刀を振っているのだろうか。もしかするともうこの場には居ないのかもしれない訳だ。

考え出したらキリが無いのは分かっているはずなんだがな。


「!?」


視界が開けた!?倒すことが出来たのか?

……リーダー?何故リーダーが俺に持たれかけるようにここにいるんだ?ダンジョンの入口前で休んでいたはずじゃ?


「大丈夫ですの!?」


「お、おい、どうしたんだよその……血」


腹部には大量の血が、おそらく俺がやってしまったものだと思われる傷から滲み出る血がベッタリと付いているんだが……。


「あはは、ちょっとね。あ!!でも大丈夫だよ!!」


狙いの定まりようの無い刀の中を潜り抜け、俺の元へと辿り着いたのか?


「アイツは何処だ!?」


「スケイルのこと?」


まぁ違うんだが。見渡す感じ卑導の惑龍のアルグスは居ないようだ。スケイルは……あそこの砕けた骨なんだろうけど。とりあえずスケイルは頭部さえ無事ならば生きている判定になるらしいから、あったあった。

それにしても生きていた中で最も恐ろしい恐怖が襲ってきたな。


「私の能力って何か知っている?」


リーダーの能力か……?確か相手に掛かっている効果を打ち消す能力だったか?……ということは打ち消してくれたのか。能力によって追加されているモンも打ち消せるんだな。


「でも触らなくちゃ効果は発揮しないんですの。本当に使えない能力……」


「……いやそのおかげで助かった」


リーダーのは確かにそこまで強力だと言い難いものばかりだが根性と優しさは尊敬するところしかない。


「アヴェルがそんなこと言うなんて珍しいですの」


「感謝ぐらい別に良いだろ」


本当に痛いとこを突いてくるな。痛いのはリーダーのはずなんだろうが。


「じゃあ次はスケイルだね……うぅ」


「大丈夫か!?スケイルの頭部は俺が持ってくる。とりあえず今は戻らねぇとな。立てるか?」


「無理!!」


「キッパリ言うんだな、っていうかこの状況で立てる方がすげぇわな。肩貸してやるよ」


とりあえずスケイルの五感が戻っていないことから卑導の惑龍アルグスは倒しきれていないんだろうけど……結局手柄は無い訳か。


「実は足も切っちゃっていまして」


「すまん……」


謝る以外の言葉が見当たらない。開き直るのもなんか違う気がするからな。


「だからおぶって?」


おぶって……?おぶるのか?炙るんじゃなくておぶるんだな?足を俺のせいで怪我してしまっているんだったら流石にしなきゃいけないよな。


「駄目ですの?」


「あ、いや別に良いんだが、って言うかその方が良いなら良いが……その……脱ぐ必要はあるか?」


なんで脱ごうとしているんだこの根性馬鹿、今腹部は相当な怪我を負っているんだろう。

しかしあんまり気にしてはいなかったがかなり可愛い上にスタイル良いんだな。めっちゃ胸がデカい。って何考えてんだ俺、馬鹿か!?


「軽く止血ですの!!」


あぁ……なるほど。


「あぁ、そうか?なら俺の服でも良いと思うが」


「あ!!じゃあ頂戴!!」


可愛い!!くっそ襲いてぇ!!襲いてぇけど抑えろ俺。まずは深呼吸だ……。


よし心の準備とスケイルの頭部回収、そして俺の服でリーダーの胴体と両足の止血が終わったことだしおぶるか。

因みにスケイルには悪いがここでは五感を奪う効果の解除を行わないで行こう。何か言われたら頭部ごと粉砕しかねない。


「よっと」


こういう場面、よくある展開じゃ「重い」とか言って地雷を踏んでいくという展開を良く聞くが俺はそこまでデリカシーの無い男じゃ無い、何も言わずにおぶらせてもらおう。


「重い?」


あっちから地雷を設置しに来た!?いや、俺だってかなり鍛えているから重いとは思わないし寧ろ刀より軽いんじゃないのか?って言うのは流石に言い過ぎだが軽いのは確かだ。


「驚くほど軽いぞ」


「そっか!!」


歩く度に二つの弾力のあるそれが俺の背中と挟まりあってなんとも言えない感動がこみ上げてくるのは何故だ……。


ともあれ俺らは分かれ道になっていたあの場所へ戻ってくることが出来た。

この感じだと三番乗りか。

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