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30.猫人と兎人


「勿論兎人もだ。流石サイヴ。実験が終わればコイツらは俺の好きなようにしてもいいって言う。こりゃあ協力しない訳には行かないんだもんなぁ」


炎短剣サラマンドルを片手に攻撃を仕掛ける。が、それも読んでいたと言わんばかりに避ける。負けじとさらに大きく短剣を振るがそれも避けられる。

ちゃんと刃は当たっているのに奴が霧のようになって消えては別の場所に現れている?本物は一体……。


「おぉ。こりゃ怖ぇ」


「イフ!!奴は幻覚術を使う魔導剣士!!見えているものだけが本物だとは限らない!!」


幻覚術?確か対象に幻覚を見せる魔術の一つ。幻覚術一つで反乱なんてお手の物、敵を操ることもできてしまう驚異的な魔法を使える相手を前に一体どうすれば……。


「あぁ……うるさいなぁ。そっか、君は俺の手の内を知っているんだったな、こりゃあ非常に迷惑だ。先にシルフィから捕まえようか」


「ひ……!!」


シルフィが危ない!!


「やめろ!!」


よし!!刺さった!!手応えがある!!……後ろ姿が違う?


「う……イフ……?」


え?どうして私の短剣はシルフィを刺しているの……?


「え……え……?」


「あ、おぉ。刺しちゃったねぇ?仲間を刺しちゃったね?君のせいだ、君のせいで仲間が捕まる、まぁ言わずとも分かると思うが君もだ。それに俺が簡単に自分の身体に刃を通すわけが無いだろう?ちゃんとこの子の話を聞いてたか?見えているものだけが本物だとは限らない!!ってやつ。これは傑作だ!!それも大傑作!!うっひひ……あぁ、面白い。こう言うの大好きなんだよね。だからもっと楽しませてくれよ?存分に絶望してくれよ?」


嘘だ……これが幻覚術……見えているものだけが本物だとは限らない……シルフィは以前にもこれを体験していて。コイツと戦っていて。だから知っていて。


「あぁ、一ついい事を教えてやる。シルフィ、てめぇにだ、お前の身体にも少なからず兎人の魂が組み込まれている。これさぁ、サイヴに伝えるように言われたけどもう遅いか」


「許さない……」


「コイツをやったのは君だろう?許さないも何も許される義理も何も無いよ」


血が滴り落ちる短剣を強く握りしめるがその力は次第に弱くなっていく。これより少しでも緩めれば短剣が落ちてしまいそうなぐらいに。


「まぁお前らがどうなろうが俺の知ったことじゃ無い……が……な?」


倒れたシルフィを見るように目線を下に向ける。するとシルフィの頭には兎のような耳、尻には真っ白な尾。目は赤い。初めてシルフィが兎人になった瞬間だった。そして物音立てず立ち上がる。


「イフ。一緒に倒そう!!」


シルフィの口から出た言葉は信じ難いものだった。今さっき起きた出来事を気にせず何も無かったかのように振る舞う。


「ん?気にしないで!!」


今目の前で話しかけてくるシルフィは本物のシルフィ?分からない……分からないけどこの笑顔はシルフィにしかできない!!


「うん。さっきはごめん……ごめん」


もう一度短剣を握る力が強くなる。


「ありゃ?幻覚魔法が効かねぇ?」


「どんな魔法にも欠点はある。万能な魔法なんて何処にも存在しない。火属性は風属性には強くても水属性には弱いように、幻覚術は絶望には強いけど希望には弱い。それと同様に君が最初に使ったあの龍殺しの魔法、それにだって勿論弱点はある。普通の人間にはこれといってダメージが無い、それは猫人にも兎人にも、ただ龍に対しては絶大なダメージを与えることが出来る。それが君に与えられた二つだけの魔法だったから。弱点があるなんて考えたくもなかった」


シルフィは淡々と喋る。


「二つだけの魔法じゃ戦える範囲は絶望的。だから今君は剣を握っている。不意を突いて殺すため」


「クソが……」


シルフィは双剣を構える。


「いつか必ず殺してやる。絶対にだ。お前らの顔を踏み潰す時が楽しみだ!!アッハッハァ!!」


目の前の敵は取り出したナイフをシルフィに向かって投げつけるが難無くそれを避けると一気に間合いを詰め、一撃で首をはね飛ばす血がまるで噴水のように飛び出てそれは淡い光となって消える。

この世界は死んでも蘇るという、この世界には存在しないゲームという娯楽を基準に作られている。それを再認識させられたようだった。

何はともあれ一応勝利かな?私何もして無いなぁ……。


「えへへ……勝てたね……」


「シルフィ!?」


兎人状態が解け、疲れきったのかこちらへ向かって倒れ込む。

服がもうボロボロ……すぐに防具を着るように指摘しておけばよかったかも。とりあえずこのまま血が流れている状態で探索を開始するわけには行かないし……あれ?アリファちゃんからメールが来ている?えっと、4つの道の先には各属性の魔力を当てると起動する仕掛けがある。一番左は火、左の2番目は水、右の2番目は風、一番右は土。一旦落ち着いたら中央に集まって。なるほど。ここは一番右だから……無理かぁ。じゃあすぐに今できる止血を施して入口に戻る感じでいいかな?

 とりあえず用意出来るのはタオルしか無いからタオルを巻いてっと。よし、一先ずは大丈夫かな?メイデが戻ったら回復魔法をして貰わないと……さぁて、戻ろっか。


「うーん、ここに行ってくれって言われたけど僕は必要かなぁ……」


リベアちゃん?幻覚術じゃなくって本物の?絶対そうだ!!


「うわ!?イフ!?シルフィ!?えぇっと……イフも凄い傷だし僕が運ぶよ!!」


ふと自分の身体を見てみると服には血がベッタリと付いていた。


「リベアちゃんが!?うぅんいいよ。これでも歩けるし」


「あ、そのなんて言うか浮かせるって感じかな?闇属性魔法としては簡単な部類の魔法で……まぁまぁ僕に任せて!!」


「う、うん」


リベアちゃんに助けられこと無くして入口に戻ることが出来た。

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