19.一生のお願い
「へぇ……あえて聞かないよ。それよりも君の竜人化は使えなくなっているハズだけど。どうするんだい?」
「知らない……」
「はぁ……君は責任を取らないのかい?」
責任……?まぁそうだろうな。勝手に解散させたんだし……ってなにその避妊具。
「え?」
「ん?ギルドの全員を孕ませたんじゃないのかい?竜人の精力は凄いって聞くからね。大勢の女性も相手に出来るほどって」
「全然違うわ!!」
「ありゃ……これを機に避妊具を高値で売ろうとしたのに……残念」
なんとなくその言葉は俺暗くなった思考を少しでも明るくしようと選んだ言葉だという事にすぐに気づいた。
「まぁ……俺は人を殺してしまったからさ……」
目の前のリビュドは顔色ひとつも変えずに反応する。
「……ふぅん。そ。人を殺した罪悪感でおかしくなっちゃった訳か」
「そういうこと」
なんか全部見透かされているような気がする……。
「だって僕は仏様だからね〜」
確か怪仏の宝珠を護る怪龍だったっけ。普通に外見からはそうとは思えないけどな……。
「ま。僕はこちら側。っというよりはあちら側の住人だからね〜」
リビュドは俺が背中を合わせている大きな木に指を差す。
「仏様。か……」
「そ。僕はこの世界の仏様」
空いてるのかさえわからないその目が開いた時、リビュドはいつの間にか目の前から消えていた。
「!?」
……これからどうするべきかな。
一時期の気持ちに、一つの残機を減らしてしまったし、あの部屋にも戻れないし、竜人化も出来ないし。解散させちゃったし。
それに普通の人間になったって訳か……それでもいいけどさ。
でも俺が人殺しの事実は変わらないんだし。
リビュドは何の為に俺と会話をしたんだ?
俺はどうするべきか悩むと、とりあえず前に歩き出した。
突然草むらが揺れ出す。
蛇!?ウロボロスじゃ無いな……いるわけないか。
っていうかこういうのを俺は腕に噛ませていたわけか。
「驚かせやがって……!?」
矢が俺の顔の横を地点を通過する。そして頬から血が出る。
「チッ……やぁやぁ。人殺しの半竜半人?」
竜人だ……。
「まさかこんなところに居るとはなぁ……最悪だよ。王様がうるさくってよ。無幻の宝珠が使えない。とかで?とりあえず来てくんね?」
一人の竜人は、ニカニカ笑いながら近づく。確かこいつ……檻にいた幹部の……。
能力さえあれば……。
ペナルティ……嘘だろ?5個も奪われている!?俺を合わせると6個!?攻撃力低下。防御力低下。龍化時速度低下。全属性低下。龍化時制限時間追加……嘘だろ……。奪われていないのがリベアだけ……?
あの時だ。俺が気絶したリベアを空間の部屋に置いてきたから取られていないのか……。
「ついてきてくれるよな?」
「……分かった」
逆らっても能力無し、ペナルティありじゃ戦えるわけが無い。此処は潔く……。
「やっぱ死ね」
俺の腹に矢が刺さる。
痛い……。
苦しい……。
「あの女?リベアっつったっけ?」
「……?」
「アイツよぉ?一生懸命逃げているらしいぜ?他の奴らは全員牢にぶち込まれてやんの」
笑いながら内蔵をグチャグチャに掻き回される。
「……なぁ。お前まだ抵抗する気か?」
背中から大量に何かが登ってきているような……。
「うがああ!!」
蛇だ。背中から登ってきた蛇達はその竜人の鱗を剥ぎ取り、一斉に食い殺す。まさにグロテスク。
こいつ、合計で3回以上死んでいたんだな……。
最後は骨だけになる。血まで綺麗に舐め取られている。
そして俺は次第に意識を失っていく。
そして俺は2度目の死を体験した。
目覚めたのは見覚えはあるが崩壊済みの街。土の領地の街。奥の方にでかい山が聳え立つ。
わかったことは一つ。リスポーン場所はランダムだ。
俺は荒れ果て、砂嵐が酷い街中を走り、タニアがやっていたと思われる宿屋に辿り着く。
貼り紙にはしばらく休みます。とだけかかれてあった。
「……」
勝手に俺はドアを開け、中に入る。
暗く、何も無い。あるのは荒らされた形跡だけがある。
俺は何も言わず外に出る。
そして走りだす。何処へ向かっているのかわからないのに。
仏様……助けてくれよ……過ちを犯した俺をどうか導いてくれよ……どうすれば良いのかわからないんだよ……。
「今、助けを求めたね?」
「!?」
リビュドがいきなり現れ、一瞬で周りは霧に囲まれる。
「うん。求めてる。今、君は助けを求めている」
「頼む!!」
俺は土下座をする。一生のお願いを此処で使ったような気分だ。
「うん。良いよ。時間を巻き戻す。僕の能力さ。でも、これは君の一生のお願い。だからね?それと、死亡回数、得た知識は引き継がれる。君に関係する人全員にもこれは関係するから。分かった?」




