10.蛇にも懐かれやすい?
あれから少し時間が経ち昼の1時頃。
「これがウロボロスの元の姿か」
「へぇ〜凄いニョロニョロしてる!!」
何故かリベア、イフ、メイデ、メイリが部屋に入っていた。
「ほう。これが主の転移特典か……六属珠護龍が転移特典とはな」
ウロボロスはそう言うと左腕から首を伝って右腕に移動する。
「彼の、身体の、隅から隅まで、密着できるなんて……羨ましい」
「わらわも主の身体は居心地がいい。もうここからは離れなれぬと思ってもいいだろう」
腕から人差し指に絡みつく。
「私も蛇だったらニョロニョロ〜って主の身体に密着できたのに〜」
「んなことして何かいいことでもあるのか?」
人差し指から親指に絡みつき、また首元を伝って左腕に移動し出す。これにはなんの意味があるのだろうか……。
「ほう?主は女体に興味が無いと」
「まぁ……そうだな」
「つまり漢に興味があると?」
「マ、マスターはゲイ!?」
「まず人に興味はねーんだよ。っていうか女体に興味が無いからってゲイ扱いするな」
人の身体に興味が無い。って話だな。
かと言って爬虫類はそこまで得意なほうじゃないしな。何が好きなんだろ……俺は。好きなものはあるのか?
「ほう。そうであったか。これは失礼した」
「いや別に良いんだよ。俺自身、自分のことがわかってないことが多いからな。特に名前とか」
前の世界にいた頃はカップルが憎いほど嫌いだったのは覚えている。おそらくその頃は人に多少興味があったのかもしれないな。
「ふむ、そうか。いつか思い出せるといいな」
龍だって蛇だってこの世界じゃなんでも喋るよな……。
特別だから。っていうのはわかるが、俺はそう対して特別じゃないのに、俺とは違ってこんなにも特別なコイツらと絡んでいていいのか?俺よりも、もっとそれに相応しい奴がいるはずなのに。無幻の宝珠だって俺が竜人になれるから、俺を選んだまでに過ぎないだろうし……。
……龍に懐かれやすい……か……。
龍だけとは言わず蛇にまで懐かれちゃってるよ……。
「俺ってどうして此処に居るんだろうな?」
「どうしてって何が?」
「この蛇含め、宝珠を護る龍っていうのはそうそう居ない特別なもののはずなのに、どうもこんな異世界転移しただけの一般人がこうやって慕われ過ぎているのか?って思うんだ。そこまで優しくした覚えも、これと言って好かれることもした覚えはないのにってさ」
なんとなく思ったことを言った。
「僕は主の人柄だと思うんだ。主がもし、転移特典ということを利用して僕やメイデの胸を揉んでくるようなら、火炎の宝珠や激流の宝珠を取り戻していたからと言っても抹消していたかもしれない。でも主はそれとは大きく違い、そんなことを考えもせず、自分より僕達をと行動をしてくれることに信頼ができた。っていう感じだと思うんだ」
なるほどね……じゃあ俺がもし転移特典だというのをいいことにぱふぱふしてたら死んでいたと。
人に興味が無い。っていうのもある一種の武器になっているわけか。
「揉まれる胸もないのに?」
「ツッコミを入れるところが違うっ!!」
リベアは涙ぐんだ目でそう言って背を向ける。
「主は特別じゃ無くても、私達からしたら中心的な存在で、用事がなくても縋りたくなる人だと思うな!!優しいんだよね、主は」
「なるほど……なんとなく分かったよ。ようやく自分がどうしてこう懐かれているのかも分かった。ありがとう」
俺は礼を言う。
少し自分に怯えてたのかもしれないな。自分の過去がわからない分、特に。
「……そういえば、アヴェルから、伝えろ、って、言われてたこと、あったんだ」
「なんだ……?」
「古今夢走のこと、なんだけど」
突然タニアがドアを開けて入って来る。
その顔は完全に絶望しきっている顔だ。何が起きたのか聴くのすら怖くなる。
「どうしたんだ……?」
「竜人の王が……宝龍剣を探して滅龍賊のギルドまで来てる!!」
「わらわを探しているのか……全く懲りない竜人よのう。わらわはこの者の、家事から性処理まで担当する下僕というのにのう」
「そんな身体でどうするんだよ」
「わらわの舌使いを舐めるなよ?」
舌をチロチロさせながらそういう。
こういうのは女の子が言ってはならないことだろ……。
「3秒もあれば主など落とせるわ」
「そういうのは別にいいから……」
「この蛇が宝龍剣ウロボロス……私が思っていたものよりもちょっとイメージと違ってたけど……」
まぁ……そうだよな。イメージと違いすぎるよな。
「わらわはただ運命共同体のこの者と一緒に居たいだけ……その為なら、なんでも喜んでやろうぞ?」
「爬虫類にしてもらうのもそれはそれで困る」
「ぐぬぬ……」
急に左腕を締め付けてきた。
普通に痛すぎて困る。
「竜人の王が持ちかけたのは宝竜剣を持つものとの1対1の勝負。負けたら宝竜剣と無幻の宝珠と、大地の宝珠を差し出せ。って……」
「竜人の王側から差し出すものはなんだ?」
負けたら諦めて引き下がりますじゃこちらが圧倒的不遇過ぎる。
「負けたら私に一生関わらない。それだけ……どうするの?……私は行って欲しくないよ……」
「……おそらくデットが相手になる。観客という名の火力増幅機を使って、一撃で沈める気だと思う……絶対に罠だ!!」
確かに……範囲内の生き物の数×物理攻撃力じゃ、いくら硬い鱗でもすぐに破れ、すぐに勝負がつく。勝ち目は薄すぎる。
勝ち筋として考えられることは、やはりその鎌を奪い取って逆に利用することぐらいか……。
「勝ち筋なら一応ある。成功するかどうかは別として。かけてもいいか?」
「負けたら終わりだよ!?私達も。みんなも!!」
「鎌を奪うんだ」
反則のようなものだが、できなければ負ける。
リスクは高いよな……でもこれは竜人の王を諦めさせる良い機会だ。見逃すわけには行かないな。
「じゃ、じゃあ、戦うのですか……?」
「まぁ……そうだな」
俺は滅龍賊のギルドに繋がる空間の狭間を作った。




