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23.そういえば不思議だよね

そういえばクレープってあの時も一度食べようとしてたっけ……う〜ん。



……。


「そっちに逃げたぞ!!」


「追え!!」


逃げる。とりあえず追いつかれないように、龍化する力を残すように、なるべく、なるべく遠くに!!


あの集団から逃げ切った先には川があってそこでなんとか一休み出来そうだ……。


私は乾いた喉を潤すために、川の水を飲む。もしかしたらこれが最後の水を飲む機会なのかもしれないからなるべく多く。

走り回ってお腹が空いている……。次元の狭間に入れていたクレープという物の存在を思い出し取り出す。もう食料はこれだけしか無いのか……。


「随分汗かいてるね?どうしたんだ?」


「!?」


驚きのあまり飲んだ水が逆流した。

喉に嫌な感覚が残る。そして手からはクレープが落ちてしまっていた。ひとくちも食べれてなかったのに……。


「ごほっごほっ」


「わわ!!ごめんごめん。脅かす気は無かったんだ、大丈夫か?」


「誰……?」


「……君は信用出来そうだ、それに同じ力を感じる。お初にお目にかかるね、僕はリベア。君は……あぁ、言わなくてもいいよ、メイデだろう?ある程度噂は聞いてるよ」


その言葉がやけに暖かく、やけに寂しそうだったのを今でも覚えている。それがこの邪龍との出会いだった。


「って何処を見ているんだい……?」


胸、小さい。

いたずらしてみたい……。


そんなふうにいつの間にか思っていたのは自覚している。


「胸、小さいね」


「余計なお世話だ!!全く……自分が大きいからって」


遠くの方で小枝をなぎ倒す音が聞こえてくる。


「いたぞ!!こっちだ!!おまけに邪龍の野郎までいるぜ!!」


「逃げよう!!」


「待って……返り討ちにしよう。僕が龍になるからメイデは加勢を!!」


攻撃力が下がっているのにどうして戦おうなんて思えるの……?それに制限時間が設けられているのに……。

そんなふうに思っていると邪龍になったリベアは駆け出していた。


敵をズタズタに引き裂いて。敵を頭から口に放り込んだり。でもこの世界じゃまた蘇れる、無駄なのに。無駄なのにどうしてか目の前の黒い邪龍は攻撃の手を緩めない。

死んだら私達は、護るべき宝珠を奪われて力を失い、蘇ったまま終わるのに。蘇れてもそれは蘇ったと言えるのか分からないままずっと一人で生きていくだけになってしまうのに。

心の強さが違うってこの時ハッキリとわかった気がした。


私はレイピアを握り目の前の敵に反撃する。


敵全員が消えたところで奥の方からもう一人現れる。

ミイラのような格好をしたコウモリの人形を抱いている幼い……私達に似たような力を感じる人が。


「リーダーが君たちの宝珠、欲しいって」


掠れた声が聞こえる、布で余計聞きにくくはなっているけど。女の子の声。

布の間から見える目には正気と思えるものが映ってないことに気づく。


「わたしはリーダーの笑顔がみたいの……邪魔しないで?」


リベアは相当疲れたのか人の状態に戻る、息切れが激しい。このまま戦ったら……きっと。


「じゃないとあの赤い炎龍と、青い蒼龍のようにしちゃうよ?」


「もう戦えそうにないや……まさか残っていたなんてね」


こっちも、もうかなり辛い状況だし……。


「逃げよう!!私、少しなら龍化が残っているから!!今にうちに!!」


龍化した私はリベアを背中に乗せ、そのまま上空へ飛ぶ。次見つかったら終わりだ。そんなふうにずっと考えながら光の国のちょっとした草原に降り立つ。結構背中で震えていたのを覚えている、今だから分かるけどあれはきっと高所恐怖症だったんだなって思う。


「今、回復するからね!?」


「ご、ごめん……本当に」


回復魔法ってどうやるんだっけ?


「痛っ!?え?え?」


「ご、ごめん……私まだ回復魔法の修行中で……」


「そ、そっか。まぁ仕方ないよ、修行中なんだし、さっきのことで心も乱れているだろうしさ」


私の魔法で怪我をした腕を更に悪化させてしまったのに許してくれた。


「どうする……?」


「もう私達終わりなのかな……?もうここまで来ているし……」


あいつらが集団でこっちに向かってくる。

もう終わりみたい……戦える力も残ってないし、龍化できる時間もない。此処で二人同時に無様に……。


諦めかけていた時、私とリベアのふらつく足元に魔法陣が展開される。



「いやぁ、災難だったね〜」


目を開けると何かの線だらけで、奥にはこの世界にあるような物とは大きくかけ離れた……未来の物っぽいものがずらりと並んでいた。

災難だったね、っと目の前のジャージ姿の女性は言う。


「君達をあの賊らから遠ざけてみたんだけど」


「あ、ありがとう……ございます……?」


「いや、いいよ。君達の宝珠が全部祭壇に置かれたらこの世界は終わっちゃうからね。私の理想の現実世界がね」


理想の現実世界……?


「あぁ、今のは気にしないで。君の友達は随分と早く起きたから保護区に案内したけど……私は君達のこと知っているけどその感じじゃ君は私のこと知らないみたいだね?まぁ当然かな?でも君の友達、何故か知っていたからビックリしたよ。改めて自己紹介を……私は、この世界の創造主で、女神を務めているただの転移者、ってところかな?まぁ色々言いたいことはあると思うけど……今の君達じゃどうしようも無い。って言うことで君達の主となる素質を持つ転移者が見つかるまで保護させてもらう事にしたから」


目の前の女神だ、創造主だ言っている人は椅子に座ったままそう言う。

理解できないまま椅子から立ったその人についていく。この魔法陣の中に入れって事なのか?っと解釈した私はその魔法陣の上に立つ。



「やっと来たのか、お寝坊さんだなぁ。まぁ此処じゃ襲われる心配も無いから良いけどさ」


リベアはそう言って次元の狭間から武器を取り出す。


「え……?何するの……?」


「練習だよ、賊に立ち向かう為の。こうでもしないと次出くわした時戦えないだろう?」


「でも怪我は……って回復している?」


「わかっただろう?此処じゃHPは減らないから充分練習できるんだ。主となってくれる人に迷惑をかけない為にもね」


レイピアを取り出し、構える。



……。


「中々やるじゃないか……そんなにもの力があったら充分賊に対抗できるのにさ」


「リベアだって……っていうか武器の形状が変わるなんて聞いてないよ!?」


「言ってないんだもん」


「ずるーい!!」



…………。


「君達の主になる転移者が見つかった、じゃあ先にその場所に転送するから待っていてくれよ?」


その声がいきなり聞こえてきて驚く反面嬉しくなったのは今でも忘れていない。



「どんな人が主なんだろうね〜」


「さぁね?良い人だと嬉しいけど」


目の前が急に明るくなる。

その光が消え、主となる人の後ろ姿が見えた。


「えぇっと、此処が異世界で……その龍って言うのは……?」


少し周りを見渡す主。


「あなたが私達の主になる方ですか?」


驚いた顔でこっちを見る。主となったその人は結構優しそうな人だった。



……。


懐かしいなぁ、そういえばリベアと主との出会いってやっぱり不思議だったよなぁ。


「なぁメイデ?」


「わわ!!え!?あ、ごめんちょっと考え事を……」


あ……落ちちゃった……三秒ルールどころじゃないよ……まぁ落ちちゃったら食べる気にはなれないけど。


「あ、ごめん……もっかい買ってくるわ、流石に食いかけなんて食いたくないだろうし。なんだっけ?ストロベリーチョコチップなんたらかんたらデラックスクレープ、って奴だったよな?ってちょ!?」


主のクレープが目の前に!!いっただき〜!!


「美味しい〜!!これでお相子ね!!」


「……!?……はぁ、結構大きく食べられてしまったな……」

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