12.真夜中のお手洗い
「お、起きてくれ」
少し揺さぶられ目が覚める。
「もう朝なのか?」
レイルさん?一体どうしたっていうんだ?賊か?何もじもじして。
「わ、悪いがトイレに付き合ってくれないか......?」
「......」
「だ、だめか?」
回答に困るな、そもそも、夜のトイレが怖いって中々子供染みたことだよなぁ、いや、此処は好感度をあげるため、いやいや、それでもレイルさんは1人の少女ではあるから、それでも頼み事とあらば付いて行くのが男としての使命なのだろうか?それ以前に、だ、他にも付き添ってくれる奴らがいるのに俺を選んだのだろうか?まぁ、別に全然良いんだけど。
相変わらずメイデは俺にしがみついて寝ているな、っていうか布団を蹴飛ばしてたら風邪ひくぞ、しょうが無いし布団を被せるか。
「あぅ......主ぃ寒いですぅ......温めて......下さいぃ」
一瞬起きたかと思ってビビってしまった、俺は立ち上がりレイルさんの方を向く。
「で、トイレに付き添えばいいというわけですよね?」
「そ、そうだ」
俺は恐る恐る扉の方へ歩くレイルさんに付いて行く。
「わ、吾輩の背中は任せたぞ」
「はいはい」
俺が扉を開ける。
......今奥の方で何かが通り過ぎていった様な?黒い影が......いいや気のせいだよな、少し近づいてみよっと。
「ど、どどどどうしたっていうんだ!?」
「今何かが横切った様な」
「ひぃぃいいングッ!!」
俺は咄嗟にレイルさんの口を手で塞ぎ寝ているメイデ達に指を指す。
「んぐっ!!んぐっ!!」
レイルさんは首を縦に振った、明らかに涙目だ。
そのままゆっくりと扉を閉めて、レイルさんに付いて行く、本当に怖がっているから面白い。
「面白がっているのか!?」
「あ、うん」
「ひ、酷いんだな、君は」
「まぁね、さ、早く済ませてくれよ?」
もう目は冴えてしまって今夜は眠れそうにないな、それに今日は早く寝ていたこともあるからなぁ。
そうして何事も無くトイレに到着する。
「そ、そこで待っててくれ」
「あーいよ」
「何処かに行くなよ!?」
「あーいよ」
レイルさんがトイレに入る、此処で待っときゃいいって訳だな。ん?またあっちの方で何かが通り過ぎていった様な、見に行くか?いや、その間にトイレを済ませてしまったら1人だけになってしまうし。今は此処で待っておこう。
そういえば龍の目は暗いところもある程度見えるようになってたと思うんだけどそれでも怖いのか、そうだ、俺も龍の目にしておけばいい訳か。
「そこにいるか?」
「居るぞ」
「......悪いんだが」
「どうした?」
「トイレットペーパーを持ってきてくれないか......?」
まさかのトイレットペーパー切れ!?そもそもトイレットペーパーを探すとなると何処にあるのかわからないんだよなぁ。
「それじゃあ探して来るわ」
宛は全くないんだけど大体そういうのって別のトイレとかにもあるだろうから一階のトイレから取ってこよっと。
えぇっと、階段はー、あったあった、龍の目にしておくとわかりやすくて良いな、そうだ、探すついでに横切って行ったあれの正体を暴こう、タニアさん曰く俺達しか客は居ないみたいだし全員寝ていたし、従業員っていうこともあるんだろうけど。
えぇっと確か此処にトイレが、あったあった、っていうか光がついているな、とりあえずノックしないと。
確か俺が前居た世界での電化製品は大体魔道式なんたらかんたらになっていたりするからな、電球も魔道式光源とかになっているんだろうな。
「誰か入っているのか?」
返事は帰ってこない。
「じゃあ」
俺はトイレを開ける、そこには誰も居なかった、まぁそりゃそうか、返事があった訳じゃないし。
「よっと」
トイレットペーパーを念の為二つ取る、渡しに行くか、その前にこの光源を消しておかないとな、っていうかどうやって消すんだ?とりあえずなんかこれっぽい気がするからそれを触ってみてっと、お、なるほどね、消えた消えた。
早速渡しに行こうか、って階段の前に誰かが立っているな、どのみち此処を通らなければいけないし。
「君、誰?私、メイリ、盗賊の仲間」
「あ、俺は名前を思い出せなくって......え?」
「そう?あ、私、霊魂の宝珠を護る霊龍、なの、君も、宝珠を、護る、龍、だよね?」
うっそだろ......?なんでこんなところに賊の仲間が......。
「アヴェルが、言ってた、半竜半人って、君のこと、だよね?」
此処は下手に隠さずに、でもそうしたら此処で戦闘が起きてしまうんじゃないのか?それに敵意は無さそうだし。
「その目を、見れば、わかる、君が、例の半竜半人、だね?」
しまった!!龍の目にしていたんだった......。
「アヴェルが、君みたいな、逸材が、欲しいって」
「だからどうしたっていうんだ......?」
「来て、欲しいな?」
唾を飲み込む、トイレットペーパーなんざ取りに行っている場合じゃ無かったな、でも待っているだろうし早くしないと。
「すまん、用事があって」
「用事?うん、良いよ、用事が、終わったら、1人で、この宿の外に来て、此処じゃ、君も、私も、都合が悪いでしょ?」
待っててくれるのか。
俺は頷き階段を登る。
「持ってきたぞ」
「感謝する!!えぇっと入って渡してくれないか?どうもここからじゃ扉の前まで手が届きそうにない」
「あ、うん、わかった」
俺はトイレットペーパーを2個左手で持って右手でトイレのドアを必要最低限程度開けた、そこから2個のトイレットペーパーを渡し閉める。
「いやぁ本当に感謝する」
「んじゃ俺は」
「帰りも付き添ってくれるよな?」
「あ、はい」
トイレが終わり出てくる、そのまま部屋まで何事も、レイルさんに関しては無く終わった。
「ん?何処か行くのか?」
「あ、まぁ外の景色でもって」
「外は竜人を毛嫌う者が多いぞ?」
「ま、それでも良いかなって、第一タニアさんが友達だって人の前で言ってたからね」
適当に外の景色でもって嘘を付く、そのままレイルさんは部屋に戻り俺は玄関の方へと薄暗い階段を降り、歩く。
「来た、何処で、お話を、しよう?」
「何処でも良い」
「冷たいのね、私は、こんなにも、楽しみ、なのに」
何が楽しみなんだよ。
「ねぇ?」
俺は背筋が凍る様な感覚を植え付けられる、何故かはわからない、ねぇ?っと聞いてきた瞬間だった。
「綺麗な、空だよね」
「あ、あぁ、それがどうしたんだ?」
「私達、初対面なのに、恋人、みたい」
何言ってんだこいつ、少し頭のネジが外れているんじゃないのか?
「恋人、みたい、だよね?」
「それはないだろ、それより話」
「それは無い......?なにそれ?」
え?今ので怒るの?それに喋っている最中に割り込まれたし。
「なにそれなにそれなにそれなにそれなにそれなにそれ!!」
情緒不安定過ぎるだろ、それよりも、凄い怖い。
「あぁ、取り乱しちゃった、ごめんなさい」
「そ、それで話しって言うのは」
「話し?盗賊団入らないか、っていう話し」
やはりそれか、アヴェルといいコイツといいどうして俺にこだわるんだよ。
「今じゃ無くても、良い、そういう、お話だから」
そういって賊が消える時のように赤い魔法陣を出し消える。
やっぱりアヴェルだけじゃ無いんだな、賊に加入する宝珠を護る龍は。
俺は少しボーッと空を眺めた後、部屋に戻って布団に潜った。




