第6灯
Y県 月光館 2016年10月22日 午後4時~
2階の右奥の角部屋が俺の部屋で、隣が満希の部屋だ。間取りは先ほど入れてもらった灯の部屋とさほど変わりはない。
「なぁ、満希どう思うよ? 何か起こりそう?」
「ふわぁぁぁ、ん? わかんないな。起こりそうな、そうでないような。ってか、このベッド気持ちいいな。フカフカだ。にゃんにゃん」
来るときずっと寝てたくせに、この始末だ。お前はネコか。俺は無視して話を進める。
「それでさ、多賀城さんに予告状の本物を預かってきたんだ。満希も見てもらえない?」
(俺の)ベッドの我が物顔でごろごろする満希が顔をこちらに向ける。
「お、ちょっと貸して。どれどれ―――」
一通り文章を読んだ後で、満希は便箋を裏にしたり表にしたり、透かしてみたり、封筒まで丁寧に調べていた。この一面だけだったら十分探偵らしいんだけどなぁ。
外の雨がさっきよりより強く窓に打ち付けられている。これでは本当に何かあったとき山を下りるのは相当苦労しそうだ。
「ほい」
満希が不意に封筒にしまった予告状を俺に投げ返してくる。
「おい、大事に扱えよ。一応、証拠なんだからさぁ。それで、何かわかった?」
「いや、なーんんも。それだけじゃ、お手上げ」
そういって、両手を上げる。
「でもさ」
「ん?」
「人間関係はなかなか匂うよな」
それは俺も感じていた。一堂に会するのはおそらく初めてのメンバーではあるが、なにやらきな臭さを感じていたのはあった。やはり、満希も感じていたか。
「うん。特に、てまりさんと要さんの間は何かありそうだね。あと、小説家の権田先生がやけに落ち着いていたのを見ると、参加は初めてじゃなさそう」
「おぉ、さすが灯哉。俺の一番助手。察しがいじゃん」
満希に褒められるなんてちょっと気持ち悪いうえに、いつから一番助手になったんだか。そもそも、助手は俺一人だけだろうが。もろもろの突っ込みは全部しまって話を続ける。
「てまりさん、要さんと話す時だけ態度がちょっと変わってたしね。あとは、なんかまだわからないけどいやな空気はすごく感じるんだよな。何も起こらなければ一番だけどさ」
「ところで、灯哉はゲーム参加するの? カードもらったやつ」
「あ、これかぁ。まぁ、一回目の推理会までは様子見かな。ほかの参加者がどのくらい積極的に予告を出してくるのかもわからないし。満希は?」
「俺は、謎解きに参加できればいいからどっちでもいいや」
そう言って、また俺のベッドの掛け布団をモフモフしている。
「にゃあん」
「うるさい!」
「はぁ、俺じゃねえし」
あぁ、聞かなければよかった。不意に、ドアがノックされる。
「はい」
戸口まで駆け寄って返事をする。
「わたし、てまり。ちょっといいかしら?」
「どうぞ」
招き入れたてまりは、最初に会った時と表面上は何も変わらず、むしろグレート・ホールにいた時よりは幾分、てまりらしかった。
「どうしたんですか?」
「少し気がかりなことがあって、さっきまで二人が名探偵だとは知らなかったから、相談できたらと思って」
「あ、こいつは助手ですよー」
ベッドの上から満希が俺を指さす。
「あっ、ごめんなさい」
いや、むしろ謝らないでください。
「いや、いいんです。よく間違われるんで。それで、相談って?」
「あの、ゲームのことなんだけどね、私、何か起きそうな気がするの。その、うまくは言えないんだけど、あなたたちも気を付けてね」
「なんか、根拠があるんすか?」
満希が日常会話をするように質問する。
「いや、そういうのはないんだけど。なんとなく、そう、勘ね。私の勘って意外と当たるのよ」
「ふぅん」
聞くだけ聞いて満希はいつの間に僕のバッグから取り出したのか分からないが、漫画を読みだす。
「ご、ごめんね。気を悪くさせちゃったのなら謝る」
「いいんです。満希はいっつもこういう感じなんで気にしないでください」
「あ、そうなの。それじゃ、私はそれだけ伝えようと思ったから。また、あとでね」
そう言って、部屋から出ていくてまりを見送る。
「そういう態度は毎度のことだけど、やめた方がいいよ。調査に支障が出る」
ベッドにわざとドスンと腰掛ける。小柄な満希の体が一瞬、宙に浮く。
「うっ、ドスンはないって嫌がらせかよ。まぁまぁ、そう言わずにサポートしておくれよ」
そう言って、横になったまま俺の腰のあたりにぐっと腕を回してくる。
「ん、馬鹿っ。わかった、わかったから、やめろって」
あぁ、何もわかってないのに結局、今日も許してしまう。満希と組むようになってからはいつもこうだ。奔放な彼に振り回されるのが大変なのはわかっているのに結局、少し頼られると許しちゃう。ま、相棒っていうのはこんなものなのかもしれないな。
「てまりさんの言ってたことどう思う?」
満希が質問を投げかけてくる。
「え、まぁ。少し気味が悪いゲームではあるから心配してるんじゃないかな。烏丸さんのゲームの説明も淡々としていてなんか怖かったし」
「本当に心当たりないのかなぁ。何か知っていそうな感じもしたけど」
「どうだろ、まぁ、てまりさんだけじゃなくて、ほかの人にももう少し突っ込んで話を聞いてみる必要はあるかもしれないね」
結局、夕飯の時間まで満希は俺のベッドの上で漫画を読み続け、自分の部屋には戻らなかった。夜はさすがに一人にしてもらおう。
「満希、そろそろ夕飯の時間だから、ホールに行こうか」
「ああ。あとさ」
「なに?」
満希がさも当然のように俺に聞いた。
「ここ、温泉あるかな?」
あるわけないだろバカ。