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第5灯

Y県 月光館 2016年10月22日 午後3時~


「こ、殺し合い? 冗談はよしてくださいよ。それに、そんなの許されるはずないじゃないですか」

物騒な予告状に「殺し合いゲーム」、符合の一致に俺は思わず声が上ずってしまっていた。

「それが、ここだけは認められているんだよ。子供にはわからないだろうけど、大人にはいろいろと便利な事情があってね」

そういうと、要はにやりと笑う。その時だった。パンパンと手を打ち鳴らす音がホールに響く。

「はいはい、要さんその辺にしておいてあげて。子供を怖がらせるなんて、相変わらず趣味が悪いですね」

声のする方を向くと、ぴちっとしたパンツスーツを着こなした多賀城明その人がいた。化粧も決して派手ではないし、スーツだって超高級品というわけでもなさそうだ。でも、なんだろう、この存在感。どんな地味なものを身に着けたとしても隠しきれない全身の整い方をしているのだ、この人は。人はこれを、オーラとでも呼ぶのだろう。

「榎本君だったかな。ごめんなさいね。要さんも悪い人じゃないんだけど、ついお遊びが過ぎてしまうの」

「いや、あの、大丈夫です」

存在そのものに圧倒されてしまっているのだろうか、俺は大した返事もできず俯いてしまう。

「いやぁ、相変わらず明さんはキレイだねぇ。これで、一児の母か。芸能界は惜しい人を隠居させてしまったよ」

要はいたって大真面目な様子だった。まぁ、こういう人なのだろう。これから予告状の謎と向き合うとなったときに、人となりが分かりやすいに越したことはない。

「はいはい、もうそのくらいで十分です。さて、ご挨拶が遅くなってしまってごめんなさい。今回は、お集まり頂きまして本当にありがとうございます。私の人生を変えてくださった大人気作家の権田先生に、日本で最も注目されている若手女優にして私の大好きな後輩のてまりさん、業界で引く手あまたの敏腕プロデューサーの要さん、そして、今日はスペシャルゲストとして灯の学校のお友達にしてあの巷で有名な中学生名探偵の留木満希くんと助手の榎本灯哉くん―――」

次々に呼ばれていく客人は明のことを見て会釈をしていく。って、俺はただの助手か。

「改めまして、月光館へようこそ。今年もこの月光の集いを開催できることを本当にうれしく思います。今回は初めてのお客様もいらっしゃるので、改めてこの集いの趣旨とそして、ルールをお伝えさせていただきます」

ん、灯からは2泊3日、ただ館に泊まって客の様子を探るだけでいいと聞いていたんだが、宿泊中にはルールがあるのか。

「まずは、この月光の集い。いろいろな理由がありましたが、私が芸能界から身を引いた翌年から毎年この時期に開催をしてきて、今回で十二回目を数えます。開催の趣旨は当初から変わらず、旧知を温めるためです。今、私は芸能界に身を置く者から子供たちの母親として生きています。ただ、住む世界が変わろうとそれまで結んできたご縁は大切にしたい。そう思ったところが発端でした」

なるほど。だから、出席者は芸能関係者ばかりなのか。何度目の参加なのかは不明だが権田は目を閉じたまま何度も大きく頷いていた。

「さて、ただ集うだけでももちろん有意義ですが、せっかくの集いです。少しあの頃の刺激的な世界を、この日だけ思い出したい。そう、それが例のゲームのはじまりです。榎本くん、さっきは要さんが中途半端な話をして驚かせてしまってごめんなさいね」

弱ったねぇ、と要が頭を掻く。

「いえ、でも、この話の流れって、やっぱりゲームはあるんですか」

「さすが、有能な探偵助手ね。お察しの通り、この集いでは2泊3日のなかでゲームが行われるんです。その名も――――」

「殺人ゲーム」

間を開けた明の声に被さるようにてまりが小さな声でこぼすように言ったのを俺は聞き逃さなかった。本人も無意識だったらしい。

「あら、てまりさんは今年初めてなはずだったけど、知っていたのね」

明も聞こえていたらしく、反応を見せる。

「あ、やだ、あたしったら! 以前、出席されてた先輩達から噂で聞いたことがあって」

明は「そうだったの」鷹揚に頷くと話を続けていく。

「でも、もちろん実際に殺し合いをするわけではありません。今は文明と倫理の世の中です。当然ですよね。詳しいルールは、烏丸からさせて頂きます。私はちょっと、この息苦しい戦闘服から着替えてまいりますので」

最後にしっかりと笑いを取って愛嬌を振りまくあたりはさすが元女優だ。要の言う通り、一児の母であるなんて言われなければ気が付かないだろう。

それでは失礼、と言って衣装直しのために部屋を出て行った明を見送った後で、部屋の隅で影のようになっていた烏丸が先ほど明が立っていた場所に立つ。腰を折っている姿をよく見ていたからかもしれないのだが、この男は印象以上に背が高い。前に立っているところを見なかったら気が付かなかったかもしれない。

「それでは奥様に代わりまして、私が『ゲーム』のご説明をさせて頂きます」


烏丸が説明したゲームの内容は次のようなものだった。


・参加者は一人2枚、「殺人カード」と呼ばれる手札を配布される

 ※カードには死因と被害者の名前を書く欄、そして①~⑨までの数字が書いてある

・館の中に予告状箱なる鍵のついた木箱が3か所(談話室、グレートホール、二階の客室通路)に設置され、参加者はそこに任意で殺人カードを投函することができる

 ※開けられるのは鍵を持つ烏丸のみ

・朝食後(十時)、十五時、夕食後(二十時)の三回、推理会が開催される。

 ※推理会は烏丸が予告状箱からランダムに選んだ殺人カードをもとに、記載された数字の謎解きを全員で行う。三〇分で解決できなかった場合は被害者として書かれた人物はゲーム上では「死亡」となり次回以降のカード投函及び推理への参加権をなくす。

・最終日まで生き残った人物には明から豪華な賞品があるとかないとか


明が明言したように、実際に殺し合いをさせるつもりは毛頭なく、名前だけは何とも物騒ではあるが実際はいわゆる推理ゲーム大会の類である。


「つまり、殺害を予告されたとしても、その後の謎解きが成功すれば死ぬことはないってことであってる?」

満希が確認する。

「ええ、そういうことになります」

「―――ってことは、カードを投函した犯人役の人間も推理には参加するわけで、殺人を成就させるために推理を攪乱させるのもありってことですよね」

てまりが恐る恐る質問をする。

「えぇ」

「てまりちゃんもなかなか怖い発想をするねぇ」

要が茶化すようにてまりに反応を見せる。

「いや、あたしは可能性の話をしているだけで」

「いーのいーの、そうでもしないとこの業界を乗り切っていくことなんてできいからねぇ」

そういうと、要は満足そうに、はっはっはと大声で笑う。すでに酒が入っているのだろうか。

「ただし、ゲームの上では善人になろうが悪人になろうがお互い恨みっこは無しでございます。ゲームで起きたあれこれをその後の現実世界に持ち込むのも、このゲームのご法度でございますのでお願い致します」

ゲームが終わった後にゲームのルールがあるとはなかなか面白いことを言うなぁ。とはいえ、一同は深く頷く。

「それでは、これよりカードを配らせていただきます。また、本日は一九時から夕食、二〇時の推理会が開催されます。それまでは、お部屋や談話室でご自由にお寛ぎくださいませ」

その後、烏丸が参加者にカードを一人ずつ配り、解散となった。


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