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変わり者との出会い

 目前に迫るトラックを前に、僕はただ目を瞑ることしかできなかった。


 しかし、トラックが当たるよりも先に、自分の身体が何者かに抱えられたような感覚を感じた。


 衝突の痛みは何時まで経っても来ない。どう考えても避けようのなかったあの状況がどのように変わったのか、僕は気になって瞑っていた目を開けた。


「………………………はっ?」


 状況は一変していた。が、理解するには少々時間が掛かった。


 僕は轢かれていなかった。というか、なぜか飛んでいた。


 『僕が』ではなく、『僕を抱えた誰かが』だ。この際お姫様だっこされていたことは気にする余裕もなかった。


 とにかく、僕は僕を抱えている誰かの方を向いた。


 …………何だ、これ?


 一見すると背格好は普通の人だ。おそらく性別は男。身体的特徴はこれと言ってないし、何でこんな高さにまで飛べたのかという説明さえできないほど、極々一般的な風貌だ。





 その顔についている仮面(・・)を除いては。


「大丈夫かい?危ないところだったね」


 仮面をつけたそいつは、こちらの視線に気づくとそう言った。なんでその絶対目が見えてなさそうな仮面をつけていて気付く?目の部分に穴らしきものが全くないのに。


「何か…………、色々状況が飲み込めないんですが?」


「おや、結構落ち着いているね?トラックに轢かれかけていたっていうのに」


「単に色々おかしくて頭が混乱しているだけですよ!?」


「ハハハ、いいね!元気なのはいいことだ!」


 そいつは軽く笑った。何だこれ?ますます訳が分からない。


「とりあえず、事故にならなくてよかったよ。偶々見かけたら事故になりそうだったから思わず飛び出しちゃったよ。いやあ、間に合ってよかった」


「いやいやいや!普通間に合わないだろ!?ていうかあんた誰!?なんでこんなに高く飛んでんの!?」


「まあまあ落ち着いて落ち着いて」


「これが落ち着いていられるか!!」


相変わらず笑うこいつに思わず突っ込みを入れる僕。


「分かった分かった、後で説明するからとりあえず落ち着こう?」


 こいつは笑みを浮かべたまま、近付いていたビルの壁に足を向け、


 跳躍した。


「はあ!?」


 僕はただ驚くことしかできなかった。


 そいつはその後も同じように跳躍し、その場を離れていく。


 ふと自分とトラックがぶつかりそうだった場所が見えた。幸い、被害者は出なかったようだ。


 ともあれ、少し離れたところにある公園に僕とそいつは訪れた。


「さて、そろそろ落ち着いたかな?」


「あっ、ああ…………」


 全く以って訳が分からないことだらけだが、ちゃんと話だけでも進めたい。


「一体お前は何者なんだ?」


「黙秘権を行使する」


「ふざけんな」


「いやごめんごめん、ちょっとふざけてみたくなっちゃって」


 ホントに何なんだこいつ……。


「とりあえず、ここではギギと名乗らせてもらおう。親しみを込めて呼んでね♪」


 若干ふざけた感じで、こいつは『ギギ』と名乗った。


「本名じゃないっていうことは分かった。で、偽名を名乗る理由は?」


「特に理由はないよ?ちなみに、『偽る』って感じの『偽』と『欺く』って感じの『欺』でギギね?順番は特に決めてないから、好きな順番でいいよ?」


「聞いてもないしどうでもいい。それでなんで僕を助けた?どう考えたってあの場面で助けられるとは思わないだろ?」


 押し出されてトラックに轢かれそうになった人を助けるなんて、まずできるとは思わないだろう。僕は単純に疑問に思った。


 しかし、ギギは僕の疑問にとても軽い感じで答えた。


「助けられると思ったから助けた。それを抜きにしても、目の前で危なくなってる人を見たら助けたいと思うだろ?」


 ギギの身体能力については疑問だらけだ。


 目の前にまでトラックが迫っている状況で刹那にも等しい瞬間で人一人を抱えて跳躍、その後もビルの壁を足場に跳躍………、どう考えたって人間の身体能力じゃない。


「お前の身体能力、明らかに人間離れしすぎてるよな?それって一体……」


「別に説明してもいいんだけど、そろそろ時間じゃない?」


「?何の……」


「高校」


………………………………………。


僕はすかさず時計を見る。


8時22分。授業が始まるまで凡そ20分。


 現在地 何処かの公園。


「ああああああああああああ!!」


 一人の少年の、絶望の声が上がった瞬間だった。


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