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Bon Cuisine

作者: 出島優

その強盗殺人は、少し不思議な事件でした。

被害者と思われたのは、小柄な料理人。彼は「どんな食材でも最高の料理に仕上げる料理人」としてとても有名で、テレビにも何度も出演していました。

なぜ「被害者と思われた」と表現したか、そこがこの事件の不可解な点なのです。

普通強盗殺人というとかならず遺体がどこかしらにあるものですが、彼の遺体はなぜかどこからも発見されなかったのです。一応家主が行方不明で、どうやら窃盗もあったようなので強盗殺人というわけです。


実はこの事件、容疑者はもう挙がっています。

ただ、またここにも不思議なことがあるのです。

捕まったのは、くしくも彼と同じ料理人だったのですが、彼女(容疑者ですね)が犯人という物的証拠がないのです。遺体があれば死亡推定時刻の調査やDNAの照合ができたのですが。


さて、彼女はどうして彼を殺したのでしょう?そして、いかにして証拠を消し去ったのでしょう?

あなたはお分かりになりましたか?

















では、ひとつずつヒントを差し上げましょう。

まず容疑者ですが、彼女のお店では「素材を一風変わった料理として出す」ことで有名でした。その店に行くとメニューには「シチュー」とか「ポワレ」とだけ書いてあり、なにを使っているかは当ててください、といったような趣向です。これはなかなかあてるのが難しく、プロの料理人でも見抜くのはほぼ不可能なほど。

そして彼女が検挙される前、彼女の店では「ポトフ」がとても人気でした。


次に被害者です。被害者は「豊かな味覚経験がさらなる美味を生む」という信念を持っていました。一見すると素晴らしいことのように聞こえますが、彼はその信念に従い、毒があるものと無機物以外はなんでも食べる、いわゆるゲテモノ食いだったのです。また未知の食材を求めて旅に出ることもしょっちゅうで、この間はアマゾンに行き、助手の女性一人を失ったそうです。

ただ彼のすごいところは、そうして食べたものすべてにきちんとレシピを作っていたところです。彼の料理が人を惹きつけていたのは、そういった狂気じみた才能だったのかもしれません。

インタビューされたとき、彼はこう話していました。

「私はすべてのものに、最高のレシピを作りたい。だからまずは、たとえそれが手を出してはいけない禁断の果実だとしても、味わってみたいのさ。」


それでは最後です。

強盗殺人ということは、彼の家からなくなったものがあるはずです。

それは、彼のレシピの一つでした。彼はとても几帳面で、レシピをひとつひとつファイリングして、料理の種類別に分け、素材の名前のアイウエオ順に家の棚に集めていたのです。今回警察がなくなっていたことに気付いたのは、彼が手元に残していたメモに「蒸し料理 ア…*個 イ…*個」とレシピの数が書いてあったのですが、一文字だけ、棚にある数がメモの数より一つ少なかったからです。

足りなかったのは、「煮込み料理」の棚の「ニ」のところでした。







もうお分かりになりましたよね?そう、彼の遺体は…

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