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事情聴取一日目(1)

 胴長で、さらにそれよりも長いチェックのコートを羽織り、同じくチェックのハンチング帽を被った長髪の男は、自分のことを、探偵、と名乗った。


 「はじめまして。僕は探偵のシュピーです」


 ハンチング帽に手を掛けたので、帽子を外すのかと思いきや、彼は帽子を押さえたまま俺に軽く会釈をした。たとえ室内であっても、たとえ帽子を外すことが礼儀であったとしても、彼には絶対に帽子を外さないという主義があるらしい。


 俺もソファから立ち上がり、小さくお辞儀をした。



 「あなたがかの有名なノーランさんですね。宇宙人の」


 「まあ、そうだな。この惑星では、俺は生きてるだけで有名人だな」


 「唯一無二の存在ですからね。それにしても、本当に我々人間と変わらないんですね」


 シュピーは俺の頭の先から足の先までをまじまじと観察した。


 「まさか、目が三つあるとでも想像してたのか?」


 「で、足が二十本くらいあると思ってました」


 シュピーは真顔でそう言った。


 「残念だが、俺は君たち人間と何も変わらない。おかげで今のところサーカスの興行にも声が掛からない」


 「でも、博物館には需要があるんじゃないですか?宇宙人が我々人間と全く同じ構造を持っているということは、それはそれで科学的には大発見ですから」


 「かもな。まあ、立ち話も難だから座ってくれ」


 俺は小さなテーブルを挟んで、ソファの向かい側にある椅子に腰掛け、ソファの方をシュピーに勧めた。


 シュピーはソファに飛び乗った。



 「ここでずっと暮らしているんですか?」


 「ああ。ここでの暮らしは快適だよ。何か欲しいものがあるときでも、言うとすぐに手に入る」


 ここは国際宇宙開発センターの本部の建物の一角にある。


 2LDKの居住空間はマンションの一室の内装と何ら変わりがない。トイレもお風呂も付いている。


 ただ、普通のマンションと違うのは、ここから一歩外に出るとそこは研究所の廊下であり、隣の部屋も向かいの部屋も全て実験室になっているということだ。


 「まあ、たしかに住み心地良さそうですね。ソファもフカフカで」


 シュピーはソファの腰掛け部分に頬を擦り付けた。


 「でも、プライベートがないんじゃないですか?」


 「そんなことはない。この部屋に監視カメラが付いてるわけでもなければ、外出も自由に許されてるからな」


 「でも、外出したら大変なことになるんじゃないですか?あ、あそこに宇宙人がいる、って叫ばれたりしません?」


 「その心配はないよ。誰一人として俺が宇宙人だと気づく人はいない。見た目は人間と丸っきり同じだし、俺の顔写真は公開されてないからな」


 「あ、宇宙人が見つかったという報道はあれども、顔写真が一切公開されていないのは、ノーランさんのプライバシーに配慮してのことだったんですね。巷では、宇宙人の姿を見ると三日以内に死んじゃうからだ、とかまことしやかに語られていますよ」


 俺は鼻で笑った。その馬鹿げた噂話なら俺も聞いたことがある。


 「俺はお化けか何かなのか?」


 「我々からすればお化けよりも縁遠いです。お化けだって元は我々の祖先だったりしますから」



 ここでようやく話が切れたので、俺はシュピーがこの部屋に入ってきてからずっと気になっていたことを質問することにした。


 「君は一体いくつなんだ?」


 「え?僕の年齢ですか?いくつに見えます?」


 シュピーは小柄で、コートを羽織っているというよりは、コートに羽織られているというように見えた。


 顔には皺が一本もなく、女性のような透き通った肌をしている。声も女性のようにかん高い。


 「俺には十七歳か十八歳くらいに見えるな」


 「あ、そんなに若く見えますか?威厳がない、ってことですかね?実はもう二十四歳です」


 シュピーは眉をひそめた。若く見られることが嬉しくないらしい。


 「二十四歳か。だとしても若いな。探偵というのは、そんな若いうちからできる仕事なのか?」


 「探偵業界は完全なる実力社会ですから、年齢は関係ないです。ちなみに、僕は十六歳からこの仕事に就いていましたよ」


 「それはすごいな。君は相当優秀な探偵ということか?」


 「何をもって優秀というかは分かりませんが、これでも難しい事件はいくつも解決してきたつもりです」


 「それは感心だな。ところで、その探偵がなぜ俺を訪ねてきたんだ?」


 これもシュピーがこの部屋に入ってきてからずっと気になっていたことだ。むしろこちらを先に質問するのが筋だったかもしれない。



 シュピーは呆気に取られたように口をポカンと開けた。


 「え?探偵は事件を解決するために現れると相場が決まってますよね?」


 「そうかもしれないが、なんで警察じゃなくて探偵なんだ?警察だって事件を解決するだろう?」


 ああ、とシュピーは目を大きく見開いた。先程から表情がクルクルと変わる。そういうところが彼の子供っぽさをより強調している。


 「僕はこの国際宇宙開発センターの所長さんから依頼されただけなので断言はできませんが、おそらく、国家権力をこのセンターの建物内部に入れたくなかったんだと思います。国家に機密情報を漏らしたくなかったんでしょうね。国際的な秘密を特定の国家に知られたくないと考えるのは当然でしょう」


 それから、とシュピーは同様のトーンで続ける。


 「所長さんが、僕の方が警察よりも有能だと思ったんでしょうね。どうしても、僕に、という話でしたから。他の探偵に依頼する気はないみたいでした」


 「ほお、それは結構なことで」


 目の前のソファで落ち着きなく脚をバタバタさせている青年がただの自惚れ屋でないとすれば、この青年は探偵としてかなり優秀なようだ。


 もちろんそれでも一向に構わない。シュピーもこの地球の人間に過ぎない以上は、俺の犯行に気付くことはできない。


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