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レベル0の勇者とレベル0の魔王

ヒマつぶしの大切さ

作者: 閑話Q題

ゆるーい日常話です(嘘)ゆるーく読んでください


「アナタの魔法っていつ使われてるの?」


普段、寡黙で何事にも動揺を示さない勇者である十七、八歳の少女が十二時間ぶりに口を開いた。

疑問をぶつけられた魔法使いは、目蓋を数回した。なるほど、珍しく頭が追い付いていないようだ。いつもは人を小馬鹿にしたような態度で相手をイラつかせているが、それは頭が状況を理解しているからこそできること。

魔法使いは沈黙したまま、熟考し始める。

 

「いや、ダイヤン‥お前そんなに真剣に考えなくていいからね」


ティーカップを片手に黙りこくっている二人に今のあほらしさを伝える。

 

「ン? リンダは何飲んでるノ?」

 

ダイヤンと呼ばれた魔法使いはさっきまで思索にふけていたが、興味がなくなったようにティーカップに視線を移した。正反対に、勇者は未だ思考の迷路の中だ。

 

「ああ、これ? コーヒーよ」

「ティーカップなら紅茶飲めヨ」

「えぇ!?」

「マ○オさんかヨ‥‥」

 

勇者を蚊帳の外にし、二人はトークを開始する。勇者、微動もしない。

 

「それなら、お前は何飲んでるのよ?」

「ワタクシはコーラーで、エヴァはオレンジジュース」

「子供かよ!? 世界救う人がそれでいいの!?」

 

ちなみに、エヴァとは勇者の名前である。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥!」

 

エヴァが立ち上がり、周りの喧騒が消えた。正しくは、エヴァは出した音に対して、静まり返った。テーブルを思い切り叩いたのだ。

 

「な、なによ?」

 

勇者の仲間たちは愕然とする。ここまで活発(?)のいいエヴァは久々に現認した。

エヴァは姿、形ははっきりと思い出しているけど、名前がでてこない状態から脱出したように目が輝いている。つまりは、すっきりとした顔をしている。ついでに、こんな表情は二年に一回見られればいいところだ。

嬉々とした表情のまま、エヴァは口を開いた。

 

「その服はコスプレなんだー!」

 

爆弾投下。

 

「はぁ?」

 

初めに発話したのはリンダ。いつもこの二人に振り回されているせいか、状況の呑み込みが早い。

 

「いやいや、称号も魔法使いだからね」と、リンダはフォローを入れる。

「魔法使いってだけで魔法使えないかもじゃーん」

 しかし、エヴァは特に気にすることもなく、自分の出した結論に納得している。

「いやいや」

「それしか言えないの―?」

「いやいやいや」

「まじうざー」

「うざっ!?」

 

ここまで一言も発しない魔法使いことダイヤンは黙している。俯いて、顔色は窺うことはできない。魔法使いの帽子で口元しか見えない。

「キモい死ねー」

十秒‥‥。

「それは言い過ぎよ!!」

二十秒‥‥。

「またまたー好きなクセに」

二十五秒‥‥‥。

「キャラ崩壊もいいところだ。」

三十秒‥‥‥。

「それは今更」

三十五秒‥‥‥‥。

「ふざけんなあああああああ!! クソガキがあああああ!!!!!」

怒号が鳴り響く。もちろん、ダイヤンのもの。

怒り狂っているせいか、見たこともない顔をしている。ひしひし、と激高としたオーラが伝達される。

怯えている表情のリンダと安定の何も考えていない表情のエヴァ。感情は何処に。

 

「オレが何年生きていると思ってるんだヨ!? 軽く五世紀くらい生きてるワッ! たかが十七、八年くらい程度しか生きてねーガキガッ!! ああん!!?」

「ああ、あああの‥‥ダイヤンさん? キャラがちょっとぉ‥」

「だいたい、てめーもだヨ!! ふざけてんのかヨ!!」

 

怒りの矛先はリンダへと変更。顔が引き攣り始める。

 

「どうせ『みんなの代わりに私がしっかりしなくちゃ!』とか思ってんだロ!! 間に合ってんだヨ! いい人気取りかっつーノ!!」

「はぁ?」

 

リンダの声がワンオクターブ下がる。

いつものふんわりとし、保護者のような優しい面容は姿を消した。代替に、目は細められ、獣が獲物を狙うような目つきへと化ける。

 

「コスプレか‥だったら、コスプレじゃないことを証明してやるヨッ!」

 

ダイヤンは独り言のように呟いた後、指をパチンと鳴らす。それと同時に、無数の氷柱のような氷塊が出現する。

あちらこちらで人々の小さな悲鳴があがる。しかし、怒り狂っている二人には聞こえず。

 

「ふーん、へぇー‥私のことそんな風に思ってたんだ、ほぉー‥」

 

冷たい笑みを浮かべ戦闘態勢へと入っていくリンダ。

 

「なめやがって! 小娘がぁ!!」

 

蛮声を張り上げると、揃ってリンダの周りに大きな火の玉が発現する。

 

「クソババアアアアアア!!!」

「クソガキがあああああ!!!」

 戦闘開始。

 暗転。


場所移動――とある公園。

「エヴァさーん、‥‥いい加減にして下さい。これでアナタ方にお店壊されるの三桁目なんですけど」 

「よかったねー、記念すべき百回目達成。三百を超えるとスタンプが貰えるよー」


どうでもいい風に、勇者ことエヴァが話す。店からくすねたブドウの房を口に含む。

 

「いや、いらないですし。僕の喫茶店返してください」

「国王サマにー、モンスターに襲われたって言えば建ててもらえるでしょー」

「その言い訳九十九回しました」

「それじゃあ、慣れたものでしょー? いいじゃん、べーつに」

「よくねーよ、バカが」

 

店の主人が繰り言を吐くと、エヴァは薄ら笑いを浮かべたまるでこの状況を楽しんでいるかのような‥。

公園のベンチから立ち上がるエヴァを店の主人は見上げた。そして、素朴な質問を投げかけた。


「なんでこんなことしたんですか?」

 

叱りつけるようなものではなく、親が子供を諭す時のような口調は優しかった。

 

「んー、あーひまつぶし?」

 

毎回、同じ答えだがこれには苦笑を浮かべている。

 

「退屈は人を殺すっていうけどーアレほんとかなぁ?」

「だから、こんなことするんですか?」

 

フフ、と綺麗な笑みをもらすと、エヴァはゆるく首を横に振る。


「違うよ。ただ私があのたちと遊びたいだけ」


そう言い、背を向け公園の出口へとゆっくりと歩を進める。


「平和って楽しいよね」


店の主人に聞こえるかどうかのぎりぎりで独語した言葉。聞こえなくてもよかったのかもしれない。公園からエヴァは完全に姿を消した。


「それじゃあ、矛盾してますよ‥‥エヴァさん」


呟かれた台詞は空に吸い込まれた。

ベンチの背凭れに頭を預けると、店の主人の視界は真っ青な空に支配された。

この物語は、退屈を嫌う勇者が仲間を波乱に巻き込みながら、何の罰も受けないある意味賢い人間の平和的物語である。

誤字脱字、すまない。

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