" 運命"八尾慶吾目線
あまり人の来ない図書室に彼女が来るようになったのは、僕が西田さんの事を諦めようと思った日。
図書室に静かに入ってきて僕の方を見ないで本棚を見て回る姿が印象的だった。
五島忍さん。
学校の中でも有名な女の子。
スポーツ万能で女子から人気でファンクラブまでまであるって誰かが噂していた女の子。
「………何か探してるんですか?」
思わず声をかけていた。
振り返った彼女は黒髪ショートカットの中性的な美人。
「いや、何を読もうかもよくわからなくて………おすすめはありますか?」
少し申し訳なさそうに彼女に聞かれて、西田さんの事を考えて苦しかったのを少しだけ忘れた気がした。
「どう言う感じが良いの?推理もの?ファンタジー?恋愛?」
「………ファンタジー。なら飽きないで読めるかも。」
「なら、これがおすすめだよ。」
彼女に本を手渡すとヘニャリと笑った。
「ありがとう。」
彼女はそれだけ言うと本を借りて図書室を出ていった。
三日後彼女はまた現れて、僕にお礼を言った。
「これ!スッゴく面白かった!ありがとう。」
彼女が嬉しそうに笑うから僕はまた本を彼女に手渡した。
「………これも、おすすめだよ。」
「ありがとう!楽しみ!」
彼女はその本を借りて帰って行った。
いつの頃か彼女が来るのが楽しみになった。
彼女は本を借りて本の感想とお礼を言って次を借りる。
そんなことが暫く続いた。
「五島さんは走るの速いよね。」
「へ?そうかな?」
「うん!図書室から五島さんが走ってるのが見えるって知ってた?」
彼女は照れたように顔を赤らめた。
「見られてたとは恥ずかしい。」
仲良くなればなるほど彼女は可愛い顔を見せてくれるようになり、中性的ではなく女の子にしか見えなくなってきた。
ぼーっと彼女を見ていると彼女に話しかけられていたようで、彼女が少し大きな声を出した。
「八尾くーん八尾慶吾くーん帰ってこーい。」
彼女が俺の名前を呼んだのが凄く嬉しかった。
「聞いてるよ。忍さん。」
彼女は俺の言葉に目を大きく見開いて、みるみるうちに真っ赤になった。
「………な、何で名前?」
「五島さんが僕の名前を呼んだからだけど。」
彼女は頭を抱えてうずくまった。
「ご、ごめんなさい。あの、男の人に名前を呼ばれるなんてなくて………恥ずかしい。」
照れて真っ赤になった五島さんは目茶苦茶可愛い女の子だった。
「忍さん。」
彼女が驚いた顔で僕の方を見た。
「これから忍さんって呼んでも言いかな?」
「だ、駄目!」
「どうして?僕のことも慶吾って呼んでほしいな。」
「む、無理だよ。」
彼女は眉毛をハの字にして言った。
「い、意識しちゃう。」
彼女の困った顔に胸が弾んだ気がした。
「言ってほしいな。」
もう一度言うと五島さんは可愛く頑張って僕の名前を呼んだ。
「け、け、慶吾君」
僕は彼女の手を掴むと引き寄せて抱き締めた。
そして彼女の耳元で囁いた。
「そんに一所懸命名前を呼ばれると、僕の事を好きなのかと勘違いしそうなんだけど。」
僕はドキドキしながら彼女の様子をうかがった。
「…き、………慶吾君が前から好き………なの。」
彼女の真っ赤になった耳にゆっくりとキスすると、彼女は驚いて僕の方を見た。
僕はそのまま彼女の唇を奪った。
「………忍さん、僕の彼女になってください。」
唇をはなして言うと、彼女はコクコクと頷いた。
僕は彼女を力いっぱい抱き締めて思った。
運命ってあるんだなって。
楓ちゃんを好きになったのはチートのせいだから、攻略対象者達は運命の相手を直ぐに見付けられるんじゃないかな?




