苦悩
予想通りです。
すみません。
ど、どうしたら良いの~!
柊君にこ、告白された!
いや、違う、ちゃんとされた訳じゃない。
起きてるときに言えよ。くそ。ヘタレ。って言ってた。
ごめんなさい。起きちゃってごめんなさい。
頭を撫でてくれる手が気持ちよくて目が覚めちゃったんだよ。
あんなハッキリ言われたらとぼける事は許されないよね。
柊君は告白のセリフを言ってから私の方を見なかった。
見られてたら終わった。
たぬき寝入りってバレバレだ。
「顔が熱い。」
当分帰って来ないでもらいたい。
柊君は私のお兄ちゃんみたいな人だと思ってきた。
柊君が私に優しかったのは私が好きだから?
いつも言う『俺の嫁』は本気だってこと?
私が欲しい言葉をくれるのも乙女ゲームやってくれるのも珈琲淹れてくれるのも側に居てくれるのも全部私が好きだから?
それなのに私はかなり酷い態度を取ってきた気がする。
どうしよう。
どんな顔してこれから柊君と接したら良いの?
聞いちゃったなんて気付かれないようにしないとだし。
むしろさっき起き上がっちゃえば良かった。
何やってんの私。
「柊君が私を………好き?」
私は倒れる前のセリフを思い出した。
『好きだ。』
『この流れで?』
『ああ、好きだ。』
『………ありがとうございます。』
ダメダメ!あの流れなら解れよ私!
柊君ってば私にたくさん好きをくれてる。
私が気付けないばかりに好きを安売りさせてしまった。
私なんかを柊君は好きだって言ってくれてる。
私が勘違いしてお父さんにまで愛されてないと思い込んでいたのも解決してくれた柊君が私を好きになってくれてる。
「なんで気付かないかな?ばかか?」
だってお母さん、あの人は私の事なんて忘れてしまえるぐらい私の事なんてどうでも良かった。
毎日笑顔をくれてお母さんとして自慢で大好きだったお母さんがあんな風に面倒事を押し付けるなって言うぐらい面倒だと思ってるなんて微塵も思わなかった。
毎日笑顔をくれた人でさえ私を嫌いだったんだから誰かが好きになってくれるなんて想像もしなかった。
私がお父さんに執着するようになったのは施設に連れて行かないでくれたから、笑顔をくれて優しくしてくれて抱き締めてくれた
『家をたのむよ!』
あれは魔法の言葉だ。
私が家に居て良いって言葉だからだ。
私の居場所。
私の家。
だから、マリーさんと要君が部屋をくれた時、実は夜中に泣いた。
私の居場所が増えて嬉しかったんだ。
私が泣いてるのに気がついて柊君が一晩中私を抱き締めて頭を撫でてくれた。
あれも嬉しかった。
柊君は私が抱き付くと優しく頭を撫でてくれるから、私は容赦なく抱き付くようになった気がする。
たまに驚いた顔をするけど結局頭を撫でてくれるから、抱きついても良いんだって思えちゃったんだ。
しかもお父さんが私を本当に愛してくれてるって解ってからは柊君に抱き付く回数が増えた気がする。
柊君のお陰だし、私を好きになってくれる人が少しは居るのかも知れないと思ったらなんだか人と接するのが怖くなくなってスキンシップを許してくれる人の側が居心地の良い場所になった。
だから、柊君の側が居心地の良い場所になった。
そんな柊君が私を好き。
妹的な意味ではなく私のことが好き。
嬉しい。
嬉しいけど、どうしたら良いの?
誰かを恋愛対象に見たことなんて無いよ。
どんな風に考えたら良いの?
私は頭を抱えた。
その時、足音が近づいてくるのが解った。
私は急いで寝たふりをした。
コンコン
ノックの音。
そして入ってきたのは勿論柊君だ。
「楓、起きろ!お粥食って薬飲め。」
揺り起こされ、取り合えず今起きたふりをして目を開けた。
「まだ顔が赤いな、お粥食って薬飲んでもっかい寝ろ。その前に着替えないとか?」
いつも通りの柊君に若干拍子抜けしてしまう。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
柊君の笑顔が優しい。
ごめんなさいごめんなさい。
ちゃんと考えるからもう少し、もう少しだけ待って。
今まで考えて来なかったことなの、まだ解らない。
「レトルトで悪いけどおれが作ったらお前にとどめ刺しちまうからな。我慢しろ。食えるか?食わせるか?」
「大丈夫。自分で食べれます。駄目人間になる。」
「だから、駄目人間になったら嫁にもらってやる。」
これに『はいはい』って答えても良いのかな?
「………駄目人間になりません。」
「機嫌悪いな。そんなしんどいのか?大丈夫か?キミちゃんに来てもらうか?俺は役立たずだからな。」
「そんなことない。」
私の言葉に柊君が驚いて笑った。
「ありがとな。側に居てやるから何でも言えよ。」
「そんなに優しくされても、返せないよ。」
「何言ってんだ?いつも俺の世話してくれてるだろ?」
「柊君だって、私を甘やかしてる。これ以上返せないよ。」
柊君は呆れたように笑った。
「好きでやってんだから気にすんなよ。それに俺が熱だしたらお前だって看病してくれるだろ?しかも、お粥はお前の作った美味しいお粥を食える俺の方が特だろ!そん時は宜しくな。」
「ひぃ様………馬鹿は風邪引かないんだよ。」
「お前いい度胸だな。熱々のお粥を口に流し込まれたいようだな。」
「ご勘弁を~!」
柊君が何時ものように笑うから私もつられて笑った。
ちゃんと考えよう私はそう心に決めてお粥を食べはじめたのだった。
楓ちゃんが柊君を完璧に意識し始めましたよ!




