"噂"一条柊目線
風邪を引きました。
咳をするたび、喉が削れるようです。
生徒会室に近付いて来る足音を聞きながら俺はゆっくり顔をあげた。
それと同時に勢いよくドアが開かれた。
「ノックぐらいしろ。」
俺がそう注意するとドアを開けた男、木本友基は悪びれる風もなく言った。
「俺がドアをノックしないのとお前が可愛い女の子とデートしてたの!どっちが重要だよ。」
「ノックに決まってんだろ。」
「んな訳あるかい~!」
面倒臭い事この上ない。
「………デートじゃねーし。」
傷をえぐるの止めてほしい。
俺の呟きに返してきたのは一年書記だった。
「デートでしたよ。ラブラブオーラ半端なかったです。」
「話の出所はお前か?」
一年書記は口を押さえた。
「んなことより、そのラブラブな彼女の写メとかないの?」
「ない。彼女じゃねーし。」
あるけど。彼女じゃねーし。
悲しくなるから、ほっといてくれ。
「………それはきっと、西田さんだわ。柊会長の妹みたいな子よ。」
突然十河妹が口を開いた。
妹なんて思ってねえよ。
十河兄は、どんな説明を妹にしたんだ?
「妹?一条先輩のあんな優しい笑顔見たことないですけど?」
俺は椅子から立ち上がり一年書記の首をしめた。
「うわ、マジで!マジ見たい!」
マジマジうるさい。
「………一条…先輩、死ぬ。」
慌てて手をはなすと一年書記はせきこんでいた。
「悪い。加減すんの忘れた。」
「柊!妹扱いで軽い気持ちでデートなんかしたら、その子柊に惚れちゃうだろ?気持ちがないならそう言う事をしちゃ駄目だぜ!」
友基の言葉に俺はため息をついた。
「惚れねーよ。」
「いや、絶対惚れる!」
「惚れない。」
「絶対絶対惚れる!」
そうだと良いんだけどな………
そう上手くは行かないんだよ。
俺は思わず苦笑いを浮かべた。
「兎に角、お前が可愛い女の子とデートしてたって目茶苦茶噂になってるわけよ!しかも、大学生ぐらいの男と取り合ってたとかまで。」
「大学生ぐらいの男?浩ちゃんの事か?………惜しい。」
大学生ぐらいの男じゃなくて大学教授だぞ。
「取り合ったのか?」
「取り合うも何も、一緒に飯食いに行っただけだしな~。」
「その大学生とか?」
「ああ、3人で!俺は邪魔したくなかったんだけど、あの二人は俺を家族だと思ってるらしくて断れる空気じゃなかったんだ。」
「………彼女のお兄さんか?」
「違う。」
友基はかなりガッカリした顔をした。
「なんだよ!面白くねーな!」
「面白がるなよ。」
一年書記はまだなっとくしていないようだった。
俺は嘘はついてない。
「一条先輩!その大学生ぐらいの男の人と彼女さんは、どう言う関係ですか?」
「お前、それ聞く?別によくないか?友基は納得しそうなんだぞ!」
「やっぱり、なんか怪しいと思ったんですよ!あんなにラブラブデートな感じだったのに、彼女じゃないなんて信じられません。」
俺は取り合えず一年書記に笑顔をむけた。
「付き合ってねーし、デートじゃねーし。」
一年も引く気は無いようだ。
「私は職員室に書類を出して帰りますが、よろしいですか?」
「お疲れ。」
不機嫌そうな十河が帰ると言うので、一応声をかけると笑顔を作って一礼して生徒会室を出ていった。
笑顔に少し寒気がした。
「十河ちゃんなんか最近怖くね?」
「そうですね~。」
俺は話がそれてホッとした。
「で?彼女ちゃんと大学生の関係は?」
「話戻すなよ。」
俺はため息をついた。
「………親子。」
「は?」
「大学生じゃなくて、大学教授だ。若作りだから大学生に間違われる。」
「彼女の親公認の仲な訳ですね!」
興奮したような一年書記を睨む。
「彼女じゃねーって何べん言わす!公認の兄貴代わりだが何か?」
「兄って雰囲気じゃなかったです。」
俺は机に突っ伏した。
「だー!それでも付き合ってないんだ!」
俺の精神がすり減っていく。
「彼女の方は柊と付き合いたいんじゃねえの?そんなラブラブに見えるぐらい仲良かったら勘違いしてると思うけど?」
ムカつく。
なにも知らないくせに。
「それは無い。」
「いや、絶対惚れてる。」
俺は友基を怨めしく思った。
「惚れてるのは俺の方なんだが。」
生徒会室に沈黙が流れた。
「え?」
「付き合いたいのは俺の方!意識してもらえないのも俺の方!デートだと思ってたのも俺の方だよ!くそ!もう傷をえぐるな。」
泣きたい。
泣かないけど。
「柊が好きな女。見てみたい。」
俺は椅子に深く座り直して携帯を取り出した。
取り合えずこの前数井にもらった楓の笑顔写真を見せる。
「カっワイ~なんだよ目茶苦茶可愛いじゃん。」
可愛いに決まってんだろ。
「可愛かったですよ。一条先輩が羨ましかったですもん。」
一年書記は口を尖らせて言った。
「ひぃ様とか呼ばれて手繋いでて。」
「なにそれ!」
「だからラブラブだったって言ったじゃないですか!」
こいつら二人ともぶん殴って良いのだろうか?
「兄貴カテゴリーだけどな。」
「本当にですか?」
「違ってほしいよ!」
悲しい。
「この子の制服向こうの学校じゃん!七宮会長に協力してもらえば?」
「友基!ぶん殴って良いのだろうか?」
俺は真顔できいた。
「何でだよ!おなじ学校通ってる知り合いが居るなら使うしかねえだろ!」
「普通の知り合いならな、あの犬野郎は駄目だ!中学の時から楓の回りをチョロチョロしてやがった。楓と同じ学校通ってるとか気が気じゃねえ!」
ただでさえ最近本気だして狙ってるっぽいのに。
「つうか、お前らはなにもするな!わかったか?」
その時だった。
楓の着信音が鳴る。
俺は急いで電話にでた。
「もしもし。」
『ひぃ様今日暇?』
「ああ。」
『新しい乙女ゲーム買って帰るから、ひぃ様の家のおっきいテレビでやっていい?』
「ああ、良いぞ!泊まってくか?その方が時間気にしないで良いだろ?」
『うん。じゃ夕飯にオムライス作るね。』
「うち卵ねえぞ。」
『駅で待ち合わせして、スーパーで囮になってください!』
「い~や~だ~!」
『卵のタイムセールは5時だよ。』
「話を聞け!」
『ひぃ様は優しいから囮になってくれるでしょ!』
小悪魔め。
『駄目?』
「わかった。その代わりプリンも作れ。」
『了解です。じゃ駅ついたら電話して!ゲーム買いに行ってきます。』
楓はそのまま電話を切った。
「仕方ない。囮になるか。」
この電話のせいで二人に新たな説明をするはめになるのがわかって俺の顔はひきつったのだった。
柊君可哀想だからほっといてあげてー!




