"トラウマ"西田楓から、数井マリナ目線
楓ちゃんから数井さん目線です。
朝はさすがに無理だったがお昼ご飯を作りに合宿所に行くと、そこには十河麗香さんが居た。
料理を作っている訳ではなく、腕を組んで仁王立ちしていた。
「柊会長はどこ?」
柊君が目当てらしい。
「何で貴女はこんなところに居るの?」
「………陸上部員のクラスメイトに頼まれてご飯を作りに。」
「そんなことを聞いているんじゃないの!」
じゃあ何が聞きたいんだ?
大丈夫かな?この人。
私が疑問符を浮かべると睨まれた。
「貴女は柊会長の何なの?」
私は柊君の………?なんだろ?
幼なじみって言っても初めて会ってから3年ぐらいしかたっていない私達は幼なじみってカテゴリーに当てはめて良いのだろうか?
友人?親友?家族?恋び…それは違う。
「何だろ?」
解らなくなった。
「取り合えず、お昼ご飯を作っちゃダメですか?」
「ダメよ!話は終ってないわ!兄様のお昼ご飯は私が手配したから気にしないで良いの!」
貴女のお兄様だけのためにお昼ご飯を作りに来たんではないですよ~!
「他の陸上部員の分も在るんですよね。」
「………」
「どいて下さい。」
私が呆れて言うと彼女はヒステリックに叫んだ。
「煩いわね!」
私は一歩後ろに後ずさった。
ヒステリックな女は苦手だ。
母を思い出す。
「私の柊会長に近寄らないで!」
私はさらに後ずさった。
母もあんな風にお父さんに叫んでいた。
「ニッシー?顔色悪いよ!大丈夫?」
突然背後からワンコ先輩の声がして現実に引き戻された。
「な、七…先輩?」
「手伝いに来たんだけど……今日は止めよう。十河副会長良いですよね。後は任せます。」
ワンコ先輩は淡々とそう言って私を連れ出してくれた。
帰ってきた楓ちゃんは顔が真っ青で私達は直ぐに寝るようにすすめて楓ちゃんを部屋に押し込んだ。
「何があったんですか?」
七宮会長に聞くと首をかしげた。
「十河副会長と一条の事でなんだか話してた。最初はニッシーらしい対応をしてたんだけど、突然顔色が悪くなって…うん、彼女が叫びだしたら真っ青になっちゃって…」
「楓に何言ったんだ十河妹は!」
叫ぶ?
「ヒステリーって感じですか?」
「そう!そう言う感じ!」
私は楓ちゃんが話してくれた話を思い出した。
「楓ちゃん………あれ、思い出しちゃったんだ。」
「あれって?何だよ?」
一条柊の眉間に皺が寄った。
「一条会長は知ってるんじゃないですか?楓ちゃん………両親が別れ話してるの聞いちゃって自分は両親から愛されてないって思った話。その時母親がヒステリックに叫んでたって言ってたから………」
「知らない。」
一条柊が絶句している。
「聞いてない………楓がそう言ったのか?」
「うん、夕飯作るの手伝った時に。だから、私は楓ちゃんの事絶対に嫌いにならないって決めの!」
私の言葉に一条柊は私の頭を乱暴に撫でた。
「数井、ありがとう。」
私は満面の笑顔を作った。
「一条会長のためじゃありません!楓ちゃんのためですから!」
一条柊はニッコリと笑顔を作った。
「ちょっと浩ちゃんに電話してくる。」
一条柊はそのまま携帯を出してバルコニーの方へ出ていった。
「一条はニッシーの事が本当に大事なんだね。」
七宮会長は苦笑いで言った。
「七宮会長は楓ちゃんの事好きなんですね!」
「えっ!いや、その…」
それだけでバレバレだ。
「諦めちゃうんですか?それなら、私は一条会長を応援します。」
「!」
「諦めないなら、私は一条会長の応援はしません。」
「何で?」
心配そうに眉毛をハの字にしている七宮会長は可愛らしかった。
「そんなヘタレに楓ちゃんは勿体無いからです!一条会長が楓ちゃんを大事にしてるなら、七宮会長はもっと楓ちゃんを大事にしないと!それが出来ないなら、一条会長に頑張って幸せにしてもらった方が良いでしょ!七宮会長は楓ちゃんを幸せにしたくないんですか?特別な笑顔向けられたくないんですか?楓ちゃんの特別になりたくないんですか?」
畳み掛けるように私が言うと七宮会長は力強く頷いた。
「うん!俺も頑張ってみせる!数井さんありがとう。ちょっとニッシーの様子見てくるね。」
七宮会長がその場を立ち去ると、頭を誰かにポンポンされた。
振りかえるとそこには弟がいて笑顔をくれた。
「あれは良い男だぞ、良いのか?」
「良いの楓ちゃんがフッたら狙うから!」
弟は嬉しそうに私の頭をなでなでした。
「良い女になったな!」
「生意気!」
弟とのこんなやり取りに私は思わずニコニコしてしまった。
ヒロインちゃんが京矢君の理想に少し近付きました。




