"海"数井京矢目線
久し振り京君!
二階に部屋がある姉達が下りてくるのを攻略対象者達は今か遅しと、待っている。
姉がロビーに下りてきたのを見て、一条柊以外の攻略対象者の好感度が上がった。
「待たせちゃってご免なさい。楓ちゃんは髪の毛直したらすぐにくるって!」
姉は可愛いから一条柊以外はそれなりに好感度が上がったのだろう………胸はもう少し欲しいが仕方ない。
「西田はスクール水着じゃないだろうな?」
「西田さんは競泳水着とか着てきても可笑しくなさそうですよね!」
二階堂と八尾の言葉に姉が怒ったように言った。
「楓ちゃんはビキニだよ!オレンジの。」
俺と三神先生が首をかしげた。
「青い水着着るって言ってなかったか?」
三神先生は不思議そうにきいた。
「ああ、あれはエロかった………」
姉の言葉に一条柊が姉を睨む。
「えっと、エロいって?」
七宮がそうきくと、姉は可愛い笑顔で言った。
「こう、下の胸がはみ出て……可愛いしエロかったんですよ!それがいいって言ったのに肉食系怖いって着替えてオレンジビキニになりました。」
姉が興奮したように力説していると、西田さんが下りてきた。
「数井さん、余計なこと言わない。」
西田さんはビキニが見えない少し大きめな白いパーカーを着て、猫耳のついたフードをかぶって下りてきた。
肩にはビニールバックがかかっている。
「そのパーカー可愛い!どこでかったの?」
姉が西田さんの腕にしがみついた。
「これ?これはひぃ様にもらったの。」
一条柊は西田さんを柔らかい表情で見ていた。
「西田、水着見せろ。」
二階堂が躊躇わずに言うと姉と西田さんはハモって言った。
「「エッチ!」」
なんだ、物凄く可愛い生き物が目の前にいる。
「楓、何着たんだ?おふくろに写メしたか?」
一条柊は西田さんに近付いて言った。
西田さんは少し考えてパーカーのチャックを開けた。
「これは送ってないや。ひぃ様撮って。」
一条柊は当然のように自分のケータイを取り出すと写メを撮った。
西田さんも写メを撮り終るとパーカーのチャックを閉めた。
「似合ってんじゃん!」
一条柊は携帯をいじりながら言った。
「ありがとう!」
西田さんの可愛い笑顔に他の男達は複雑そうだ。
小悪魔
って言葉が浮かんだ。
「浩ちゃんにも送っといたからな!」
西田さんは本当に可愛い笑顔を一条柊にむけた。
ああ可愛い!西田さんのあんな笑顔向けられるんだから、一条柊は彼女の特別になっていても可笑しくないだろう。
俺がそう思ったその時、三神先生が笑って言った。
「西田は教授の話が出ると可愛い顔するな!」
教授?そんな設定あったような………
三神先生ルートを選ぶと少しだけ出てくる大学教授。
「…西田浩樹…」
思わず呟いてしまった。
西田さんと目が合う。
「お父さんの事を知ってるの?」
「えっ!あ、考古学に少し興味があって………」
適当な俺の言葉に西田さんはとろけるような柔らかな笑顔を俺に向けてきた。
ヤバい!可愛い!!!!
彼女は俺のところに駆け寄ると俺の手を握って跳び跳ねた。
「あったことないのにお父さんの事を知ってる人初めて!京矢君!ありがとう!」
なんだかわからないが目茶苦茶喜んでいる彼女は可愛いが、攻略対象者達の視線が痛すぎる。
「浩ちゃんって人、お父さんだったんだー。」
姉の言葉に西田さんは眉を下げた。
「なんだか勘違いさせちゃってゴメンね。」
「大丈夫だよ、楓ちゃんと仲良くなれて嬉しいの!一緒にラブラブ彼氏作ろうね!」
「………彼氏……二次元じゃ駄目?」
「二次元?」
西田さんの言葉に一条柊が西田さんの頭をポンポン叩くと言った。
「こいつ乙女ゲーム依存症だから。」
な、なんと!
乙女ゲーム依存症!なんて製作者を喜ばす言葉なんだ。
「乙女ゲーム好きなの?私も!ちなみに京君もだよ!」
なんてこと言うんだ!思春期の健全男子が乙女ゲーム好きとかないだろ!
西田さんは俺の腕に自分の腕をからめる。
胸があたってます。
「どんなのやってるの?私は今ね~………」
西田さんは俺の腕にしがみついたまま、上目使いで俺の顔を除きこんでくる。
可愛い!可愛い!可愛い!
緊張する。
ああ~一条柊が怖い。
回りの男達の殺気にやられて倒れそうだ。
「ひぃ様も私に付き合ってやってくれるけど、好きではないと思う。」
西田さんは殺気に気が付く素振りもない。
姉に助けを求めたかったが、姉は俺に西田さんを落とせと言っていたから助ける気がないと思う。
ヤバい!
西田さんは俺からようやくはなれると、俺の手をつかんで笑った。
「京矢君、仲間嬉しい。一緒に海で遊ぼ!」
逆らえるわけがない!こんな可愛い生き物を邪険にできるやつがいるならそれは悪魔だ。
俺は彼女に手を捕まれたまま海まで連れていかれるしかなかった。
海で遊び疲れて陣取ったパラソルの下に逃げ込むと、俺はフリーズしそうになった。
そこには一条柊の姿があった。
「弟も休憩か?」
「はい。」
気まずい。
「楓がはしゃぎすぎて悪かったな。」
「いえ、大丈夫です。」
「楓があんなにすぐになつく人間は初めてだ。」
なんだかすみません。
よくわからんが許してください。
「弟も楓が好きか?」
直球きたーーーーー!
「好きとかよくわかないですが、姉のように思ってます。」
緊張する緊張する緊張する緊張する。
「だからかな?楓は弟の事を弟みたいに気に入ってるのかもな。」
一条柊は俺に笑顔を向けた。
「そんなにおびえんなよ。とって食ったりしねえぞ。」
なんなんだよ格好いいな~さすが俺が考えたハイパースペック男子だ。
「一条さんは格好良すぎです。あの、俺は西田さんを幸せに出来るのは一条さんだけだと思ってます。…………すみません。」
適当な事を言ってしまった。
俺が項垂れたくなった。
「当たり前だろ!そんなこと解ってんだよ!楓は俺が甘やかす!他のやつらには譲らねえ。」
一条柊は西田さんを見詰めて微笑んだ。
「弟…京矢はいいやつだな。」
俺は思わず胸キュンしてしまった。
一条柊格好いい。
俺は憧れてもこんな格好よくなれないだろう。
「俺、なんか買ってきます!何か欲しいものありますか?」
「あー、かき氷…イチゴで。」
「了解です!」
俺は少しうかれて海の家に向かったのだった。
うかれすぎた………
買いすぎた。
両腕に下げたビニール袋に両手に持ったかき氷。
焼きそばとかイカ焼きとかトウモロコシとか食べたくなっちゃったんだ。
「あっれ~?数井じゃね!」
嫌な声がした。
同じクラスのモテ男。
モテない男に自慢話をするのが趣味の悪趣味な男だ。
嫌な奴にあってしまった。
「うっわ!何パシらされてんの?やっべウケる!」
手の中でかき氷が溶けていくのがわかる。
折角一条柊と仲良くなれるチャンスなのに。
モテ男は連れている女をチラチラ見ながら自慢話をしている。
かき氷………スゲー溶けてきた。
「京君!手伝いに来たよ。」
姉が向かえに来てくれた。
それじゃあな!って言えたら良かったのかもしれない。
「可愛い!って数井の姉ちゃんじゃん!」
モテ男はケラケラ笑いながら言った。
「折角の海なのに家族旅行かよ、ダッセー」
最悪だ。
俺が面倒臭いと思ったその時、左側の腕に柔らかな感触を感じて左腕を見ると西田さんが俺の腕に胸を押し付けるようにしがみついていた。
「にっ…西田さん」
「京矢君が居なくて寂しかったんだよ。一人で居なくなっちゃ駄目!」
西田さんの上目ずかいにクラクラする。
「西田さん!む、胸が当たってます!」
俺は思わず叫んだ。
俺は耳まで真っ赤だと思う。
「嫌?」
「いっ!嫌じゃ!」
可愛い!
「京矢君の知り合い?」
「いや、ただのクラスメートです。」
「そう、君、私と京矢君の大事な時間を邪魔しないでね!じゃあね!」
西田さんは俺の腕を引いてくれ、すかさず姉が右腕にしがみついてきて俺は両手に花常態でその場を後にした。
「あの、ありがとうございました。」
俺はモテ男が見えなくなるとお礼を言った。
西田さんは俺からはなれると笑顔を作った。
「役に立った?チカンから助けてもらったからお返ししたかっんだよ!」
西田さんは俺の手からかき氷をとると食べ始めた。
「あっ、それ…」
「ひぃ様のでしょう!知ってる!一人で買いに行かせるなんて酷いよね!」
「いや、俺が買ってきますっていったからで一条さんは悪くなくて…」
「京矢君は良い子だね!」
西田さんは俺の頭を撫でてくれた。
なんだか懐かしい気持ちになった。
パラソルの下に戻って来ると一条柊は深くため息をついた。
「………西田さんにとられました。」
「向かえに行くって言った時からわかってたよ。」
そして軽く笑うと言った。
「悪かったな。荷物持ちぐらいしたんだぞ。」
一条柊は俺の両手にあるビニール袋にため息をついたらしい。
「一条さん優しいっすね!」
俺の言葉に一条柊は驚いた顔をした。
「……なんだろうな……お前、楓に少し似てる。」
「は?」
「だからかな?気にすんな。」
一条柊の言葉に首をかしげたが彼は俺の頭を撫でるだけだった。
なんだかそんなことされて喜ぶのは違う気がするが、素直に嬉しかった。
俺が理想として求めた兄貴像そのものなだけあって彼は格好いい。
俺はなんだか暖かい気持ちで嬉しくなった。