"犬と水着と下心"一条柊目線
短めです。
夏休みになって2週間が過ぎた。
じゃん拳に負けて炎天下の中アイスを買いに行かされた返り、家に入ろうとして気がついた。
「おい、お前は忠犬気取りのストーカーか?」
楓の家の前に七宮が立っているのを見つけた。
「えっ?違っ……一条?………ああ、ご近所さんなんだったけ!ニッシーは留守みたいだね。残念。」
七宮は苦笑いを浮かべた。
「楓にようか?」
「うん、実は二階堂の家の別荘に遊びに行かないか誘いに。勿論カナさん達も誘う予定なんだ。一条もどう?」
七宮は爽やかな笑顔を俺に向けた。
「………よってくか?」
「えっ?」
「楓もいるぞ。」
「行く。」
俺が家のドアを開けると七宮は呟いた。
「隣の家……」
「入らないのか?」
「入るよ!」
七宮は急いでうちに上がった。
「小林君の嘘つき、好きだって言ったくせに~」
楓の声に七宮がフリーズしてしまった。
「小林に告ってフラれたな。」
俺の言葉に七宮が目を見開いた。
俺は笑いを堪えた。
そのまま七宮をリビングに連れていくと、楓はいつも通りにテレビの前を陣どりゲームをしていた。
「アイス買ってきたぞ!」
「ありがとう!きいてよ!ひぃ様酷いんだよ小林君が他に好きな女が居るとか言うんだよ!」
楓はお気に入りの黒猫の耳が突いたパーカーに揃いのホットパンツ、ふわもこのニーハイソックス姿だ。
「七宮がお前に用だってよ!」
楓は俺の言葉に振りかえった。
「ニッシー……可愛い……」
七宮が小さく呟いたのが聞こえた。
「七先輩どうしたんですか?」
「あっいや………二階堂の家の別荘に遊びに行かないかい?海が近くにあって楽しそうだから誘いに来たんだ!カナさん達も誘って皆でどうかな?」
楓は少し考えてテレビの画面に視線をうつした。
「楓…お前今面倒くさい、クーラーきいた部屋でゲームしてすごそうと思ってたんだよなーって思ったろ。」
俺の言葉に楓はハッとした。
「こ、心を読まれた。」
「わかりやすすぎ………海行くって言ったらおふくろが水着用意してくれんじゃないか?」
俺は楓の水着姿が見たい。
楓は少し考えて言った。
「海は魅力的かな………ひぃ様はこないんでしょ?お父さん許してくれなさそう。」
「まあ、俺が行くなら浩ちゃんは許してくれるだろ。楓が行くなら俺も行く。」
俺は七宮に視線をうつした。
「…一条も一緒に行こうよ。ゲームも持っていったら?」
七宮の言葉に楓は瞳を輝かせた。
「良いんですか?」
俺もききたい!乙女ゲーム持参で海行くってどうなんだ?
むしろ三次元をちゃんと見ろと言いたい。
「七宮、楓が持っていくつもりなのはそれだぞ。」
俺の言葉に七宮はテレビに近付いた。
「駄目ですか?」
楓は甘えたように言った。
「三次元とちゃんと遊べ。」
「だって!小林君が小林君が~」
楓は今攻略中のキャラクターの名前を叫んだ。
「フラれたばっかだろ。」
「小林がツンデレすぎて選択難しいんだもん。好きって言ったくせに~…………この声優さん大好きなんだもん諦めない。甘い言葉囁いてもらうまで諦めない!」
楓は可愛く口を尖らせた。
「初めて見るけど、どんなゲームなの?」
その言葉に楓は目を見開いた。
「七先輩乙女ゲーム……ギャルゲーしたこと無いんですか?」
「恋愛シュミレーションゲームって言え。」
七宮はこんな楓を見ても引きはしないようだった。
「恋愛シュミレーション?」
「そうです。恋愛を疑似体験するゲームです。」
七宮は首をかしげた。
ああ、七宮は今から楓に捕まって帰れないだろう。
「七先輩、横に座って下さい。」
俺はため息をつくと言った。
「楓…ほどほどにしてやれよ。七宮は初心者なんだからな。」
だが、七宮が家に帰れたのは次の日の昼だった。
3日後に迎えに来ると言って少しやつれた七宮は帰っていった。
おふくろに海に行くと言ったらボストンバッグパンパンに水着をつめて送ってきた。
今おふくろはスペインに行っている。
『着た水着の写メおくってね!』
っと手紙が添えられていた。
七宮の話では五泊六日の旅行だそうだ。
「えっ?そうなんだ~法事じゃ無理だね。忍は陸上部の合宿で無理なんだって!美鈴様が二階堂君の別荘なんて行くわけ無いもんね。………取り合えず数井さん行くか聞いてみてから決めるね!うん、大丈夫だよ!…」
楓は六木に電話している。
なんだか海に行けないかも知れない。
女子メンバーが一人も参加しないならたぶん行かないだろう。
「もしもし、数井さん?海の話きいた?…行く?」
楓は数井に電話し始めた。
「本当、良かった。じゃあ楽しみにしてる!うん、じゃぁね!」
どうやら数井も行くことになったらしい。
楓は俺に笑顔をむけた。
「海楽しみ………ひぃ様、一緒に行ってくれてありがとう。」
「俺も行きたかっただけだよ。」
楓の水着姿が見たいだけ。
楓は俺の下心なんて知らないでニコニコと笑った。