月明かりでダンスを…
ダンスパーティーです。
ダンスパーティの前日。
私は柊君の家に居た。
「数井さんにドレス渡しておきました!」
私はマリーさんに笑顔で報告した。
マリーさんから預かったドレスだ。
私と親友3人は明日私の家でマリーさんにドレスを着せてもらう事になっている。
着物じゃないから大丈夫とかではない!
メイクや髪の毛も含めて全てをやってくれる手はずになっている!
数井さんはお母さんが美容師をしているらしくドレスだけで良いらしい!
奏ちゃん達が数井さんをあまりよく思ってないみたいだから少し助かった。
ライバルキャラとヒロインの因果と言うものだろう。
「明日が楽しみね!楓ちゃんのドレス楽しみにしててね!」
「はい!マリーさんのドレス楽しみ~。あっ、ひぃ様は?」
私は柊君に向かってきいた?
「俺は燕尾服だな。黒の。」
「男のドレスコードほど、どうでもいいものは無いわ~。」
マリーさんは興味がないみたいだ。
「スーツと眼鏡は男前に磨きがかかると私は思ってるけど!」
「よし、眼鏡かけるか?」
私はクスクス笑った。
「ひぃ様はすでにモテモテだからそれ以上何かしなくて良いよ!」
「眼鏡かけたら楓がドキドキしてくれるかも知れないだろ?」
「なにそれ?」
私はさらにクスクス笑った。
「眼鏡ぐらいでドキドキしてくれるなら、私が柊に似合う眼鏡を用意しても良いわよ!」
マリーさんはニコニコと私達を見ながら笑った。
「じゃ、折角だからたのむ。」
「プライドなしかい?」
「ものは試し!プライドは別物だろ。」
マリーさんは本当に楽しそうだ。
「私はそろそろ帰りますね!」
「えっ?楓ちゃん泊まってかないの?」
「そうだ!浩ちゃん帰って来ないんだろ?泊まってけよ。」
二人が優しく言うから、帰りたくなくなってしまう。
「じゃあ、甘えちゃおっかな?」
私が笑顔でそう言うと柊君は腕を広げて見せた。
「よし、甘えて良いぞ!」
「楓ちゃん、殴って良いよ!」
私はそのやり取りに笑った。
ダンスパーティー当日。
「可愛い!」
「格好いい!」
「素敵!」
奏ちゃんと忍、美鈴様の3人は自分達のドレスにうっとりしている。
奏ちゃんのドレスはシックな赤いAラインのドレス。
忍は落ち着いた青色のマーメイドラインのドレス。
美鈴様はタンポポのような黄色の胸の下に切り替えのあるエンパイアラインのドレス。
3人とも本気で綺麗だ。
ちなみに私はモスグリーンのAラインのドレスに白のファーのケープを羽織っている。
メイクと髪の毛はマリーさんが友達に頼んで連れてきてくれたプロのスタイリストさんが3人来てくれて私達を作り上げてくれた。
私達が家を出ると柊君が家の前で待っていてくれた。
笑顔でクルリと一回転して見せると、柔らかい笑顔を作ってくれた。
「綺麗だ。」
「…あ、ありがとう。」
柊君は黒の燕尾服に銀縁眼鏡でお出迎えだった。
「どうした?」
「………眼鏡………」
「眼鏡好きなんだろ!」
柊君はイタズラが成功したとばかりに、笑った。
「一条会長ってそんな顔もするんですね。」
奏ちゃんは珍しいものを見た見たように言った。
「よくするけど?」
私が柊君を見ると苦笑いを浮かべていた。
皆とマリーさんのショップのワゴン車を借りて学校につくとすぐに生徒会の仕事の手伝いに駆り出された。
開始時刻は夜7時からだ。
最初にワンコ先輩のスピーチがあって、それが終わると曲が流れはじめて生徒達は思い思いにダンスを始めたり、意中の相手を誘ったりし始めた。
勿論生徒会メンバーは標的にされる。
そのため、ダンスパーティーが始まると生徒会メンバーは仕事が出来なくなるため私達のようにダンスを踊る相手が居ない人が手伝いをするのだ。
私もせっかくだから踊ってみたかったが知り合いの男子が生徒会メンバーって無理だろ!
私は諦めてダンスパーティーの裏方に専念した。
只今、足が偉いことになってます。
普段はかないヒールに靴擦れMAXです。
同じような女子達が医務班のところに群がっているので近寄れません。
私は諦めて保健室に行くことにしました。
臨時の医務班のところ以外では保健室を勝手に使って良い事になっている。
勿論、ベッドは駄目です。
使われないように立ててあるらしいと、クラスの保健委員が言っていた。
いかがわしい事は許しません!
だそうです。
兎に角消毒と絆創膏を求めて保健室。
保健室は開場から結構離れているので人とすれ違うこともなく、保健室につく頃にはむしろ恐くなっていた。
「失礼しま~す。」
カーテンがしまっているせいで真っ暗な保健室のドアを開けると、保健室の中に人の気配があった。
悲鳴をあげてしまいそうになるのを必死でのみ込む。
「…西田か?どうした?」
保健室の中の人は声からすると三神先生のようだ。
「三神先生?」
「おお、どうした?」
「靴擦れ。」
私の声に三神先生はクスクス笑いながらカーテンを開けた。
月明かりが入ってきて突然保健室は明るくなった。
「電気つけないんですか?」
「電気つけたら見つかっちゃうだろ。」
三神先生の言葉でようやく私は理解した。
生徒会メンバーと人気のある先生達は一般生徒からダンスを申し込まれるとよっぽどの事がなければ断れないルールがあるらしい。
さっき車の中で忍にきいた。
三神先生は攻略対象者だけあって人気者だ。
「了解です!」
私は敬礼して見せた。
三神先生は私をイスに座らせると片膝をついてヒールを脱がした。
「自分で脱げます。」
「良いから良いから。痛そうだな。」
「痛いです。」
三神先生は手際よく消毒をしてガーゼにテーピングしてくれた。
「激しい運動は禁止!」
「ですよね~」
私は苦笑いを浮かべた。
「………踊りたかったのか?」
「少し…」
三神先生は腕を組んで立ち上がるとイスに座る私を見下ろした。
「曲も聞こえるし、裸足で俺と踊るか?」
「ヘ?」
「裸足なら痛くないだろ?今日はベッドが立ててあるから保健室は広いしな。俺が相手じゃ不服か?」
三神先生は私を見下ろしたままそう言った。
「不服なんて………むしろ他の女子に自慢出来るレベルですけど………三神先生はダンスしたくなくてここに隠れてるんじゃないんですか?」
「別に群がられるのが嫌なだけだが?」
「うわー自慢話!」
「目をギラつかせた女子高生に群がられるって怖いんだぞ。」
私は少し考えて頭を下げた。
「御愁傷様です。」
「解れば宜しい。」
三神先生は自分がはいていた靴を脱ぐと私に手を差しのべた。
「何で三神先生まで靴を脱ぐんですか?」
私は見上げてきいた。
「俺が足踏んだら痛いけど脱がない方が良いのか?」
「脱いでください。」
「宜しい。」
私はゆっくりと立ち上がると三神先生の手に自分のを重ねた。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
三神先生は柔らかい笑顔を作ってくれた。
三神先生は凄く運動神経が良い。
足を踏まれるなんて事一度もないし、むしろ最高のリードで今までで一番上手く踊れている。
月明かりが二人を包んでいるみたいだ。
「先生………」
「なんだ?」
「どうしよう!」
「何がだ?」
私は三神先生を見上げて笑った。
「楽しい。」
「………可愛い顔しやがって………」
三神先生は眉間に皺を寄せた。
「えっ?」
「俺が教職者じゃなかったらキスぐらいするのに。」
その瞬間私はスカートの裾を踏んで三神先生を押し倒してしまった。
「あっぶねー、頭うったらどうすんだ?」
私は完璧に三神先生の上にのってしまった。
「ごめんなさい。スカート踏みました。」
「気を付けなさい。」
「はい。」
三神先生は私に目を向けて少しフリーズして視線を外した。
「三神先生?」
「悪いが、眺めてしまうから退いてくれ。」
「はい?」
私が首をかしげると三神先生は苦笑いを浮かべた。
「胸の谷間が………」
私は慌てて三神先生から退いた。
「お見苦しいものをお見せして申し訳ありません。」
私はたぶん真っ赤になっているだろう。
「むしろ御馳走様でした。」
三神先生も少し赤くなりながら起き上がった。
なんだか気間づい。
私はそのまま窓の外に視線をうつした。
窓の外、保健室から見える裏庭の池のほとりでヒロインちゃんが誰かと踊っているのが見えた。
イベント中だ~!
私が窓の外を見たため三神先生もつられて窓の外を見たようだった。
「数井と十河玲二だな。」
十河玲二
運動神経抜群で陸上部のエース。
面倒見がよく誰からも慕われるアニキ適存在。
勿論、攻略対象者だ。
三神先生の見える場所で攻略中とは、これいかに。
「十河………運動神経良いはずなのにダンス下手くそだな………」
「音感が無いんでしょうか?」
「……だな!」
私と三神先生は楽しそうに踊る、あまり上手じゃないダンスを見つめた。
ダンスパーティーが終わりました。
三神先生と踊れたお陰でやり遂げた感があります。
生徒会メンバーはグッタリだ。
「ニッシーと踊りたかったよ。」
ワンコ先輩はニコニコと笑いながら言った。
「私は靴擦れMAXなので踊りたくないです。」
もう踊るのはいいや。
ワンコ先輩はあからさまに項垂れた。
「生徒会メンバーは大変だったみたいですね?奏ちゃんは大丈夫?」
「皆、紳士的だったから大丈夫よ。」
「奏ちゃんは美人さんだから心配だったんだよ!」
私が笑いかけると奏ちゃんも笑顔を作ってくれた。
「柊会長、また私と踊って下さいね!」
「…もう良いだろ……もう踊るのは嫌だ。」
「そんな~!」
柊君は副会長の十河さんにべたつかれている。
十河?
ああ、さっきの十河玲二には妹がいるって設定だったっけ。
あいつ妹か!
私は柊君達から目をそらした。
「西田さん足大丈夫?」
八尾君が心配そうに話しかけてきた。
「うん。大丈夫だよ。三神先生に見てもらったから。」
「三神先生?」
「うん。タイミングよくいて、見てもらったの。」
「そっか!」
八尾君は抱き締めたくなるような笑顔を向けてくれる。
「八尾君は優しいな~!」
私は抱き締めたくなるのをグッと堪えて言った。
「六木!楓と並んだ写真撮らせてくれないか?浩ちゃんに送るから。」
すると柊君が奏ちゃんに写真をお願いしてるのが聞こえた。
「十河さんに睨まれてるんですが?」
「あいつは無視してくれ。」
「そんな次元の睨みではなさそうですよね?」
奏ちゃんが苦笑いをしている。
「せっかくだから一緒に来たメンバーで撮ろうと思ってたのに残りの二人はもう帰ったらしいから、六木とツーショットで撮ってやろうかと思ってな。」
私はそのまま柊君の横に立つと言った。
「奏ちゃんと忍と美鈴様と一緒に撮った写真はもう浩ちゃんに送ったよ!」
柊君は私を見下ろした。
「そうなのか?だったらいいか。」
「奏ちゃん!ひぃ様とツーショットの写真撮って!浩ちゃんに送るから!今日のひぃ様格好いいから浩ちゃん喜ぶ!」
私の言葉をきいて奏ちゃんは頷き携帯をかまえてくれた。
私はひぃ様の腰に手を回して抱き付いた。
ひぃ様はなれた手つきで私の肩に手をのせた。
「本当に仲良しね。」
奏ちゃんはそう呟くと写メを撮った。
「私の携帯に送って!すぐに浩ちゃんに送る!」
奏ちゃんは少し呆れたようにため息をつくと私に写メを送ってくれた。
私はすぐに浩ちゃんにそれを送った。
「貴女、柊会長に必要以上にさわらなぃで!愛してるとか言ってくれるラブラブ彼氏が居るんでしょ!」
突然十河さんに怒鳴られて私は首をかしげた。
「彼氏?………愛してる?………浩ちゃんの事?」
私は十河さんを見つめた。
「そうよ!こうちゃんって人が居るんでしょ!」
静かに怒気を放つ彼女から一歩後ずさる。
「あの~浩ちゃんはお父さんなんですよね!私自分でも力説出来るレベルのファザコンなもんで………勿論お父さんを一番愛してますけど………」
彼女の顔がたちまち鬼のようにかわった。
「ひぃ様は私の大事なお兄ちゃんみたいな存在なので、へたな女にくれてやる気はございません!」
私は仕方なく宣戦布告した。
柊君の彼女は私が認める女しか許さない。
十河さんとひとしきり睨み合うと奏ちゃんが突然大爆笑しはじめた。
「今、それを言うか?」
柊君が呟いた言葉に奏ちゃんがさらに笑ってくるしそうに見え、なんだか馬鹿馬鹿しくなって私まで笑ってしまった。
私はその時気がつかなかった。
私達の後ろで安堵の息をもらす人達が居たことを。
三神先生に出番を。
柊君の企みがおじゃんになりました。
ダンスパーティーの後は夏休みです。