" 決意"三神隼目線
三神先生ようやく出番です。
俺が西田浩樹に初めて会ったのは、大学の下見に行った時だった。
大学生にしか見えない容姿と淡々と喋る理知的な雰囲気がなんとも格好いい人だと思った。
インスピレーションで憧れを持ってしまったのは俺だけじゃなくて同じような奴等が男女問わず彼の回りに集まった。
仲良くなれるように仲間達で集まり彼を飲みに誘ったりしたが、彼は最初全く付き合ってくれなかった。
彼に奥さんと溺愛する娘が居るのだと知ったのは、娘が友達の家にお泊まりするので家に居ないと初めて飲みに付き合ってくれた日だった。
「娘が笑うと可愛くて幸せなんだ。」
その場にいた彼に憧れるメンバーは確実に"教授の今の笑顔の方が可愛いです"と心の中で叫んだと言う。
それからは娘が家に居ない時だけ教授は俺達と飲みに行ってくれるようになった。
「妻と別れることになった。」
彼が講義中と同じ淡々とした口調で話した時は皆固まってしまった。
「娘は俺が引き取る。何かあったらお前達に力になってもらえないだろうか?」
彼が俺達に初めて頭を下げたのがこの時だった。
奥さんと言う名のバカ女が居なくなってから彼は娘のために色々頑張っているようだった。
それが評価されたのか彼は考古学者としての仕事が増えた。
「娘が心配だ。一人にしたくない。仕事を辞めるしかない。娘と一緒に居られる仕事を探す。」
久しぶりに彼と飲んだ時そう言われ、俺達は慌て彼を止めた。
「教授には今の仕事以外何が出来るんですか?」
「教授が頑張って稼がないと娘さんが苦労してしまいますよ。」
「女の子はこれからお金がかかるんですよ。お洒落したいのにお金が無いから援助交際とかされたいんですか?」
彼は真っ青になって頑張ると呟いていた。
彼が家を買った。
大学の近くだ。
知り合いが多く住んでいるのだと彼は言った。
「…お前達も含めてな。」
彼の言葉に俺達がどんなに幸せになれたか彼は知らないだろう。
「娘さんが彼氏連れてきたらどうします?」
俺の言葉に彼が泣き出して後でメンバーに殴られた。
「吐く、そして泣く。」
今、泣きながらそう言った彼が娘の事を愛してやまないのだと再確認した出来事だった。
彼の娘西田楓に会ったのは、俺の仕事場だった。
彼の話をすると一筋の涙を流しながら微笑みを浮かべた。
綺麗だ。
俺は不覚にも高校生になったばかりの少女にそんな事を思った。
彼が泣きながら吐くと言っていたのに、彼女の回りには顔の良い男達が彼女に淡い恋心を抱いているように見えた。
七宮春人、八尾慶吾、二階堂昴の3人は彼女の事が好きなのだろう。
食堂で3人に囲まれた彼女を助けようと同じテーブルに座ったら怒鳴られて険悪で気まずい空気を自ら作り出して自分を守った彼女に笑ってしまいそうだった。
彼が心配しなくても彼女は強い。
綺麗で強い彼女に惹かれてしまうのもよくわかる。
俺だって彼女が高校生でなかったら、ガンガンアピールしていたかも知れない。
その日彼女を送ってきたのは彼だった。
懐かしく思う反面昔と何ら変わらない彼に思わず呟いた。
「年取らねえな~」
彼と彼女はまるで恋人どうしのようにしか見えなかった。
彼は俺を見るなりいかがわしいとか言いやがるし、彼女に寄るななんて言いやがる。
昔から娘の事になると饒舌になったが、今日の彼はかなり喋っている気がする。
変わった事と言えば娘に少し甘えられるようになった気がする。
仕事に行きたくないと言った彼は本当に彼女の恋人のようだった。
そのせいで彼女に淡い恋心を抱いている3人が真っ青になっていた。
可哀想に青少年の心をもてあそんで悪い大人だと思う。
アシストするつもりもないから見て見ぬふりをするのも悪い大人なのか?
仕方がないと思う。
俺は彼の事を尊敬してるし彼女が彼のせいで寂しい想いをするならやぶさかではない。
やっぱり俺が悪い大人なんだな。
そんな事を考えていたら保健室のドアをノックする音が響いた。
「三神先生、あの、ききたいことが……あれ昴?」
「俺も三神先生に話がありまして。」
俺に聞きに来るなんて面白くない奴等だ。
「何かな?取り合えず中に入りな。」
俺が保健室に招き入れると七宮が口を開いた。
「さっき、ニッシー…西田楓さんと一緒に居た男の人は誰ですか?先生は知り合いみたいでしたよね!」
余裕ないな~こいつ。
「俺はさ、お前達の味方にはなれないんだよ!さっきの人に殺されちゃうからな。」
「お前ら?」
七宮が首をかしげる。
「七宮、二階堂、八尾の味方にはなれない。って言えば良いか?」
七宮が不思議そうに二階堂を見た。
「気がつかなかったか?3人して西田の事見詰めすぎ。」
二階堂は苦虫を噛み潰したような顔をした。
若いな~青春だな~。
「お前らに言ってやれることは………そうだな~。あの人は世界で一番西田を愛してる男だよ。」
彼女もそれに劣らず父親が大好きで仕方がないのだと今日見て感じた。
普通ならウザくなっても良い年頃だと思うが彼女にとっても彼が世界一愛しい人なんだろう。
二人が愕然とする中、再び保健室のドアをノックする音が響いた。
入ってきたのは八尾だった。
二人とは違って顔を赤くした八尾は入ってくるなりフリーズした。
そんな八尾に二階堂が眉間に皺を寄せて近づいた。
「お前、西田の事が好きなのか?」
八尾は目を見開いて驚き七宮の方を見た。
七宮は複雑そうに眉毛を下げている。
「………そうだよ。僕は西田さんが好きだ。」
二階堂はさらに眉間に皺を寄せると保健室を出ていってしまった。
若いな~青春だな~。
俺はついついニヤニヤしてしまうのを右手で押さえた。
「そうか、慶ちゃんもライバルだな………俺は負けないから。」
七宮も苦笑いを浮かべて保健室を出ていった。
二人の気配がなくなると、八尾は静かに言った。
「僕は卑怯者ですかね?西田さんのお父さんの事をあの二人が知らなければ良いと思ってるなんて。」
余りに静かに言うものだから、俺は苦笑いを浮かべた。
「良いんじゃないか?俺は言うつもりないし、自分で聞ける勇気のないやつには黙ってりゃ良い。」
八尾は俺になんだか寒気のする笑顔を向けると保健室を出ていった。
俺からすればお前にも教えたくなかったよ。
俺はゆっくり笑いを浮かべると俯いた。
お子様達にみすみす持ってかれるのを指をくわえて見てらんないよな。
俺は小さく呟いた。
「本気出すか…」
八尾君がなんか怖いよ~。
何でこうなった?
三神先生ターンなのに八尾君のインパクトがでかいよ~(泣)
三神先生頑張って~。