愛しい人からの電話
ホームルームの時、退屈で外をボーと眺めていたら柊君が歩いているのが見えた。
隣にはユルく髪を巻いた美人。
気になる。
その時、八尾君が言った。
「あれ、むこうの生徒会副会長さんだね。」
私は八尾君の方を見た。
「あっ、まだ怒ってる?」
八尾君はシュンとしてしまった。
「あの日以外は怒って無いよ!」
「えっ!」
私の言葉に八尾君は驚いていた。
「あの時ムカついただけだよ。」
「まだ怒ってるのかと思ってたから、話しかけたら駄目かなって思ってた。」
「八尾君は優しいなー。」
私はクスクスと笑った。
八尾君もなんだか嬉しそうだ。
気を取り直して、あの美人さんはきっとライバルキャラだと思う。
イコール、ヒロインちゃんが柊君を攻略出来なかった場合に一番彼女になりやすい相手って事である。
「生徒会副会長さん………」
私はあの美人さんの事も見極めなければならない。
生徒会室の前で奏ちゃんを捕まえて聴いたところ、柊君の隣を歩く美人さんの名前は十河麗香さんと言うらしい。
良いところのお嬢さんでひそかに柊君に想いをよせているのだと奏ちゃんが教えてくれた。
さっきも言ったが茶色がかった髪の毛をユルく巻いていて明るい茶色の瞳、その瞳をタレ目がおおっている。
おっとりとした綺麗さと可愛らしさを兼ね備えたハイパー美人だ。
柊君はあの人と付き合うのかな?
なんだかしんみりしてきてしまった。
「それより、生徒会室に生徒会役員以外の子が出入し始めたの。」
奏ちゃんは何だか腑に落ちないと呟いた。
「……だれ?」
「楓ちゃんと同じクラスの数井さん!ほら、夏休みに入る前日に合同行事のダンスパーティーがあるから、その準備が忙しいのもわかるし助かるんだけど………良い子すぎてなにたくらんでるか解らないからあんまり………好きになれない…私嫌な女だよね!」
それはゲームのライバルキャラとして当然の感情ってやつではないかな?
ヒロインちゃん頑張ってるな~。
しかし、流石ゲームの世界!
合同行事にダンスパーティー?
そう言えば体育の授業のダンスが社交ダンスだったな~。
ダンスは必修科目になったらしいけど、社交ダンスではないはずだ!
兎に角ダンスパーティーの会場が私らの学校だから、特に忙しいみたいだ。
「私に出来ることあったら言ってね!手伝うから。」
「ありがとう~!助かるよ!」
よくよく考えれば今まさに生徒会室の前で雑談をむさぼって邪魔している私の言えたセリフではない。
「今、一条会長と十河副会長が来てるからお茶の用意をしにきたのに長話しちゃった。」
「お茶の用意、私がしようか?お茶菓子持ってるよ!」
「良いの?お願い!」
奏ちゃんは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
私は職員室に行って事情を説明して、紅茶のセットを受けとると生徒会室に急いだ。
ドアをノックして中に入ると奏ちゃん以外の人が驚いた顔をした。
「彼女も生徒会メンバーではございませんわよね?」
美人さんに睨まれてた。
私は美人さんに頭を下げてから言った。
「家庭科部一年西田と申します。私はお茶の用意をしに来ただけなので、生徒会とは関係ありません。」
私は生徒会室の中の人には目もくれずお茶の用意をした。
お茶菓子は昨日焼いたクッキーだ。
ジップパックされたクッキーを皿にのせてテーブルにおく。
お茶を人数分入れたが、美人さんはにっこりと笑って言った。
「私、オーガニックな物しか受け付けないの!ごめんなさいね。」
面倒くせー!
私は顔に出ないように、笑顔を作った。
「十河が飲まないなら、お前が飲んでけ。」
突然私の頭をポンポンしながら柊君が言った言葉に美人の目が見開かれた。
怖いよ~!
柊君はお茶を片手にクッキーを頬張った。
「疲れてるときは甘いもんにかぎるな!」
柊君が、次のクッキーに手をのばすと他の人達も集まってお茶とクッキーを楽しんだ。
ワンコ先輩が寄ってきて言った。
「ニッシーありがとう。」
「いえいえ、奏ちゃんのために用意したものですから!」
「………もしかして、まだ怒ってる?」
私はにっこり笑顔を作った。
「…………ごめんなさい。」
ワンコ先輩に謝罪され私はクスクス笑って言った。
「怒ってませんよ。」
「………ありがとう。」
私はまたクスクス笑った。
「あら、七宮会長の彼女さんだったんですか。」
美人さんの言葉に私はフリーズした。
何言ってんだこの人?
ワンコ先輩はただの犬……いやいや、ただの先輩だ。
ワンコ先輩は顔を真っ赤にして否定した。
「ち、違うよ!あの、違くて、」
純情さんは動揺が半端ない。
「全然そんなんじゃないです!ただの先輩ですよ!」
私は美人さんに笑顔を向けた。
「そうなの?とってもお似合いよ!」
美人さんは私とワンコ先輩を飼い主と犬にしたいらしい。
「いやいや私のような、ちんちくりん生徒会メンバーの方々に似合うはずないですよ!数井さんの方がお似合いかと思いますけど?」
私の言葉に美人さんは数井さんを見た。
冷たい視線に数井さんは怯えて見せた。
何をやらかして美人さんに嫌われたんだ?
「西田、このクッキーもらって帰って良いか?」
「うん、良いけど?」
「この間もらったクッキーを弟が気に入ったらしくて、貰えたら貰ってきてほしいと頼まれた。」
突然の二階堂君の申し出に、何だか嬉しくなって笑顔で頷いた。
「喜んでくれるなら!また作ってくるね!」
二階堂君がフリーズした気がしたが私はお菓子を誉められたのが嬉しくてニマニマしてしまった。
その時だった。
携帯が着信を知らせた。
携帯の画面を見て飛び上がった。
お父さんだ!
私はすぐに携帯に出た。
「浩ちゃん!」
私がお父さんを浩ちゃんと呼ぶのは家の外に居る時だ。
年頃の女の子がお父さんと電話してるなんて、過保護な親だと思われてしまうから外では浩ちゃんと呼んでほしいとお父さんに頼まれたからだ。
『最近会えなかったから電話してみたんだけど…今大丈夫か?』
「うん!全然平気!浩ちゃんの声が聞けて嬉しい!」
私は思わず笑顔を作った。
『最近…どうだ?』
「楽しいよ。友達たくさんできたよ。浩ちゃん…………夜中でも良いから顔が見たいよ………無理かな?」
『今はまだ日本じゃないんだ…ごめんな…帰ってきたら…起こすから、少し話そう』
お父さんの言葉に泣きそうになる。
「…嬉しい!」
『今日じゅうには無理だが、ちゃんと話をしような!』
「うん!浩ちゃん…気をつけてね!」
『ああ、ありがとうな!愛してる。家をたのんだよ。』
電話の時にお父さんは愛してるって言ってくれる。
「私も愛してる。」
私は嬉しくて電話が切れたのと同時に奏ちゃんに抱きついた。
「ヤバイ、にやにやしちゃう。」
奏ちゃんは浩ちゃんが私のお父さんだと知っている。
「良いじゃない、にやにやしちゃいなさい。………嬉しそうね。ここ最近で一番ね。」
「だって、浩ちゃんが愛してるって………きゃー。」
柊君に前に言われた事がある。
お父さんと話している時が一番女の子らしくて可愛い顔をするって。
仕方がないと思う。
お父さんに愛してるって言って貰えたら私はあの家にいて良いと言われている気がして満たされる。
私の居場所。
私が居ることで、お父さんはあの家に帰って来れるのだと思える。
「ああ、大好きだよ~。」
私はお父さんを思い浮かべてうっとりした。
楓ちゃんお父さん大好きです!
はしゃいでる楓ちゃんの回りで柊君以外の男子が青くなっているなんて楓ちゃんは気がつく訳がないですよね!
この一見で、ヒロインちゃんと美人さんからライバル視されなくなるなんて楓ちゃんは知らないでしょうね。