"可愛い小悪魔"一条柊目線
生徒会の集まりで再び七宮と会うことになった。
「やあ、一条よく来たな!」
七宮の反応にイラっとしてしまう。
顔に出ないように表情筋を殺す。
楓から一部始終をきいていたが安心なんてされては困る。
「こないだは顔色が悪かったが大丈夫だったか?」
七宮は苦笑いを浮かべて頭をかいた。
「ああ、もう大丈夫だよ。」
大丈夫でいてもらっては困る。
楓にちょっかい出すなとか言える立場でない事がムカつく。
「此方の書類なのですが…」
七宮の隣の席から立ち上がり書類を俺に差し出したのは、こっちの学校の生徒会副会長の六木だった。
今日は生徒会メンバーが揃っている。
彼女から書類を受け取ろうとしたその時、彼女は俺の指に目線をうつした。
そこでようやく自分の指に指輪がはまっていることに気が付いた。
「やべ、はずし忘れた。」
俺が指輪を外そうとすると、六木が俺の顔を見上げた。
「貴方が、ひぃ様ですか?」
俺は驚いた顔をしてしまった。
「そうですか!いつもカエちゃんがお世話になっているようでありがとうございます!」
楓の事をカエちゃんと言う呼び方をする人間を俺は一人しか知らない。
「六木さんが奏ちゃんだったんですね!」
楓の話の中に頻繁に出てくる先輩。
楓の話から、楓に愛情を与えてくれている人の一人だと認識している。
「俺だってよくわかりましたね?」
何だか、失礼がないように自分が使かっている敬語が胡散臭い物に感じてしまう。
「その指輪の葉っぱ、カエちゃんが持ってる飴ケースにもありましたよね。」
あれを見られたのは何だか恥ずかしい気がする。
「魔除けなんですってね。」
彼女の笑顔に、全てをさとられていると確信してしまった。
「………お察しの通りです。」
彼女は柔らかい笑顔を俺に向けた。
「そうですか!安心しました。」
彼女の言葉に彼女が俺の味方だとさとった。
「これからも宜しくお願いします。」
「はい、勿論!」
俺は彼女と笑顔を交わしあった。
そんな俺達の様子を見ていた七宮が怪訝そうな顔をした。
「カエちゃんってニッシーの事だよね?」
「そうですよ!春人君からもらった飴をカエちゃんが持ち歩いているって話です!」
彼女は話を切り替えるのがうまい。
「あれ?喜んでくれてるなら良かった。」
七宮が嬉しそうに笑うと六木はさらに嬉しそうに笑って言った。
「ええ、一条会長が専用のケースをくれたのが嬉しくてしょうがないみたいですよね!」
七宮の笑顔が凍りついた。
「一条会長がプレゼントした中でも一番喜んでますよ。」
初耳だ。
顔がニヤニヤしないように、本日2回目の表情筋を殺す。
「俺がやったものまで、詳しいですね。」
「カエちゃんが教えてくれますから!その中でも飴ケースはデザインがかなり気に入ってるみたいです。メールで力説されましたから。」
「そう言えば俺にお礼メールしてきたの初めてか?」
俺は思い出して呟いた。
「そうなんですか?カエちゃんを喜ばす天才でしょ?一条会長ほどカエちゃんの好みをわかってる人居ないと思いますけど?」
「そんなことまで話してるんですか?」
「?」
最近同じことを楓に言ったが別にその事では無いらしい。
「いえ、忘れてください。」
俺が寒いこと言った類いは話していないと信じよう。
俺が羞恥心で悶絶するはめになる。
「ゲームの中の人みたいですよね!」
「楓には3次元が2次元みたいなこと言ったら引くって言われますけど?」
「カエちゃんらしいです。」
六木がクスクス笑う。
「それに、ここに居る男達はカエちゃん怒らせて目も合わせてもらえてない奴らしか居ないですから!」
「ああ、夢見が悪くてイライラして怒鳴って発散したってやつか?」
そのまま無視されてりゃ良いのに。
なんて………病んでるな………
「一条はニッシーのお兄さんみたいな存在だって聴いたけど、そんなに仲良しなの?」
七宮は話をそらそうとしているようだった。
「仲良いですよ」
「仲良いぞ」
六木とハモってしまった。
六木はどこまで俺達の事を知っているのだろう?
そんなことを思った時俺の胸ポケットに入っていた携帯がメールを受信した。
「ちょっとすみません。」
こんな時間に携帯に連絡してくるのは楓ぐらいだ。
だがメールの差出人を見て嫌な予感がした。
メールに付いている画像を見て愕然とした。
「っんだこりゃ。」
怒りが一気に沸き上がる。
俺は急いで差出人に電話をかけた。
差出人は俺の親父だ。
『はいは~い!メール見たかい?楓ちゃん喜んでくれ…』
「死ね!」
親父が全ていい終わる前に冷たくいいはなつ。
『酷くない?』
「死んでわびろ。」
俺は画像を思い出して怒りに震えた。
「今すぐ、あれをなんとかしろ」
俺に送られてきた画像、それは家の前に敷き詰められた薔薇の花の絨毯。
ちなみに楓の家の玄関先である。
『何で?綺麗だろ!楓ちゃん喜んで…』
「ふざけんな!」
『ちょっとちょっと、最後まで言わせてよ~!』
俺は眉間にシワを寄せた
「良いから早く撤去しろ!」
『お前にあげたんじゃないんだけど?』
「たのむから楓に迷惑をかけるな!」
生徒会室に居たメンバーが一声にこっちを見た。
俺は奴等からの視線から逃げるように部屋のすみに移動した。
『迷惑じゃないだろ?高かったんだぞ!』
「無駄金使ってんじゃねーよ!返品しろ!」
『楓ちゃんなら喜んでくれるはず!』
怒りで携帯を壁に投げつけたくなったがグッとこらえて溜め息を吐き出す。
「なら…どうやって…家に入るんだよ糞野郎!」
冷静になりきれず、最後は怒鳴り付けていた。
『あっ!?』
「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!」
『え~と…ごめんなさい…』
「俺じゃなくて楓に謝れ!そして死ね!」
『柊最近俺に容赦ないよね…』
「あんたがろくなことしねーからだろ!」
冷静になるために大きく深呼吸する。
「今すぐ業者を呼び戻せ、あれをどうにかしろ!」
『………直ぐには無理…たのんでみるけど…アーティストだからさ!』
血管が2~3本切れた気がする。
「今すぐ撤去しないなら、お前の友達の拙作は俺がむしってごみ袋に積めてやるから覚悟しろと伝えろ!」
そう叫んだのと、生徒会室のドアがノックされてドアが開いたのが同時だった。
「わ~半端なくキレてる。」
入ってきたのは楓だった。
俺は右手を立てて謝るジェスチャーをした。
「大丈夫だよ!いつ家に入れるって?」
『明日には片付けるって。それまでむしらないでよ!』
楓の言葉と親父の言葉が重なる。
「死ね!」
俺は携帯を切った。
「で?」
「う…すまん…明日だって」
申し訳なくて居たたまれない。
「明日休みで良かったよ。」
「本当にすまん…」
楓は六木のもとに向かうと言った。
「奏ちゃん、今日泊まりにいって良い?」
六木は申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、今日親戚が来てるから無理かな。」
「そっか…」
俺は当たり前に言った。
「うちに泊まれば良いだろ、親父が迷惑をかけてる訳だし。」
その場に居た楓以外の奴等の視線が突き刺さっる。
「へ?なぜにらむ?」
六木は楓を抱き締めると2歩下がった。
「流石にお泊まりは駄目では無いでしょうか?」
六木の言葉に自分が凄いことを言ってしまったのだと気が付いた。
楓もたまにうちに泊まる事を六木に話していないらしい。
どう説明したものか?
「ひぃ様…要君がこんなことするって事は、要君日本に居るんでしょ?要君が居るときに泊まるの面倒臭い。」
「いや、親父はたぶん帰って来ないだろ。友達連れてるって言ってたから、どっかのホテルで豪遊だろ?無駄金使いやがって………いや、六木は楓がうちに泊まるのはどうか?って意味解ってないな……」
「だって、今さら。」
「いや、六木にその辺の話をしてないお前が悪い。」
楓は首を傾げると、六木に向かって言った。
「奏ちゃん、ひぃ様のうちには私の部屋があるんだよ!」
「それだけ言うと意味わからんな」
楓は俺に向かってふくれてみせる。
可愛い。
「うちの親が楓のために部屋を用意してるんだ。ちゃんと鍵も付いてるから安心して良い。」
六木は俺の顔を見上げた。
「ちょっと良いかしら?」
六木に部屋のすみに呼ばれて密談を始めた。
「貴方はカエちゃんに手を出さない自信はあるの?」
「………今は。」
俺は苦笑いを浮かべて言った。
「楓は俺を兄貴ぐらいにしか思ってないし、それを裏切ってもたらされる結果は最悪なものしか想像できない。だから、まだ手なんか出せないよ。」
「出す気はあるけど、今じゃないって事ですか?」
結構はっきり言うやつだな。
「そうです。」
彼女はしばらく悩んでから言った。
「それを信じろと?」
俺は楓の方に目を向けた。
楓は首を傾げて見せる。
「楓に嫌われるのが一番痛い。」
俺の言葉に六木は深く溜め息をついた。
「わかりました。貴方を信じます!」
六木は楓のところまでいくと楓の頭を優しく撫でた。
「一条会長のお家にはよく行くの?」
「そうだね!ひぃ様がうちにいる方が多いけど。最近は毎日夕飯を一緒に食べてるよ。」
回りの男達がショックをうけている。
「かって知ったるお家なんですね!」
「うん!」
「わかったわ、一条会長のお家にご迷惑をかけては駄目ですよ。」
お前は楓の母親か?って突っ込みたいがのみこんだ。
「はい!ひぃ様に迷惑かけません。」
「楓は迷惑かけても良いんだぞ!元々親父のせいだしな。」
俺の言葉に楓は俺を見上げた。
「かけないよ!ひぃ様に嫌われたら嫌だもん。」
俺は今日3度目の表情筋を殺した。
柊君は試されているのか?
柊君にだけで全力で甘えるようになってきた?
兄ポジだけど………