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二話 仮異世界最終日~異常な難易度と覚醒~

起床し、廊下を歩いていると昨日よりも何だか賑やかな気がした。

そして、昨日と同様にグロスマンは唐突に現れた。

「よぉ。気分はどうだ」

「悪くはないかな」

「そりゃよかった」

ここで明の後ろを見た。

正確には明の後ろに暗い雰囲気を醸し出している。

朝起きてからずっとこんな感じでグデッとしている。

「大丈夫か?」

「だるい。疲れた。何だかお腹のあたりがキューってする」

「そりゃあ腹減ってんだな」

「……かもね」

返事をする元気もないようだ。

これ以上聞いても機嫌が悪くなりそうなので明はグロスマンに話しかけた。

「今日は何やるんだ。最終日だし色々あるんだろ?」

「守護者イベントが終わったら戦闘だけだ」

「……嘘だろ。もっと簡単で優しいのないのかよ」

「これは転生の試験だからな。難易度もショボイ……はずなんだがなぁ」

言いながらグロスマンは頬をポリポリとかき始めた。

「えっ」

「まぁ、かなり適当なんだ。おっ、そろそろだ。始まるぞ」

まだ朝食すら済ませていない。準備も糞も出来てない寝起きの状態で辺りが歪み始めた。

自体が一刻と変化していく中で明は動揺していた。

「おいおいおいおいおい!」


「俺らの時もそうだった。形に差異はあれど、大体同じ作戦会議を終えた次の瞬間。戦場に飛ばされる」

グロスマンの言う通り、明達は作戦会議室に飛ばされていた。

直ぐにベラ・宗十郎・ルパートが集まってきた。

集まると同時に明達は部屋の端に寄っていった。

本格的な戦いが始まる。そう思って後ろにもたれ掛ったまま動かないリベルテの肩を揺すった。

「…………」

しかし、反応はなかった。

「こんな状況で寝てるのか。目を覚ませ守護者様!」

「いや、止せ明」

グロスマンの静止に明は従った。

手を止めたからか、リベルテが倒れ掛かってきた。

「何でこんなにこいつは疲労してるんだ?」

彼女を受け止めながら言う明の疑問に答えたのはベラだった。

「この試験は君自身がクリアしなきゃ意味がない。だから守護者は必ず主に全ての力を譲渡するんだ。最終試験は彼女を守りながら戦うのも課題だよ」

「そんな事をこいつが?」


信じられないというように明はリベルテを見た。

「そう疑ってやるな。彼女も明のパートナーだろ」

グロスマンの言葉に宗十郎が続いた。

「当然我々もだ。即戦力。楽しみにしているよ。ルパート、お前も何か言ってやれ」

「まっ、がんばれ」

ありがとう。そう言いかけたが、それはグロスマンに遮られた。

「礼は最後でいい。この試験を乗り切ってからでな。あそこ見えるか?」

グロスマンはウーシャ達がいる方を指さした。

そこには。

「……俺やみんながいる」


「そうだ。俺達もここで作戦会議が出来るってわけだ。時間がない。簡単な会議を始めよう」

「おう!」

「明。鏡の中の出来事を具体的に端的に表現してみてくれ」

明は少し考えてからこう言った。

「……戦争かな」

「さて、テーマもわかった事だし、さっくり終わらせよう」

大それたものではなく、本当に簡単な作戦だった。

グロスマンが明と共に戦い、ベラ・宗十郎・ルパートがダークエルフを叩く。

そんな作戦だ。

本来この試験は正面ガチンコ対決で簡単に乗り切れる程度の難易度らしい。


だから楽にしていい。そう明は言われた。

作戦時間が余って暇になった俺達は目の前で行われているイベントに目を向けた。

元々この時間は作戦というよりは、緊張をほぐす為の準備時間だったりする。

リラックスするはずなのだが、何だか様子がおかしかった。

目の前の光景に今までの優しい雰囲気から一転してみんな険しい表情を浮かべている。

そして次々と口を開き始めた。

最初に口を開いたのはベラだった。


「記録にもない初めて見るパターンだけど、どういう事?グロスマン」

「お前だってわかってんだろ。ダークエルフの所為でただでさえ苦戦するのに白騎士、つまりイレギュラーとの接触だ。とんでもないのが来るぞ」

どれも明の不安を煽るようなものばかりだった。

そんな言葉に不安を覚えていると、明の頭にポンと手が置かれた。

「どうやらキーモンスターの親友絡みの覚醒イベントらしいぜ。ったく。ここで叩ければ楽なんだがな。作戦会議中に覚醒すんなっつうの」


今回のイベントは、悲劇がテーマのようだ。

明達の視線の先には、親友を目の前で殺されて泣いているウーシュがいた。

あいつは白騎士に囲まれている。

「ほら、もうイベントが終わったぞ。向こうをよく見てみろ」

グロスマンが指を指す。

ベラ。宗十郎。ルパートは既に配置についていた。

指された先にいるウーシュは、白の騎士に殺された友を抱え次の瞬間に姿を消した。

すると、他の兵士達が消え、ナーシャの咆哮が周囲に木霊した。


ナーシャは血だらけになり、肌の色を黒くし、尖り耳となっていた。

そのナーシャに一斉にベラ・宗十郎・ルパートが襲い掛かった。

みんなは光と共に武器を出現させる。

それを呆然と見ている明にグロスマンは言う。

「すごいだろ。ベラはペンダントだから魔法型。武器を持っている二人は武装型の戦士だお前も時期に俺達の仲間になる。手助け料金はギルド加入わかったか?」

「お、おう」

少しビビりながら明は頷いた。


それを見たグロスマンは両手の拳を打ち鳴らした。

「俺は重力使いでね。重くしたり、軽くしたりできる。この殴り武器で特技は荷物運び。改めてよろしくな。明」

大きかった。グロスマンの背中はとんでもなく大きくて。そして、カッコよかった。

戦いを見てもいないのに何を言ってるんだと思うが、こんな経験を一度もしたことのない明は、純粋にそう思った。

「来る時は一瞬だ。気を引き締めろよ」

「わかった」

明は姿勢を低くしてその時を待った。

何時でも動けるように足に力を溜めて。


さっき教わった通りに動けばいいんだ。いったん離れてグロスマンがウーシュの隙を作った時に一撃で殺して終わり。頼りきりだけど、これが安全だからとみんなに言われた。

実際明自身も自分ではできないと思っているし、みんなも今回は魔力の密度が異常だから一人では無理と言っていた。

大丈夫。大丈夫。そう心の中で自分を奮い立たせても、身体の震えが止まる事はなかった。

ふわっ。

「えっ」


そんな明の肩が温かみを帯びた。

「大丈夫?私がついてるから」

守護者であるリベルテだった。

「お前!安全な場所に居ろって言ったろ」

「でも心配だったから」

リベルテは力なく笑った。

当然だ。彼女は今力がない。

立っているのがやっとなくらい力を明に貸してしまったんだ。

もう今のリベルテは戦力にはならない。

「ありがとう。震えが止まった」

「本当ね」

「まったく。突っぱねたり、優しくなったり忙しいな」

「貴方に死なれたら困るからね」

「はいはい。アンタを外に連れ出せるように頑張りますよ」


和やかに談笑していた。

しかし……。

――ゾクッ――

本当に一瞬だった。

「!?リベルテッ!早く逃げろ!」

とっさに明は動いた。

逃げる事も戦う事も忘れてリベルテを守るために。

両手を突き出してリベルテをこの場から退かす。

それ自体には成功した。

あまり加減できなかったから十メートルくらい吹っ飛んだ事だろう。

明はそれを見てほっとした。一瞬だけ。

ズバッ!

宙に舞う明の両手。

鮮血と共にそれは落ち、明自身も崩れ落ちた。

「明!」

リベルテの叫び声が響いた。

少し離れたところでグロスマンが舌打ちをした。

「糞っ!こんなのありかよ!この白騎士まで加勢するなんて。ふざけんなよオラァァァァァァ!!」

怒号と共に白の騎士を粉砕するグロスマン。


直ぐに駆け付けようと駆け出すが、行く手を十本の剣が妨げた。

「どんだけ出てくるんだよこいつは!」

悪態をつくグロスマン。

その視線の先には、両腕を失い大量の血を流している明を無視してリベルテの方へと向かうウーシャの姿があった。

もう明は死んだものとして見たのだろう。

ウーシャはやった事とは反対の白の王子様のような恰好をして聖剣のようなものを握っていた。

真っ直ぐに向かってくるウーシャに向けてリベルテは睨みながら歩を進めた。

「怖気づくとでも思ったの?返り討ちにしてやるんだから」

よろめきながらリベルテは歩く。

走る力さえ残っていないのに懸命に立ち向かった。

しかし、ウーシャが待ってくれるはずもなく、奴は地を蹴って駆け出した。

もう一秒後にはリベルテは真っ二つだろう。

この場にいる誰もがそう思った。

しかし……。

――コォォォォォォォォォォォォ――


数センチ。あとリベルテまで数センチのところでウーシャが止まっていた。

苦しそうにもがくウーシャ。

まるで空中に縛り付けられているようだ。

「っ」

リベルテは息を呑んだ。

そして、それはこの場にいる全員がそうだった。

「そうだよなぁ!そうこなくっちゃなぁ!」

吠えると共にグロスマンの白騎士討伐スピードが上がった。

リベルテは震える自分の手を握り締めてウーシャの背後にいる者を見た。

「嘘……」

視線の先には、もう死んだと思われた明がいた。

黒の装束に身を包み、顔の上半分が黒と金のアイマスクで覆われている。

とんでもない瘴気を放ちながら大口を開けて彼は吸い込んでいた。

ウーシャの力その物を。

吸うにつれて徐々に両手が再生していく。


完全に再生した時、そこに明はいなかった。

――ザンッ――

一閃。

いつの間にか手に持っていたハルバートにより、明はウーシャを真っ二つに切り裂いた。

そして、空いている手を胸元まで持ってくると、また何かを吸い集め始めた。

今度はウーシャの死体全てだった。

手の平に球体状にウーシャの死体を纏めると、明はそれを吸い込んだ。

「スカアハ。ケルト神話の呪と影の武人」

この一部始終を見たリベルテは呆然と呟いた。

フラッ。

吸い込み終わると、明の変身は解けて元の姿に戻ると同時に崩れ落ちた。

「明!」

急いで倒れた明の元へ駆けていくリベルテ。

抱き起すと同時に彼女は明の両腕を見た。

「やっぱり治ってる。これが明の力……」


それをグロスマン達は遠くから眺めていた。

ダークエルフや白騎士は、ウーシャが居なくなると同時に退散したようだ。

「こりゃ、とんでもない物を引き当てたんじゃないか?」

グロスマンの問いかけにベラは小さく笑った。

「無駄にならなくてよかったね」

「本当にな」


『神田明様。この時を持って本試験に合格した事を認めます。新たなる人生を堪能してください。世界転生機関』



~世界転生機関直営ギルド・クロコダイル支部内~


規模は小さいが小奇麗な室内。誰かのこだわりなのかインテリアなんかもしっかりしている。

そこに一人の少女がいた。

彼女は怒り、今にも顔で茶を沸かしそうな勢いだった。

「何なのあの人達!何故私を置いていく。私の方が優秀なはずなのに!」

どうやら置いていかれた事に怒っている様だ。

「戦力補強はもちろんしていいです。誰であろうと。しかし、監視役である私に無断で何て……。各異世界の調査。問題のある異世界の調律案件も残ってるのに(ブツブツ」


綺麗な黒髪を揺らし、少女はむくれた顔で大きく息を吸い込んだ。

「あんの問題児共めぇぇぇぇぇぇぇー!!」


日頃の鬱憤を吐き出す少女の叫びは、ギルドの外にまで響き渡った。

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